end. the end

 

 

 

くたりと、人形のように四肢から力の抜けた体が毛布に包まれて運ばれる。
大事そうに抱えた男は深緑の瞳を瞬かせ、優美に笑って案内をした客室乗務員に礼を言った。
男はその柔らかな物腰と裏腹に強い警戒心を持っていた。手を貸そうにも、決して触れさせなかったのだ。
ビジネスクラスの窓際一列を占拠してその人物は静かに口を噤んでいた。真っ白い包帯に巻かれた両眼に傷だらけの頬、毛布の中でギブスに固定された足。何処をとっても重症患者なのにその頬は血色の良い薔薇色だ。座席の肘掛けや背もたれに手探りで触れながらつきそう男に微笑む。

他の乗客が乗る時間だ。油を売っている暇はない。
身を翻し客席をすりぬけながら、無意識に胸を押さえた。

(なんだろう
 なんだろうあの人たち)

互いに向けるいたわりが此方を、他人を世間を逆に爪弾きにする。
絵に描いたような情景的美しさがいたたまれない。入念にアイメイクを施した目からぽろりと涙がこぼれて制服の襟に落ちた。





「………ね、六道さん。眼鏡かけてませんね?」
「あれは伊達です」
「うん」
知ってましたよと笑う青年を抱いて六道は目を閉じた。
色付きのコンタクトレンズを通しても、世界はエメラルド色に輝く事はない。


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