「使えないんだ。休暇を出すつもりだよ」 「お前にしちゃ早い判断だな。落ち着け」 「落ち着いてる」 「そうは見えねえ」 全てを見通す鋭い目線が心まで食い込むようで、唇を噛んだ。 口を閉じていても、目を閉じてみても、この相手だけはなにごとも隠し通すことが出来ない。 「今戻さなければ、アイツは一生使い物にならない」 ひょっとしたら、未来すら見通す力を持っているかも。 「なんであのじいさんが死んだだけでそんな大事になるの」 「獄寺は執念深い」 知ってるよ。 口の中で呟く。言葉は重くのしかかった。 「理由が気になるなら本人に聞いてみろ。今奴に抜けられる訳にはいかねえ………それに、ふぬけになったって噂が流れた途端穴だらけにされちまうだろうよ」 色々前科があるからな、と言って笑う。 笑い事ではないが、笑いたくなる気持ちも分かる。 あの彼が、今では夜ごとアルコールと人肌に溺れ、逃げの一手とは。 「随分情けない話ぢゃないか」 リボーンは黒い目を僅かに見開き、不思議そうな口調で言う。 「お前がか?」 「なん…で」 「失いたくないなら腹を決めろ。正直なところ、お前しかいないんだ………何を勿体ぶってる?女じゃあるまいし」 「別に」 いやみか、最低なやつだ。 「そんなんじゃないよ」 獄寺は自分に依存している。そんな相手に全てを投げ出したら、彼は失望してしまうだろう。 「そんなんじゃない」 「お前はいつまでも厄介なガキだ」 嘲笑は本気ではなく、微かな愉悦すら漂わせている。黒衣の殺し屋のほんの少し漏れだした本音。 不意に抱きしめられたい衝動に駆られた。それも、本能的に。まるで女のように。 何もかも誰かに預けきりたい。 「そんな目をするなよ。特に、あいつの前では」 「出来ないってば」 すえたような匂いと、年中窓など開けないせいで澱んだ空気の中に下りていく。 ゆっくりとした足取りで進む。店内に人は充満し、口々に囀る。しかしそれも音楽にかき消される。それは陽気なカンツォーネなどではなく、安っぽいユーロビートだ。フロアが震えるほどの大音量、リズムに身体が引きずり込まれる。 内臓を掴まれ揺らされているような。 奥の席でだらりと座っている獄寺を見つけた。 周りに数人女が群がり、代わる代わる愛撫を施す。一人は服と下着を下ろし胸を露わにし、半裸で彼の首にしがみついていた。グラスが取り交わされ、煙草に火が点く。 カチン、と響いたライターの音がやけに気に障った。 「やあ」 近づくと女が一斉に此方を見る。にっこりと笑顔を浮かべ手招きをし、さりげない仕草で金を握らせると服をなおして立ち上がった女が通りすがりに囁いた。 「彼勃たないの」 それはそうだ。 彼は君達を邪魔だと思っているんだよ。 「部屋は空いてる?」 「ああ………そういうこと」 誤解だったが、もうどちらでもいい。 ナックルを外し、コートのポケットに滑り込ませる。金属製のそれが両脇に落ちると丁度良く重さがかかり、程良く踏み足が落ち着く。 緩慢な仕草で顔を上げた獄寺の襟元を掴み、拳を入れた。腹に3発、顔に一発。 抵抗はない。ただ周囲が騒がしくなり、女の悲鳴が轟いた。(気にするものか。そういう生き物だ) 「目が覚めたかい?」 殊更優しく言ってやると、ようやく濁った目が瞬いた。 それを見て気付く、彼は酔っているのではない。 「部屋を貸して貰ったよ。少し話をしよう。」 「は……い…」 「掴まって」 肩を貸して、立ち上がらせる。獄寺は長身でよりかかられると体勢は少々きつかったが、重さは気にならなかった。 流石に出会った頃とは違う。(強制的に鍛えさせられたからだ) 引きつった顔で、それでも果敢に前へ立ち塞がった女に更に金を渡す。 「心配しないで。大事な部下なんだ」 2005.11.9 up next |