Mascherato
銃声が一発。
先客が居た。
少年は倒れ伏し血の混じった泡を吹く男の顔で靴底の泥を丹念に落としている。繰り返される丁寧かつ決まり切った仕草が恐怖を煽るのだろう、震えながら許しを請う裏切り者の顔は蒼白だった。相応しい末路、という所だろうか。無論同情など生まれてこの方感じたことはない。
「お前と会うのがどうしていつも現場なのかね………まったく。俺の邪魔ばかりしてくれる」
視線を恐怖に歪んだ顔に固定したまま、面白くも無さそうに呟く。
黒いスーツの裾が風をはらみ、膨らんで揺れる。割れた窓ガラスの破片がキラキラとシャンデリアの明かりを反射して眩しい。
「こいつも。俺の獲物だ」
「そのようですね」
「………ふふ。素直じゃねえか」
年齢に合わない含み笑い。
ニヤリと悪辣に笑む口元は酷薄そうに薄く、鋭い目元がぞっとするような艶を履く。
同時に小さな幼い指が黒光りする鋼鉄に絡み、銃口が傾いて此方を向いた。油断のならぬ相手だ。
「一度割れた商売だ。廃業したんだろう?」
「いいえ。休んでいるだけですよ―――分かるでしょ?」
生業ではなく、本能のようなものだ。追わずにはいられず、断たずにはいられない。
それは向こうも同じ。
「ならなんで来た」
勘の鋭い相手はそんな問いを寄越す。
答えて言うなら不安因子を取り除く為と、本業でもある。
「あいつは元気にしてるのか?」
「君には既に関わりの無い話ですよ」
「一応、鼻垂らしたガキの頃から見てるんだぜ」
「自慢ですか」
「そう聞こえるなら俺としては幸いだ」
少年の足の下でファミリーの裏切り者は息荒く身じろぎした。
仕事は。完遂したのではなかったか。お前は。
「うるさいですよ」
「黙らせるか」
再び銃声。
「………月末には一度帰国します。動けるようになったら母親に会いたいと言うので」
「相変わらず甘ったれてんのか」
「何も知らないのですからね」
「知ったらお前の元にはいないさ」
「いいえ」
沈黙。
「まだ諦めていないんですか?しつこい。知ったら生かしてはおきません。貴方方が接触しても同じこと―――くれぐれも―――姿を現さないようにと忠告しておきましょう。でなければ彼は死ぬ」
「お前………」
六道の前で少年は小さな肩をすくめた。
帽子のつばをあげ、足下の物言わぬ肉塊をごろりと転がす。無機質な黒が光をのんだ。
「やな惚れ方するな」
「大きなお世話ですよ」
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