春の夢

 

まだ肌寒い春の日、なのだと思う。
校舎の裏を駆けている。小学校か、中学か、高校なのか定かではない。憶えてない。
ザワザワと人の気配がして、生徒があちこちに立っている。
誰かを捜してる。
走る、走る、時々歩く。まだ見えない。
そんな中一段と目立つ人だかりが目の前を遮ってしまう。
でも行かないと。

すみません。
すみませんごめんなさいとおしてくださ い





ピピピピピピピピッ、と電子音が鳴っている。音がうるさいジリジリ目覚ましの代わりに買った新品だが、音がソフト過ぎて逆に起きられない。
ツナは仕方なく、渋々、ウーウー唸りながら起きあがり、目を擦った。カーテンは開いている。朝の日差しが部屋を照らし、涼しい風が―――
「………帰ってたのか」
「だらしのねぇツラ」
ぶちぬきたくなる、と冷たい口調で言い捨てたのは、黒スーツを纏った幼い少年だった。
まだ小学生だろう年齢に似合わず、物騒な気配を纏っている。彼は現役の殺し屋、またはツナの家庭教師である。
「起こしてくれてもいいじゃないか相変わらずケチだなリボーンは」
「テメーは相変わらず甘ったれか」
むう。
ツナはむくれたが、今朝は気分が良かった。それに、リボーンに何を言っても通じないのは分かっている。気にせず立ち上がり、ぐふわぁと大きなあくびをしてノビをする。
「甘ったれじゃないよー甘えさせてくれないくせに。ったく、居て欲しい時に居ないんだお前」
「はん?」
「俺フラれちゃったんだよ」
付き合っていた彼女が、幼少期からの夢だった国立公園のレンジャーになるべく大学をやめて渡米したのは先週の月曜だった。
いつもならじんわり浮かんでくるはずの涙がぴくりともしないので、ツナは拍子抜けしたが、リボーンはそれを見てそうダメージなさそうじゃねえかと返答した。
違うのだ。
昨日までは確かに、事あるごとシクシクメソメソわんわん泣いていたのに。

見た夢のせいだろうか。
ツナはさっきまで見ていた夢のことを思い出す。それは、いつの間にか定期的に見る夢だった。
多分、卒業式。ぼんやりと懐かしい校舎の裏を走って、誰かを捜す夢。
それを見た後は決まって気分がすっきりしていて、それでいて気になって、なんというか変な夢だ。

「………ってぇ、もーこんな時間?!やばっ」
「やれやれ、騒がしいったらねーぜ」
ばたばたと準備を開始したツナに、少年の呆れたような視線が向けられた。


2005.9.17 up


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