跪いた獄寺は困り切ってグウとかウウと唸っているツナから、名残惜しむように一歩一歩離れた。 しかし顔は俯いたまま、目線は下のまま。 埃と土で汚れたコンクリートに高そうなスーツの膝を擦りながら下がる。 「すみませんっ………」 ツナはそろそろ飽きが来ていた。 謝ってばかりだな。 そんで結局事情は話してくれない、と。 「こんな事を申し上げる事すらおこがましいのですが……っ」 獄寺くんも大人になったか………いやそりゃ10年も経ったら大人になるよ。なるけどさ。 なんか、寂しいよね。これが獄寺くんなら………いやもちろんこれも獄寺くんだけど、俺の知ってる獄寺くんは聞いてもないのにべらべらなんでもかんでも喋ってるんで、こう、歯切れの悪い彼は想像してもいなかった、というか。そういや、獄寺くん今なにやってんだろう。またその辺の不良から目線でカツアゲしてるのか、ダイナマイトの手入れしてるのか、ううんもっと平和的に鳩へエサやってるかもしれない。 ぼーっと、ツナは考え続けた。目の前でなにやらくっちゃべって土下座しまくっている獄寺ではなく、元の世界の獄寺を考えて徐々に遠い眼差しになっている。 「オレはっ………」 獄寺くん……… いつも学校で机に足あげちゃう獄寺くん……… テストは100点ばっかの獄寺くん……… 折角作ったパスタをリボーンが寝てて食わないって、ビアンキに追い掛けられてた獄寺くん……… 一目見るなり泡拭いて倒れて、ランボが積んだ積木タワーを崩壊させ、頭に一番キッツイ三角の角を当てたけどたんこぶも出来なかった獄寺くん……… 君は一体………何で出来ているんだ。あまりにも丈夫過ぎる。 ツナの思考はどんどん脇道に逸れていく。そういや獄寺くんって喧嘩っ早いせいかやたら怪我多いけど、翌日にはけろっとしてるよな………血ィ出てる怪我でも学校来たりして基本的構造が違いそうだよ。細胞の一つ一つが。爆発的な再生能力を持ち………なんつて。え? 「え?」 あ、全然聞いていなかった。 必死で言い募る獄寺(大人)の頭を改めて見下ろしたツナは慌てて其方に意識を戻す。 しかし、一生懸命なんだか言っているのに今更「ごめん今の聞いてなかったもう一度言ってくれる?」なんてーのも、デリカシー無さ過ぎる。 「うんうん」 とりあえず話を合わせておく。 獄寺はビクリと肩を振るわせ、たっぷりの間の後 「気付いて………おられたんですか………?」 え?なにが? 「ま、まあね」 分からないまま話を合わせていってしまう。 後先考えない行動だった。ツナにして珍しくない、人生行き当たりバッタリなるようになるさ。その時来たら考えよ。ヤバくなったら逃げだそう即行で……… 「もうしわけありません!!」 戻った。 またすみませんごめんなさいモウシワケアリマセンの無限ループに陥ったかとツナは警戒し、腰を浮かせる。 「獄寺くん………」 「10代目、オレは」 テクテクと歩み寄ってくるツナの足下へひれ伏しながら、獄寺は激しくしゃくりあげた。ああ。また。 また泣いてる。 「分かった、分かったから」 「オレは貴方がっ………」 ―――!!!! ボフワンとリリカルな音を立てて煙が立った。 這い蹲った獄寺は気付かない。頭上から3.5センチの所に革靴の先っちょがあることも、見下ろす眼差しが驚きと、一瞬のち諦めを含んで瞬いたことも。 「好きだっ……!!」 「………マジすか」 今其処で聞こえていたより低い声。 聞き覚えのある、馴染み深い声が。 がばり、と獄寺が顔を上げる。 「やあ」 ……… ……… ……… 「わあああああああ!!!!!?!」 「わあああとは何だよわああとは。失礼な。それとも………何か不都合でも?」 ブルブルブルと首を横へ振る獄寺の顔色は蒼白だ。 「そうか………君は。10年前の、小さな俺を相手に?」 「いえ、その、それは」 「変態か?」 「違いますよ!?」 「するってえとアレか……子供じゃないと勃たないとかそういう、類の」 「完全に誤解ですっ……!」 蒼白から真っ赤へ、最終的にプラス涙目になった獄寺を、10年後の沢田綱吉は至極クールな眼差しで見詰めている。 「いずれにしても、問題だ。今までの行状もある、大人しく一緒に来て貰おう」 「はい………」 ションボリと項垂れて続く獄寺は気付いていなかったが、大人ツナの耳はぴくぴくしている上真っ赤で、肩は細かく震えていた。 2006.9.15 up next |