Mascherato
人生って分からない。
空港に降り立った時もそう思った。でも、あの時は全てがあれの―――リボーンが道をつけていったので、まだ納得も出来た。そこに至る過程は十分驚きに満ちていたけれど突飛ではなく、特別だが特異ではなかった。
資料を見る口実で訪れた図書館に、既に彼は来ていた。
六道とはひょんな事から知り合った。行きずりの関わりと思って駅へ送りだした彼を再び見ることになろうとは。
ツナは驚いてスーパーマーケットの真ん中で立ちつくしたし、六道はさりげなく隅に寄ってこんにちは、と挨拶した。
別れ際携帯の番号を教えたら、耳で一発で覚えたので仰天した。
社交辞令かと思っていたが―――
誘われて食事に行ったり、六道の趣味である芝居見物に付き合ったり。
家の事情で大学を留守にしている獄寺の代わりに、彼がツナをイタリア見物に連れだしてくれた。獄寺と違い通行人に喧嘩をふっかけもせず、キラキラしいオーラも出さない六道は一緒に居ることに引け目を感じない。地味を愛するツナの心の安らぎとなり、呼ばれれば大抵会いに行った。
昼間は何処か日系の会社で働いているらしいのだが、六道は余り自分の事を話さなかった。両親はとうに死別していること、身よりが無いので気楽であることなどを話せば後は空っぽという態度でツナも―――それ以上追求しなかったのだ。
見た目や雰囲気そのままにインテリな彼は語学に堪能であり、知識も豊富だった。学生であるツナ以上建築にも詳しく、異国で立派にやっている事に納得もしたものだ。
そして友人付き合いを経て、告白されたのが先月の事。
会った時と同じく、ぼさぼさの頭で眼鏡をかけて目立たぬ格好をして、六道は淡々と告げた。落ち着いた雰囲気も何もない。周りには子供が遊んでいたし、大声を上げて追い掛けっこの真っ最中だった。
―――何しろ公園だったからな。
いつもの通り駅前で別れるつもりで、公園内を横切っている最中だった。
ボールを追い掛けて飛び出してきた子供に突然立ち止まった六道は、僅か後ろを歩いていたツナがどんと背中に追突すると、振り返って唐突に言った。
「沢田君は、誰か付き合ってる人がいるんですか」
「は、はあ?何を………突然に」
六道はツナのことを沢田君と呼んだ。
ツナは六道さんと呼んでいる。多分年上だろうから。
「そんなもんいませんよ。いるわけないじゃないですか」
「そうですか」
突拍子もない、しかもそんな色事の質問を六道がしたのは初めてだったので、ツナは面食らって顔を赤らめた。
(いたらあんたとメシ食ってないと思うよ………)
頭一つ分、大きい六道の顔は前髪で半分隠れている。
眼鏡のレンズ越しに翳った瞳がまっすぐ此方を見ていて、いたたまれなくなった。
「そうですよ」
ぶっきらぼうに言い捨てて俯く。上からの視線を痛いほど感じていると、不意にそれは降ってきた。
「付き合ってください」
「………」
なんとも、微妙な沈黙がその場に流れた。
ツナは混乱していた。
付き合いって、あれ?そういう、意味じゃないのかも。俺間違って聞いてたかな、おかしいな………
「いいですよ。何処へ?っていうか、今付き合ってるじゃないですかー」
「そうじゃないです。わざとしてるの?嫌?」
気を取り直し、半笑いで答えたツナは再度固まった。
「あ、あの、あのう」
「嫌ならもう会いませんから、安心して下さい。無理強いは嫌いなんです」
(2択かよ!)
驚いて顔を上げると、六道は無表情のままだった。言葉も全部日本語だから、周囲できゃらきゃら笑って遊んでいる子供も、突っ立って話に忙しい奥様方も全然分かっていない。
たくさん人が居る前で、けれどその人たちは此方の言ってること分からなくて。
想いを告げるにも何ら支障はない………のだろう。
ツナはたっぷり15分は固まっていた。考えれば考える程選べない2択だった。
そのうち六道はくるりと背を向け、歩き出してしまった。呆然とそれを見送りながらツナは気付いた。
六道に会うときはいつも彼から連絡をして―――
ツナの携帯番号は彼に伝えてあるけども、彼は―――
何処に住んでいるかも、勤めているかも、知らないのだ―――
ごくんと喉を鳴らして何かを飲み込んだ。
ツナは小さくなりかけている背中に向かって近年走ったことがない全速力で突進すると、
そのまま後ろから体当たりして六道を吹っ飛ばしてしまった。
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