カーン… カーン… カーン… 弔いの鐘が鳴る。 ああ気が滅入る、こういう場はいつまでも苦手だ。 海辺に建つ白い教会、という出来過ぎの光景にいたく感動して、暇があれば訪れる場所だった。それがこうして用事で来るなどと、(目出度い事以外なら)あってはならない。 付き合いと言えるほどの取引はなかった。 ただ隣に立つ男が故人とは浅からぬ縁があるようだ。どことなく焦点の合わない視線を巡らす、その横顔に木々の影が映る。 こうして少し、ぼやけた表情をすると本当に綺麗な男だった。 少年の彼はいつでも睨むような尖った顔をして。 成長した今は、ファミリーを支える柱として厳つい顔をしている。その視線の鋭さ、ただ者ではない気配に誰も彼も怯える。 だから知らないか。 ………否、 「少なくとも女は上等な獲物に敏感だよな…」 「どうし、ました?」 葬式という特殊な場で罪作りにも女性の視線を一身に集めている男は、主の独り言に敏感に反応した。 「こっちの話」 教会の脇の楡の木の下にひっそりと立つ平凡で特徴のない顔立ちをした東洋人を、イタリア全土、留まらず世界、屈指のマフィアのボスなどと誰も思わない筈だ。存在感が無いことにかけては大層自信がある。 しかしその隣に添うようにして立つ(半)イタリア人の青年は違う。 献花を済ませていない。なんて上の空だろうか。 そんなにも心奪われる出来事だったのだろうか? 「君はどこにいても目立ってしまうんだな」 視線の先にある胸元。まるで死で飾られているような白い花。 掴む。ぐしゃりと潰す。辛気くさい色、場所、潮の香。 何もかもが気に入らなかった。 獄寺がすまなそうにそっと言い出した珍しい一言。 知り合いが亡くなったので………と言う。詳しく聞き出してみれば、知らぬ名ではなかった。そこそこのファミリーで幹部を務め、引退して久しいが若い衆に慕われていた。 決して生臭い死ではなく、老衰で眠るように死んだという。 マフィアの最後と考えれば、羨ましくなるほど安らかな終わりではないだろうか。 自分も行かねばならないのだと答えると、遠慮がちな空気はそのままで控えめな笑みを浮かべでは一緒に、と言った。呟いた。聞こえ、づらかった。 それほどまでに声が小さかったのだ――― それほどまでにショックだったのか。 意外だ。獄寺の様子や反応に垣間見るイタリアでの少年期はかなり悲惨で、荒んでいる。 帰国してもしばらくは牽制するような派手な抗争に進んで自ら乗り出したり、知り合いを会っては蹴飛ばす(時には、吹き飛ばす)毎日だったのだ。 異国人である新ボスの地盤固めに余念がないのだと表せばそれまで。 しかし近い場所で見ていた己は獄寺のあからさまな母国への敵意、正確には過去への敵意を感じ取っていた。実は好ましくさえ、思っている。 (彼はボンゴレの人間だよ………つまりは) 「10代目?」 (俺、の) 「獄寺」 ファミリーが集まりだした。無論、ボンゴレではない。此処には俺と彼の2人きりだった。 表向き関わりはないが、少々きな臭いことになっている別の。 彼等の視線を平然と受け止め、心の中でそっと苦笑する。俺も面の皮が厚くなったもんだ。 ふんだんにまぶされた侮蔑と恐怖に無感動な鉄面皮を返し、冷たく呼ぶ。 「帰る。キーを」 「…は」 「帰りは俺が運転する」 壮絶なカーチェイスの末、無事帰宅した。 海沿いの連続したカーブで敵方の車を3台潰した満足に葬式の不快感は払拭され、笑みすら浮かぶ。屋敷に帰るなり息をきらせて駆けてくる部下に数発の穴が開いたフェラーリを任せる。 「ボス、これは」 「キャバッローネのボスに詫び状を出すべきかな。プレゼントをこんなにしてしまった」 「ご自分………で?あの、」 「引きずり出せ。使い物にならない」 顎をしゃくる。部下の目が見開かれる。 まだ銃身の熱い銃を抱えたまま、獄寺は助手席で眠るように目を閉じていた。彼の放った銃弾は確実に追跡する車のタイヤを打ち抜き奈落に落とし、運転手の脳を弾け飛ばした。 だがその意識はきっと夢をみているようにぼうとしているのだろう。 「山本を呼んで。葬式の日にこの始末さ。礼儀を知らない者たちに、少し灸を据えてやらなきゃね………」 いつもならば気にするはずのもう一人の側近の名にすら、獄寺は反応しなかった。 駄目なのか。 2005.11.9 up next |