Mascherato
仕事はつつがなく終了した。空いた道路に車を走らせながらバックミラーで後続の車を確認する。
尾行はついていない。
最も、今までの仕事でアシがついたことはない。いつでも綺麗に始末した。生きていたいととりわけ願うのではないものの、できるだけ長く続けていくつもりだ。用心は過ぎる事がない。
まだ少しピリピリとした空気を残しながら、ゆっくりとシートに体を沈める。カーブで減速とギアチェンジをする傍ら、走らせた目線が助手席のシートで止まる。
彼は時折、予測がつかない。
これ以上はないくらい単純な行動をする癖に、無防備に急所を晒す癖にあるときふっと消えて無くなる。掴んでいた場所が空白だった、そんな気がして振り回される。
追ってしまったのはそのせいなのかもしれない。
惜しむ気持ち自体、自分にあったのは不思議なのに現状に満足している。その気になれば完全にイカれた暮らしと完全にマトモな暮らしは可能なのだった。仕事をした手で肌に触れ、悦ばせてやる事もできる。無論、
彼には、言わない。教えない。
絶対に。
依頼はいつも新聞広告で取る。
分かるものにだけ分かる、隅の小さな広告だ。連絡先と称されたその番号にかければまず専用の会社へつく。そこから友人を経由して、ようやく依頼主と連絡を取る。
ターゲットとの接触から丸一日、という仕事だった。
用心と計画を怠らない六道には嫌な仕事だったが、ターゲットを見て二つ返事でOKを出した。さして有名でもなく、特にあくどい噂も無いが見覚えが―――あった。
早速常用している"使い捨て"(終われば川の底に放り込まれる)の携帯で依頼主に確認を取った。7時52分。
送金は既に済んでいる。本気のようだ。
ターゲットは空港から、ある会合の為に一日だけイタリアを訪れる。
移動中の車を狙撃するか、直に手を下すか。成功率を考えれば前者だがこれは却下。
この為に普段つまらない仕事を受け続けているのだから。
アナウンスの響く空港に六道はいた。ターゲットの乗った機は既に着いているが悪天候で乗降が難儀している。
ようやくゲートから出てきた一団には疲労の色が濃く、機内は相当揺れたのだろう、あまり良くない顔色で口元を押さえるようにして出てきた。
間違いない。
少しばかり人相が変わっても、目で分かる。六道には驚異的な記憶力があった。
人でごった返すホールからターゲットは移動しない。迎えを待っているのだ。
ベンチに座り唸るその背に冷笑が投げかけられている。どうやら"新しいファミリー"とはうまくいっていないらしい。
そのうちもごもごと言い訳をしてトイレへ立つのを、六道は追った。通路の監視カメラの向きを確認し、巧妙に擦り抜ける。手元の携帯で何かを確認するふりをして列に並ぶ。
丁度そのタイミングでアナウンスが鳴った。乗る前にと並んでいた子供と親の集団が一気に列から引き、束の間無人になった。
いそいそと個室に向かうその背を見つめながら扉を閉めた。そのノブには清掃中の札がかかっている。
ゆっくり仕事をする時間が出来た訳だ。
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