Mascherato

 

いいか悪いかイエスかノーか。付き合わなければもう会わないと、半分脅された形で六道との交際はスタートしたが、とうの本人は至って自覚が無い。
そもそも、"付き合っている"という自覚もないのでは。
ツナは疑っている。
自分のそれも酷いが、六道もまた今まで通りの付き合いを崩さない。イタリアの恋人はデートの始まりも最中も終わりもしょっちゅうくっついてやらかしている"挨拶"、いわゆるキスも、それ以上もしてこない。
(や、積極的に迫られても困るんだけど)

時間が空けば食事をし、遊びに行き、時にはツナの部屋で何時間も本を呼んで過ごす―――
六道の行動パターンは以前も以後も変わらず、態度も特に変わりはなかった。ドアを開けてくれるのも前からだし、車から庇うよう車道側を歩くのも、食事時絶対に先に座らないのも元々である。
外国暮らしの長いらしい六道は礼儀正しく、その境界が実に分かり難い。
甘い物を買い与えるなどの子供扱いはきっちり分かるのだが、恋愛感情はとてもとても感じられない。
(まあそれでもいい、っつかそれでいいけどね………)

ツナは安心していた。
最初こそカチカチだった雰囲気も軟化して、遠慮せず物を言えるようになった。六道は世の中をナナメに見た発言も、年上の態度で咎めることなくやわい相づちをうつ。話しやすく、息苦しくない、そんな存在になりかけていた。
だから油断したのかもしれない。





南部への、小旅行の帰りだった。
昼間の観光にくたくたで、ホテルの部屋に入ってすぐツナはベッドへ倒れてしまった。
長時間の運転で疲れているだろう六道へ風呂を勧め、うつぶせのままぐうぐうと寝入っていたのだ。
ぴちゃんと額に水が滴る感触に目を覚ますと、シャツ姿の六道が寝ぼけ面を覗き込んでいた。無言のままで。
まだ髪が濡れていて、両脇に垂れ下がっている。見慣れない顔に驚いてツナは小さく声をあげた。
「な、なに、誰」
「僕ですが」
確かに六道の声だ。しかし、ツナの緊張は解ける事がなかった。
眼鏡を外した彼の顔は人が違うかと疑うほど整っていて、何よりもその目が印象的だった。
左右で色が違うのだ。
青みがかった左目と、血のように赤い右目。そうなると表情もまるで違って見える。
「六道さん?」
「はい」
「えー………と、重い、んですが」
「はい」
そう言いながら、六道は動こうとしない。
代わりにゆっくり近づいて、固まったまま薄く開いたツナの口に自分のそれを押しつけた。

「うひゃあ!」
ツナは驚いて飛び上がる。一緒にベッドのスプリングもきしんだが、六道は気にすることなく更にくっつけた。
「ほわあ!」

騒がしい反応も一向に意に介せず、六道はスッと目を閉じた。角度を変えて、幾度も押しつけられる柔らかい感触にパニックは―――収まってきた。不思議な事に。
じわじわと深くなるそれに眉を寄せると、舌で擽って"開けて"と言う。請われるまま僅かに開いた其処に素早く滑り込み、生ぬるい刺激が咥内を犯す。
「六道さ…」
六道は笑った。
今までのような、口の端を上げるだけのぎこちないものではなく、目を細めて口元をつり上げて妖艶に笑う。

人って見かけによらないもんだなあ。

こんな局面でそんなのんきな感想を抱きながら、ツナは大人しくしていた。
付き合えと言われて付き合っているのだ、いつかはこういう時が来るのだろう。不意打ちで驚いたけど。


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