Mascherato
結局仲直りできなかった。
目が覚めた時六道の姿は既に無く。ベッドやシーツに散った彼の血と、独特のすえた匂いの中でツナは唇を噛んだ。
ちくしょう、あの野郎。今度会ったら覚えてろ。
恨み言を吐けたのは最初の3日だけだった。
六道は来ない。連絡もない。
酷い風邪を引いたと言って休みの届けを出した。実際熱が出たのだし、体が痛くて動けなかったんだから風邪より重傷である。それに何もかもやる気がない。
4日目。ツナは不意の来客を迎えた。
まだ少し熱っぽい体を引きずって出ると、これがまた珍しい顔だった。イタリアに来る元凶になった癖に、まだ一度も会っていなかった。
リボーン。
「なんだそのツラは」
開口一番そう言い捨てた少年は、ぽかんとしているツナの額に手を伸ばす。冷たい指が触れて、気持ちいい。
「バカでも風邪ひくのか…」
「すみませんねえ」
部屋に招き入れようとすると、首を振って入ってこない。
「何しに来たんだよ」
「用事だ。決まってるだろうバカが。急ぐんだ」
「急ぐって―――」
「沢田さん」
驚いた。
リボーンの後ろからひょこりと顔を出したのが、獄寺だったからだ。
彼はぐるりと部屋の中を見回すと、油断なく後ろも見張っている。ピリピリした警戒ムードにツナがおろおろするのを見て手をのばす。
「沢田さん、すみません」
「獄寺くん………久しぶり」
「はい」
しっかり握られた手の平は乾いていた。長い、サイドの前髪がパラリとその頬に落ち、影を作る。
「一緒に来てください」
「獄寺が一時お前を匿う。急いでついていけ」
「………は?」
「手紙を読んでいないのか?」
手紙?
「手紙って、ああ」
荷物の中に仕舞いっぱなしの手紙。そもそも、あれが、この少年の目的で―――
「ちょっと待って、今取ってくる」
「そんな時間あるか」
獄寺、と偉そうな調子で呼ぶリボーンの顔を、目をまるくして見ているとぐいと腕を引っ張られた。もつれる足をもう一方が支え、触れそうなほど間近に獄寺の険しい顔がある。
「な、なに?」
「失礼します」
「わっ」
獄寺は返事も聞かずツナを抱えた。しかも、庇うように胸に抱いてエンジンのかかった車に滑り込む。
「手筈通りに」
「よし」
「では後ほど」
「待ってリボーン………?!」
「後でな」
展開が早すぎてついていけない。もう此方を見ていない少年に手を伸ばせば、イタ車の窓枠越しに見えたのは微かに笑む口元だけだった。
ワイパーの音がガチャガチャうるさい。
体はまだ怠い。
おまけに、厳しい顔で前を睨む獄寺の腕がすっぽりと体を包んでいる。
ツナが落ち着かな気に身を捩っても、位置を直すだけで離そうとしない。
間近で見る獄寺の手は傷だらけだった。側にいると煙草の匂いがする、彼はヘビースモーカーなのだ。
「一体何なんだ」
独り言を質問と受け取ったようだった。
獄寺は運転手に早口のイタリア語で指示を出すと、向き直ってツナを見据えた。
「裏切りです」
「裏切り?」
「あなたの存在を漏らした人間が」
「何の話だよ!」
「本当に―――何も知らないんですか?」
「だから、手紙は」
言いかけた口を指が止める。荒れてザラついた感触。
獄寺は微かに眉根を寄せた。シートに触れ合わせた手が微かな振動を探りあてたのだ。次の瞬間、彼は扉を蹴破って走る車から跳躍した。抱えたツナごと。
何事かと目を剥く、その次の瞬間耳をつんざく爆音がした。
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