ヒバリとカメ
「昔人間はね、巨大なカメの上に4匹のゾウがいて、それが大地を支えていると思っていたんだよ」
ヒバリは、今日も上機嫌でした。
ここ数日姿の見えなかったつなよしが、突然もの凄い勢いで海を突っ切って帰ってきた挙げ句、家の(ここはつなよしの家ですが)車庫(押入ですが)に頭をつっこんでブルブルと震えているのです。ようやく、このバカでノロマでヒヨワなカメも、自分の立場というものが分かってきたようです。そう。
つなよしは僕の専用機。
「バカだよねぇ。愚かだよね。でもまあ、カメが相当の重量に耐えられるというのはどうやら本当らしい。だから実験してみることにした」
ヒバリは、今日も絶好調です。
彼は先ほどからつなよしの背に重いブロックを積んでいました。何個目で悲鳴を上げるかを楽しみに、キリキリ乗っけていきます。
背中から石抱きの刑に処されたつなよしは、5個目で既にグエエと今にも潰れそうな悲鳴を上げました。
「あと3個ぐらいいけるんじゃない?」
「もっ……うげっ…むり………ぐぼっ」
「だらしないね。そんなんじゃ立派な僕専用機になんてなれない」
「俺アナタの乗り物になんかなった覚えはありません!」
「フン」
「ンギャッ」
ブロックの上から更に圧力がかかりました。ヒバリが片足を乗せ、徐々に前倒しに体重を乗せているのです。
「君が覚えてようがいまいが関係ないんだよ。僕がそう決めた」
「うげぐ……」
「分かった?分かったら返事をして」
「は………はぃ………」
「それから尻を上げて、膝を立てるんだ。角度がね、ちょっと。入れにくい」
「何の話ですか?!?」
(暗転)
「で?」
つなよしは散々わるさをして、すっきりつやつやしているヒバリを恨めしげに睨みました。
そんな場合ではないのに、どうしてこの男はこうも自分勝手、マイペースなのでしょう。人の話も聞かないし、通じないし、下手なことを言うと殴られたりいじめられたりします。それに口では言えないくらい、いやらしいことをたくさん。
「だだだだから言ったじゃないですか!ユユユーレ、ユレ、ユ」
呂律が回らなくなるほど青ざめ怯えきったつなよしは、布団をひっかぶってガタガタと震え始めました。
「ユーレイが出るって………ウワサを」
「ぷっ」
「ひっ、酷いっ、今笑いましたね?!怖いんですよユーレイ!呪われますよ!ヒバリさんだって、本物のユーレイ見たら怖くてガクガクで逃げたくなるに決まって」
「僕がなんだって?」
(暗転・後場面転換)
「どうしてこんなことに………」
うっうっうと泣きながらつなよしは、こきたない床をごしごしと雑巾で拭いていました。
彼は今、山奥の廃寺に来ていました。テメエだってユーレイにビビんだろ!と言われたヒバリが己のプライドをかけてそうでないことを証明するためにつなよしをずるずると引きずって絶好のユーレイスポットに案内したのでした。
更に足が汚れるのは嫌だとわがままを言って、つなよしに掃除をさせている次第です。花嫁修業にもなって一石二鳥とはこのことです。
「ちゃんとすみずみまで掃除しないと、酷いことするよ」
「今でも十分されてると思うんですけど!」
いかにノロマなつなよしといえど、本物のカメというのは機敏、動作はなかなかに早いのです。隙をつかれ逃げられることを厭うヒバリは例によってつなよしの甲羅をはぎ取り、代わりに紐で繋いでおきました。
丁度犬のような格好をさせられたつなよしは当然嫌がったのですが、「それじゃ、君なんか放って僕は帰ろうかなぁ。そこの柱に両手両足縛り付けて。一晩じっくり反省するがいいさ」などと言われたので、素直に掃除をしている次第です。
「掃除、終わりましたけど」
「ご苦労。はい」
一通りの汚れと埃を片付けた寺。
それでも相当に汚いです。居心地が悪く、早く帰りたいとそればかり願っているつなよしに、ヒバリが手渡したのはこれまたこきたない………琵琶でした。
「なんですかコレ」
つなよしは勿論琵琶などという風流なたしなみはありません。それどころか、小学校のソプラノリコーダーですら満足に吹けず、ピープーピープー調子っぱずれの音を出してご近所の騒音公害と化していた時代もあります。
「ここに出るユーレイの身の上話を琵琶の弾き語りでしてやると、喜ぶらしいよ」
「俺にそんな芸はありません。そもそもユーレイに会うのが嫌です」
「僕にここまでさせといて逃げ帰ろうったってそうはいかない」
「したのは俺です。アナタ俺の甲羅小突いたり、掃除の邪魔ばっかしてたくせに!」
いつも弱気なよわむしつなよしですが、ユーレイに晒されるとなると話は別。一生懸命かみつきます。
しかし強引なヒバリにかなうはずもなく、ほぼ無理矢理琵琶を持たされ、部屋の中央に座らされる羽目に。
「こわいよー!こわいよー!」
昼間っからそう叫んでは、泣きじゃくっていたつなよしは疲れ果てうとうと眠り込んでしまい―――
「………!!!!!」
再び目が覚めたときは真夜中になっていました。
部屋にヒバリはいず、メモ書きが残されていて、「琵琶を弾かないと酷いことするよ」と例によって血も涙もない内容でした。
「う、グス………」
ユーレイも怖いけど、しないとその前にヒバリさんに殺されそう。
つなよしは仕方なく琵琶をべんべん、と慣らしました。こちらもやはりリコーダーと同じく調子っぱずれの酷い音。
まるで呪いのような不快な上がったり下がったり、曲ではなくただばちを弦にあてているだけどいう最悪の代物。
ユーレイなんてでてきっこないよ。ああよかった。
己のあまりの下手さにつなよしが安心していると、不意に部屋のろうそくが消えかけました。
ゾクリ。
一瞬の悪寒、そして再び明るく灯るろうそくの炎―――
「ギャアアアアアアアア!」
2005.9.30 up
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