もっとずっと以前は、心が通い合っていると思った時もあった。 いつからかツナは獄寺と目を合わせなくなった。出かける時も別の者を連れて行くようになり、少しずつ距離が開いていったのだ。 その仕打ちに獄寺は苛立ち、絶望し、オレも連れて行ってくださいと激しく訴えたが、ツナの冷めた態度は変わることが無かった。決別は、案外早く訪れた。 「ど、どどどうしたの獄寺くん!」 慌てるツナの手がわたわたと宙を彷徨う。 子供っぽい仕草も、まるっきり素のままの表情も、今や全て遠い過去のものだった。ボスとして抑制されたその態度、行い、口調。 「ボスであらなければならない」という呪いは沢田綱吉の根の所まで達していたのであろうか―――獄寺は今更ながらツナの真意が気になった。最後に会った時も、彼等は儀式的な挨拶以外交わしていない。二人は間に壁があるように隔てられていた。 「………いえ、いえ。懐かしくて」 ツナは居心地悪そうな雰囲気を漂わせ、尻をモゾモゾとさせたが獄寺が笑いながら頬を拭い、もう一度笑ったのでほっと安心したようだった。 「でもさ、まあ将来はともかく―――ほっとしたかも。良かった、獄寺くん元気そうで………」 ちらり、と窓の外を見る。イタリアの街並みは10年前のツナには珍しいだろう。 自然口をついて出た蘊蓄に頷きながら、社交ではない感嘆を漏らす。その口元が不意に緊張し、ぱくぱくと開いたり閉じたりした。 「………ねえ」 目が驚愕に見開かれる。 指を指す。信じられない、というように首が振られ、最終的に泣きそうな半笑いに落ち着いた。 「アレ、その、もしかして」 遅まきながらおかしな気配を感じ、獄寺はタクシーの運転席を力任せに蹴った。 急停止した車体の前で爆発が起こった。威力はそれほどでもないが爆音と炎がもの凄い。 車から飛び出して転がり、今更に顔を上げた獄寺の目には隣接するビルの屋上で片足をかけ、傲然と顎をそらせる少年の姿が映った。 「リボーンッ!」 呆然とする間もなく隣のツナが怒鳴る。見た目が随分変わっていても、なんとなく察したらしい。この直感が幾度と無く訪れた命の危機を回避している。 「死んじゃうだろっ!危ないだろっ!!何するんだまったくゥゥッ?!?」 獄寺はツナの腕を引いて走り出した。ツナの姿に戸惑ったような顔をしたリボーンは直後にスイと姿を消した。彼の追跡の腕は獄寺も良く知っている―――遠からず追いつかれてしまうだろう。 「痛い早い怖いよォ獄寺くん止まって―――!?!」 「すみません!止まると死にます!」 「ええええええ」 「もうしわけありませんっ」 道路を越えてジグザグに走る。新しい近代的なオフィス街から一歩引っ込んだ旧市街に足を踏み入れた獄寺は、地下道トンネルに突っ込んだ。 古い水道をコンクリートと鉄筋で補強し、再利用している地下道は迷路のように入り組んでいる。携帯の電波も届かない。 夢中で走った。 ツナは舌を噛まないよう、今は黙ってついてきている。引きずられている、という方が正しかった。ゼエハアと荒い息を吐いて獄寺の腕に縋っていた。 「も、もういいだろ………大体、なんで逃げ、逃げる、あれ、りぼーん、」 「言ったでしょう、叱られてるって」 「命が危ない方の、叱る、なんだ」 嫌だなあ……… 顔を顰めるツナは自分の未来を憂えた。これだけ回避する気満々でも、未来はそうなってしまうのか?間に合わないのか? 「そもそも!もう5分は経ってるじゃないか」 一向に元に戻る気配のない自分を、手をまじまじと見詰めツナは不満そうに口を尖らせた。 蛍光灯に照らされ、空気のひんやりした地下道はやけに足音が響く。 自分の手を引きながら僅か先を行く獄寺も今は無口だ。聞かれたくない事なのかなと見当を付け、ツナは立ち止まりたい気持ちを飲み込んでテクテクとついていった。 2006.9.10 up next |