Mascherato
もう止めてくれと泣いて頼むまで。気が遠くなるような時間丹念に慣らし、六道との交わりは想像していたよりもずっと恥ずかしい目に遭わされ続けた。
がっつくような乱暴さも、性急さも無い代わり逃げ場が無い。念入りに快感を引きだした後、優しい口調と笑みで頑なな気持ちまでもほぐしていく。まるで子供相手の医師のように。
ひくん、と震えた足を掴んで、更に体を進めてくる。
深く埋め込まれた六道の熱に腹が灼けそうだった。痛さ、苦しさ、辛さ、全部ひっくるめて快感の波に押し込む。誤魔化しがいつしか本当になってしまうように、体の奥でじわじわと伝染する熱にツナは為す術もなく翻弄された。
「たす……けて…」
か細い悲鳴を上げると、六道はそっと手を取って口付けたり額を合わせて宥めるような言葉を呟く。「大丈夫」「痛い?」「ごめんなさい」。
しかし、触れ合わせたそこは容赦なく、余る快感を流し込もうとする。
「ひっ…」
ぞくぞくと背中が粟立った。言葉とは裏腹に、少しずつ動き始めた六道の腕を引き留める。
「だめ………動かないでぇ」
彼は、笑った。
「いいですか?」
「だめ…だめだ…っ」
苦笑が口元を掠める。
ぴたりと寄り添った胸がどくどくと鼓動を伝えていて、落ち着いている六道のそれを感じるツナはいたたまれない。
眉根を寄せて腕を突っぱねると、少し強引に体を起こされる。
「ひうっ」
腕を差し入れて抱きしめ、あやすように口付けと謝罪を繰り返す。やさしい。
経験の浅い自分もそれだけは分かる。
辛いんじゃ、ないのかな。
顔を上げると、涙に濡れた頬を舌が滑る。
艶やかな表情をして抱き合う彼は、まるで知らない相手のようだ。
「ろくどう、さん?」
「はい」
「あの…」
つまらないかとか、すみませんとか。
そういう言葉ばかり頭を巡ったが、口は麻痺したようにゆっくりな言葉しか紡がず、息を吐き出すだけだった。
代わりに、頭を巡らしてその首に唇を押し当てる。
一瞬びくりと反応した六道は、すぐに微笑んで同じ場所へ同じ行為を返す。ゆるゆると抜き差しされる、その刺激に目を瞑って強く縋る。
「いい、ですよ。俺も、ちゃんと………」
「ありがとう。もう少しね…」
結局最後まで―――
痛みを与えないよう。六道は優しかった。
ただこればっかりは人間わがままなもので、相手があまり余裕があると癪な気もするのだ。ツナは翌朝複雑な気持ちでおはようございますを言ったが、六道は甘い笑みで返事に代えた。どうやら、その辺りが顔に出てしまっていたらしい。
「大丈夫ですか?」
「あんまり…」
すみませんと謝って、素早く唇を重ねる。
やっぱりこの人も、こっちの暮らしは長いのかなどとつまらない思考に浸っていると、窓の外がガヤガヤと騒がしくなった。
激しくドアが叩かれる。
朝食のトレイからコーヒーを受け取っていたツナは、口に含んでいた分をごくんと飲み干す。
サンドイッチのバスケットをベッドに乗せていた六道がドアを開けに行く前に、それは開いた。ホテルの人間ではなさそうな男が2人、何やら喚きながら勝手に入ってくる。
「失礼」
六道はこんな時でも丁寧な態度を崩さない。
一言ツナに断ってから、男達との間に立ちはだかるようにして、流暢なイタリア語で会話を始めた。と言っても、南部の方言はツナには殆ど聞き取れず、途切れ途切れの単語しか分からない。
会話の途中、3人が一斉に此方を見た。
部屋に備え付けのガウンを着て、熱っぽい顔をしたツナは小さく身を竦めた。六道のそれは悪戯っぽく微笑んでいるが、男2人は如何にも苦笑、というような表情を浮かべたからだ。
「お幸せに!」
なんなんだ。
意味が分からないまま、ただ赤くなったツナを後目に彼等は騒がしく部屋を後にした。
「なん、なん」
「さ、朝食にしましょう」
帰りの車の中で六道は淡々と説明した。
あの宿で昨日、物騒な事件があったのだと言う。
「地元の御事情ですからね、邪魔しないよう僕らは早々に退散しましょう」
「地元の………?」
そういえば、警察とはまた別であろう、何人もの男達がたくさん宿に集まっていた。
一目で外国人観光客と分かる六道とツナには素通りだったが、他の客には厳しい目を向けていたような。
「関わり合いにならない方がいい。彼等はマフィアなんですよ」
「え?!」
六道は至って普段通り、眼鏡の奥から穏やかな目をしてツナを見ていた。
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