春の夢
不思議だ。とても不思議だ。
会っている時間は緊張で息苦しい程なのに、だから―――そのせいなのだろうか?
ツナにとっては大変ショックだった別れの日からこの方の、寝付きの悪さときたら本当に酷かった。1時間も布団の中でもぞもぞして、まだ眠れない。それが、ヒバリに会った日は布団に入って数十秒で眠りが訪れた新記録だ。
偶然かと思ったが、2度目(ありがたいやらありがたく………いや、ありがたいのか)会った後も同じだった。何をするでもなく当たり障りのない話題をちょこちょこと話したり、おそるおそる顔色を伺っているだけなのだが。
最初あれだけ頭の中を占領していた存在が、薄らぐどころか時にぽっかり忘れたりしてしまうのは、あまりにあの人の印象が強烈なせいだろうとツナは勝手かつ失礼な結論に達していた。
しかし、やはり数日会わないで居ると同じように、元のどんよりに戻ってしまう。
すげえ、ヒバリさん効果だ!俺の精神安定剤だよ!会ってるときは効果逆だけど。
感動の余りただでさえおろそかな講義も完全なうわの空で聞いていたらその昼休み、友人からとんでもないボディーブローをくらった。
「沢田、よかったな」
ポンと肩に手を置かれる。
「俺達密かに心配してたんだぜ」
ポスン…と頭に手を置かれる。
「元気に振る舞ってはいるけれど、お前実はめちゃめちゃ落ち込んでたんだもん」
ぐりぐりと撫でられる。完全に子供扱いされているようで、ツナは脱力した。だが心配してくれているようなので、とりあえずう、うん?と首を傾げて先を問う。
「隠さなくても分かるから………デキたんだろ?」
まるで妊娠を訊かれているようで。
ツナは顔をひん曲げたが、友人達はいよいよもって優しい笑顔を浮かべている。
「でどんな女の子?」
「何の話?」
ツナが分からなかったのも当然だ。彼は、恐怖と緊張とほんの少しの懐かしさしか感じていなかった筈だった。
「とぼけてもムダ」
「そのツラが何よりの証拠だぞ」
へっツラ?
さわさわと顔を撫でる。頬。口。目鼻耳。特に異常はないけれど………
「輝いてるもん。ツヤッツヤに」
「つやっつや」
やがてその考えが浸透すると、ツナはぎくりと身を強張らせる。
そんな畏れ多い!!
っつか殺されっだろ?!?
………でも。でもさ。
思い当たるフシは幾つかあるよ。
ツナは流されやすいたちだったもんで、疑問が氷解した気分だった。
そんな、俺、ヒバリさんの事を―――
すっげえな、ヒバリさん、俺でも全然気付かなかった思い(想定)を早くも察せられ………
こんな先制攻撃を………!
しかし暗い車内でめいっぱい頭を巡らしたツナが考えていたことは、今この時にヒバリにどう謝るか、であった。
ツナは赤くなり、青くなった。自分は彼女の位置にヒヒヒヒバリさんを置くつもりなのかそれって実はものすごく失礼なんじゃ。まずバレたら殺される。
唇を離した後も、超至近距離にいるヒバリの目をそうっと見て、ツナはもごもごと口ごもった。
「すみません………」
「なんで」
自分がしたのになんで相手が謝るのかさっぱり分からないヒバリを差し置いて、ツナはだらだら言葉を紡いだ。
「俺、自分でも気付いてなかったもので、多分ぜんぜんセーブできてなくて!あ、あーああ…からさま過ぎてご不快にナラレタのではないかとハイ」
「は?」
「あのう、それでですね、これだけは言っときたいんですが」
青から赤へ、赤から青へ。
鮮やかに色の変わるツナの顔を、ヒバリは眉を寄せて訝しげに見ている。
「俺ヒバリさんのこと女のひとだなんて思ってません!」
そりゃそうだ。
細身だが背も高く、迫力と威圧感にまみれたヒバリを女だと思う輩はまずおるまい。
「だから叩いたり殴ったりか、噛み殺したりしないで………くださいねっ!」
「意味分かんないんだけど」
熱弁するツナの勢いは少々空回り気味だった。
2005.9.21 up
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