「ヘタクソ」
ががーん。ツナはショックのあまり、ふらりと後ろに倒れた。ヒバリに安っぽいと評されたファミレスの薄い背もたれは彼の背中を守ってはくれず、一拍置いてツナは無言で悶えていた。ぐおお。痛い。
7年越しの誤解を解いて、ようやくめでたく身も心も結ばれた2人は雰囲気の良いバーやレストランや喫茶店という選択肢をスルリと避け、つい今までの習慣でいつものびんぼったらしいファミレスに来ていた。店員も既に慣れっこになっており、注文して10秒でコーヒーとクリームソーダが出てくる大変便利である。
「ヘ、ヘタ、ヘタクソって」
「よくあんなので自信満々解決とか言えたよねあつかましい」
「そこまで言わなくても!」
「だって本当だもの。君、下手過ぎ」
へたへたって何回も言わないでくださいこれでもショック受けてるんです!ツナは半分泣きながらテーブルにどんと手をついた。深夜のファミレスに流れるだらりとした空気が一変する。遠くからこっそり様子を伺っている何人かがヒバリの一瞥に慌てて目をそらした。
相変わらず不遜なその態度を、もうツナは慣れっこになっていた。それどころではない。
自分は今大層深く傷ついた。
「人が気にしてることをグサリと………」
「はー。ある意味思い出になったよねえ」
「まだ言いますか?!」

そりゃあ、自分から言い出した割に相当お粗末だった事は理解している。ツナはぐっと唇を噛んだ。
緊張の余りカチコチになって殆ど彼女にしてもらった悲惨な初体験も尾を引いているのかもしれない。慎み深いというか早い話初心者に毛が生えた程度でしかない。とにかく拙い。
なにしろ自分からキスするまでに軽く5分はもじもじし、顔を赤らめ、ふぎゃあ!とか色気の欠片もない声をあげて待っているヒバリをうんざりさせた。
動かないでくださいと、不動を誓わせた割には、のろいすすみだった。しかも、自分で動くなんて言っちゃったので、ツナは腕を組んでじろじろ遠慮無く眺め回しているヒバリの真ん前で自ら指を後ろに突っ込み慣らす羽目になったのであり、それだけでももう充分に頑張った。
「でっ、でも一応!ちゃんと、最後まで」
「僕がしたけど」
一向に準備の出来ないツナに途中しびれを切らしたヒバリが襲いかかる、という微笑ましい一幕もあったことはあった。
「不満………ですか?」
「君はどうなの」
「え゛」
「まさかあんなので満足とか、言わないよねえ?」
にっこりと、オソロシイほどヒバリは笑っている。もちろんそれは脅す意味での獰猛な笑顔だ。ツナは震えが来た。
「あ、あ、あのう」
「言わないよね」
「………っ!」
有無を言わせない迫力に、ツナはガクガクと首を縦に振りまくった。
「じゃあ決まり。次は僕の言うとおりにしなよ」
「ヒッ………ヒバリさんの?!?」
「何か不服でもあるのかな」
二度目のにっこりを真正面で直視したツナは気が遠くなった。一体何をされるのかするのか、想像するだに恐ろしい魔界。俺は生きて帰れるのだろうか。やっぱりこの人に関わったら、無事じゃすまないんだ………





その通りだった。
「んっ、ぐゥ、けほっ」
喉の奥まで突っ込まれ、反射的に口を離す。また無理に押し込まれる。
ツナは苦しげに咳き込み、涙を流しながらも顎を開いた。抵抗する気も起きない。
「絶望的にヘタクソだなあ。教えるにも時間がかかりそうだ」
ヒバリはこんな淫行をしているとは思えない涼しい顔でそう吐き捨てた。まさに極悪非道。

次は自分がと名乗り上げたヒバリの行動は予想通り容赦がなかった。
彼はまず、ツナの手を後ろにして縛り上げ、おいおい二回目で緊縛行っちゃったよこの人!と目を剥いているその口に手を突っ込み、言ったのだ。
「舐めて」
唖然としながら少しずつ舌を動かすと、「違う、そこじゃない」とぶっきらぼうに言われ、指の力が上下にかかった。くぱと開けられた口にまだ萎えたままのものが遠慮無くぶち込まれ、ツナはむせかけた。
「歯を立てるんじゃないよ」
「ぁぐぅ……」
舐めろと言われてそう簡単に出来る物ではない。された事も実はまだ一度しかない。彼女にしてもらうと気持ちがいいのは分かっているけれど、自分でするのはまた別問題ではないか?
まるで手探りで舌を動かす。しかし口いっぱい占領しているヒバリのせいで、舐めるまでいっていない。そうしているうちにも息が詰まってきて大層苦しい。
どうすりゃいいんだ!
ツナが顔を真っ赤にしていると、ヒバリはぐいと前髪を掴んで後ろに引いた。完全には抜かず浅い場所で口に先端を擦りつけながら、視線で呼吸を促す。
はああ、空気が美味しい。
涎でべとべとになった口周りを指が乱暴にぬぐう。されるがままツナは、再びそれが口の中を蹂躙してもあがらわなかった。
唐突に指がツナの鼻先をつまむ。
「鼻、使うの」
「んっ、ん!」
つまんでたら使えません!
涙目で見上げると、ヒバリは微笑んでいた。多分、彼は自分では気付いていないのだろう。だが滲み出る上機嫌が、ありありと分かるのだ。

知ってたけど、今更だけど。
この人正真正銘サディストなんだ………

それ以上見ているのが怖くてツナは目を伏せ、黙って言われたとおり舌を動かし、時々鼻で息をした。ちゅくちゅくと唾液が鳴り始め、ちょっとはこの状況に慣れてきても―――
楽になるわけではない。僅かな快感に勃ち始めたヒバリのもので口が満杯なのだ。
「んむっ」
必要に迫られて啜り上げると、褒めているつもりなのだろうか。前髪を掴んでいる手が少し緩み、撫でるような動きを見せる。
でもまたすぐに力がキツくなり、引っ張られる。痛い。ハゲたらどうするんだ。
涙が頬を伝っていき、ツナは自分で驚いてしまった。生理的な物か、ショックなのか。もうどうでもいい。早くイって、お願い………
「ヘタクソ」
がががーん。
こんな状況で聞くとまた一段と胸に突き刺さる。悲しみのあまりだーっと大量の涙が流れた。そんなツナの顔を、ヒバリは愉快そうに見ていた。

「もういい」
冷たい調子で短く言うと、ぐっと腰を押しつけてくる。同時に手も動く。
息苦しいとか前髪が痛いとかなにがなんだかわかんないぐちゃぐちゃなままツナは気が遠くなるほどの時間我慢して我慢して、果てにだらりと力を抜いた。人形のようにされるがまま、口だけ開いてただ座っている。
酷い、ヒバリさん。変態だよこの人………
段々思考が暗く怪しくなって来た頃、ようやくヒバリが前髪から手を離した。ほっとしたのも束の間、口の中に生暖かい、ドロドロした精が吐き出された。勢い良く喉を打ち、ゆっくりと食道を伝っていく。
「ぅぐぅっ……んっ………!」
「飲んで。飲むんだよ全部」
「ぶは………ぁ」
全部は無理だった。口から溢れた分、顎を伝いシャツにぼたぼたと落ちていく。
「おいしい?」
「おいじぐないでず…」
ヒバリのなんともわざとらしい問いに、ツナは反射的に首を振った。それも横に。
本当ならここで頷くべきだったのだろうか?分からない。しかし既に口が動いていた。
なまぐさいし、なまあったかいし、しょっぱいような気もするし………とにかく飲みもんじゃないことは分かった。
それがまだ口の中に残っていて、喋る舌の動きを邪魔している。
後ろ手に縛られているせいでぬぐう事もできず、情けない気持ちで汚れた顔を上げたツナの目に、口はへの字だが目は隠しようもないほど爛々としているヒバリ、という光景が飛び込んできた。
「正直だねぇ」
こええ………!この人やばい………!!
ツナはぎゅっと目をつぶった。次は何だ、ムチウチかローソクか三角木馬かトンファーか?!嫌だそんなバイオレンスな交際いらないー!!!
内心ヒイヒイと悲鳴を上げる彼を、ヒバリはコロリとその場に突き倒してしまった。
「苦しかった?」
ちょっと聞きにはいたわるような声。
つられるようにしてツナが目を開くと、ヒバリは腕を組み、限りなく偉そうで、しかも人を踏みつけにしながら(酷い!)優しく微笑んでいるではないか。
「痛い?駄目?こういうの、嫌?」
「それ…は………嫌に決まって」
「じゃあこれ、何?」
ぐり、と股間を押される感触がして一瞬後、ツナはパニックを起こした。

お、お、おおおおれ、俺って、えええええ????

「これは何かって聞いてるんだけど」
のんびりした口調が逆に怖い。ヒバリは薄笑いを浮かべたまま足をぐりぐりと動かした。興奮して勃ちあがったものを刺激され、そこからビリビリと強い快感が広がる。ツナはひくひくと喉を震わせながらそれに耐えた。
「答えられないの?」
「ぇ………うっ」
「咥えてるだけでこれ?それともこうして」
足の先が指のように掴む動きになる。耐えきれず声が漏れる。腰がびくんびくんとはねた。
「踏まれるのが好きなのかな?君は」
「ちが……う…っ…」
「どこが違うのさ」
言葉で詰る間もヒバリは容赦なく足を動かした。乱暴に、服の上から、手や指よりももっと粗雑に擦られているだけなのに。
気持ちがいい。
「やぁっ、ああっ!」
ツナはそう時間を置かずに、激しく震えて吐き出した。





「ひどい………ヒバリさん、ひどいです」
「何言ってんの。あんな気持ちよさそうに喘いでたくせに」
「ギャアアア」
ショックで落ち込む相手に慰めをかけるような人間ではない。
踏まれてイってしまった自分は変態じゃあなかろうかと深く深く沈んでいたツナは小さく丸まってその悲しみをやり過ごそうとしたのだが、ヒバリがそれを許さなかった。彼は足でツナを転がし、俯せにしてにやにやしていた。
「安心しなよ。こんなので終わらないから」
「まだするんですか?!」
「は、何言ってんの」
ずぶりと濡れた指が後ろに入り込んでくる。ツナは縛られた手で必死に抵抗したが、ねじりあげられて悲鳴を上げた。
「痛い痛い痛いですヒバリさん!!」
「もっと痛い方が好み?」
「イヤー!」
酷い。酷すぎる。
ヒバリさんの変態、オニ、サディスト!血も涙もないや!

しかしその裏で俺も踏まれてイっちゃうあたり、変態なのかもしんない………と思い当たる。
ツナは、たった今も幸せそうに自分をいじめている男を拒むつもりは毛頭無かった。


2005.9.28 up


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