この吐き気をのみこんでしまえば
「なんのつもりだ?」
開口一番、ディーノが口にした問いにツナは困ったように眉を寄せ、視線をめぐらせ俯いた。まるで嫌なことを答えたがらない子供のように。
「ここが一番安全だっていう、リボーンの判断なんです」
「安全?気がついたら此処に転がされてたってのに、それを信じろってのか。俺の部下は何処だ」
「こちらでお預かりしています。ディーノさん、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるかよ!」
語気荒く怒鳴ると、ツナは肩をすくめて怯えたふりをした。
ディーノはこの青年が、見かけほど弱々しくないことを知っている。これも演技なのだろう。
側から見ている分には成長したのだと誇らしげな気持ちもあったが、いざされてみると騙されている様に思えまるで気分が悪い。
「俺の部下が殺された。その始末の真っ最中だ。邪魔しないでくれ、ツナ」
「それはできません」
懐に手を突っ込んで、ツナはゆっくりと銃を抜いた。そのまま放り出す。
「信用して頂けないのは残念ですが、本当に危ないんです。せめて」
「自分の身は自分で守れるぜ」
「この場合は違います。俺達の調べがつくまで、ディーノさんにはここへいて貰いますから」
「言うことをきかなけりゃズドンか?」
「ディーノさん…どうして」
攻撃的な口調に戸惑い、ツナは悲しげに目を伏せた。しかし直ぐに顔をあげ、断固とした口調で告げる。
「既に事態は身内でカタをつける領域を越えています。警察に知れてしまったし、マスコミも嗅ぎ付けました。下手に動いてファミリー全体の不利益になることは避けたいでしょう」
「俺を…拘束する理由としては、弱いな」
「貴方は無茶をするから」
ツナは弟分として、また同盟のボス同士としてディーノの気性を良く知っている。
普段は冷静な判断を下せるが、情が厚い故に一度部下に危険が及ぶと後先考えずに飛び出す癖がある。
それが最大の理由だと、今は言い張るしかなかった。
「俺を信用できませんか」
「したいさ、ツナ。でもこんなやり方は違うだろう」
「急ぐ必要があったんです。いくらでも謝ります、だから今は」
「どけよ」
投げ出された銃は信頼の証として―――では、使えない。
だがディーノの手にはまだ鞭があった。
「ツナ」
「じっとして」
押し切ることも出来た。
小柄なツナは、力で押せば簡単に押しのけられた筈だ。
正面から両腕を抑える細い指がディーノの警戒線に触れた。近すぎる。こんな状況、こんな場所で俺は何を考えているのだろうと、自問しセーブをかけたが、甘かった。
ぐるりと体勢が入れ替えられ、浅くあいた口から息が漏れる。薄暗い部屋で濡れたように光る目が、強い意思の力を持ってディーノを見据えていた。
ずくり、と。
疼いた。
「…ぁ、」
「俺を止めるか?」
やめろとわめく声がする。内心酷く震えているのに、頬を撫でる指はゆっくりで随分余裕があるように見えた。
心と体が引き離されたかのように。
「何をしても?」
「…ええ、必要とあらば」
これで決まった。
その瞬間、四つ足をついて獲物を喰う獣のように、ディーノの息は乱れた。
2005.10.4 up
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