ヒバリとカメ

 

カメのつなよしは、毎日海に帰りたいと言っては泣きます。
ヒバリは困っていました。
そのぐしゃぐしゃになった泣き顔を見るたび、むらむらしてコトに及んでしまうので軽くひきこもりになってしまったのです。
「困ったねぇ」
「俺が一番困ってます!」
散々好き放題した後にヤレヤレと肩をすくめるヒバリに、つなよしはぐったりしながらも果敢にかみつきました。
「なんだ、元気じゃない。もう一戦ぐらい行こうか?」
「元気どころか死に際ですよ!それより………俺の甲羅、返してくださいよー」
つなよしは僕の専用機だからねと、ヒバリは彼の甲羅を奪って隠してしまっていました。
甲羅がなければつなよしはただのヒヨワな少年です。(甲羅があるとただのヒヨワでノロマなカメです)海に帰ることは出来ません。
そのうちあきらめるだろうと思っていたのに、存外しぶとく甲羅を返せ返せと毎日言うので、ヒバリは不思議に思いました。つなよしは本来臆病なたちです。自分に怯えています。本当なら意見を言うだけでも勇気がいるのです。
何がつなよしをそこまでさせるのでしょう。
「海に帰らなきゃなんない理由でもあるわけ?」
「それはだって俺だって実家の方がのんびりできるし」
つなよしは途端に目をあらぬ方向へそらしました。わかりやすいです。
何か知られたくない事情がある………と察したヒバリは、 昼間出かけていくふりをしてこっそり様子を見ることに トンファーを構えました。
「3秒以内に言わないと、噛み殺す。3、2、」
「リボーンに殺される!!!」

根性のないつなよしの話によれば、彼が乙姫専用機であるのは一人前になるまでのこと。
一人前になった暁には、遙か遠い異国の地で海を治めているボンゴレファミリーだかの、10代目ボスになることが決まっているそうなのでした。
「俺は嫌だってんですけど」
それを知らせに来たのは、黒衣のヒットマンでした。名をリボーンと言い、まだ幼い人魚なのにもかかわらず殺しの腕は超一流、家庭教師としての手腕もまた同じく。
「無理矢理家に居座って、俺をボンゴレのボスに仕立て上げるって毎日スパルタなシゴキを」
「あれの何処がスパルタだってんだ。お前には随分優しくしてやってるつもりだがな」
「絶対嘘だね。優しい奴が俺をホオジロザメの巣に突っ込んだりするかっ」
「あれぐれー倒せねーでどーすんだダメツナ」
「………ギャーナチュラルに居るー!?!」
いつの間にか、気配も無くその赤ん坊はそこに立っていました。
ヒバリは目を瞬かせましたが、確かにその姿は赤ん坊です。これがつなよしが自分に逆らってまで帰ろうとする原因の、スパルタ家庭教師なのでしょうか。
「さー帰るぞ」
「ちょっと待ちなよ。つなよしは僕の専用機になったんだから。勝手なマネは許さない」
「悪いがコイツは乗り物じゃねえんだ。救いようのないヤワっ子だが、俺が鍛えてボンゴレのボスにしてやらなくちゃならん一応大事なカラダだ」
「リボーン………」
「それにいい加減帰らせねえと、海は大騒ぎになってる。つい昨日も獄寺が半狂乱になってタコの一族(なんでもかんでも岩の奥に引きずり込んで頭からバリバリ食べてしまう)を締め上げていたし、ディーノも部下引き連れて海中探しているからな。騒がしくていけねえんだ」
「ごっ、獄寺くん………ディーノさんも?」
「トマゾの8代目も涙と鼻水垂らしながらねり歩いてるぞ。キレた獄寺と鉢合わせして危うく戦争が始まるところだった」
トマゾというのはボンゴレとは敵対しているファミリーですが、ボスのロンシャンとつなよしは友達なのです。
「帰りたいけど、そのう、ヒバリさんがなんていうか」
「ダメに決まってる」
ヒバリは赤ん坊にも容赦ありません。
トンファーを翻して打ち据えようとすると、リボーンはどこからともなく取り出した十手一本で攻撃を止めました。
その瞬間、ヒバリの目がきらりと不穏な光を見せました………





「どーしてこーなるんだー!」
「よかったなーツナ。コイツは見所がある。攻撃もえげつない。いいファミリーになれっぞ」
「つなよしが僕の専用機なんだからね、赤ん坊」
つなよしは甲羅を返して貰いましたが、今は何故かヒバリを背に乗せて海を泳いでいました。
隣で寄り添うようにスイスイ泳いでいるリボーンは、人魚です。
ボンゴレファミリーは海の世界でも実力の抜きん出た、人魚マフィアの一族なのです。
「それは認められねえ。コイツはボンゴレのボスだ。京子に預けたのは一人前になるまでだしな、ボスは誰の専用機でもねえ」
リボーンの断固とした口調に、つなよしはじわりときました。今までこんな言葉を言って貰った事はなく、本当はそんな風に思ってくれていたのかなあ、と感慨深かったのですが。
「俺以外のな」
「はああああ?!?!」
「俺は特別だ。むしろ光栄に思え。成長した暁には………そうだな、望み通り優しくしてやろう」
「いらないよそんな優しさ!」
なにはともあれ、つなよしは海に帰ることが出来ました。
めでたし、めでたし。


2005.9.26 up


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