肉ってなんだ

 

 自分は健全な青少年だ。
 そういうのに興味があっても、別に悪くない。というか、割と覚えたて?
(だって家にリボーン居るし…ランボもイーピンもフゥ太だって…)
 最近友人の家で見た、『そういう雑誌』の内容を思い出してツナは軽く赤面した。
 野球部の奴からの差し入れだーと笑っていた友人は男らしかった。そんな、エロ本の扱いまで格好良くてどうするんだよ山本…とかはまあ、別の話だけれども。
「にくどれいって」
 まず間違いなくそういう意味だろう。
 過去雲雀に告白した連中がどういう意味で使ったかについては、其処に居なかったから判断は出来ないけども99.9%はそういう意味であろう。
 問題は――
(雲雀さん…そんな)
 街の不良を束ねてバンはってる男がそんだけ奥手って、どういう…
(いや、あの人はそういう俗っぽい事に興味ないだけだ!)
 ツナも若干雲雀を美化しつつ、信望している。なんと言っても並盛の風紀委員長である。
(むしろあの人にそんな要望口に出して言う方が失礼じゃないか?!)
 そんな事を思ってしまうのだ。
 雲雀はそういう、ふしだらな噂は皆無だった。不良のボスともなれば好き放題出来そうな所を、手下も含めキッチリと締めている。
 そんな男に、しかも男が、肉奴隷がどうのって?
 挙げ句「撲ってください」ときたもんだ。
(命知らずにも程があるよ…)
 もし本当の意味を知ったら、雲雀は相手を殺しかねない。というか、絶対殺す。
 風紀委員長の地雷が何処にあるか知らないが、割と地雷だらけなのでそれも踏んだらヤバそうだ。エロの方向に寛容そうには見えない。
 まして対象が自分となると――
(雲雀さん、大丈夫かな…)
 ツナは自分の駄目さ加減を棚に上げてそんな事を思う。
 周りがそんな変態ばかりで、やっていけるのか。妙な事態になったら(もう昨日なってた)どうするのか、等々、余計な思考をグルグル回していたツナは、呼び出しがかかった事にも気付かなかった。
『2のA、沢田綱吉。至急応接室に来るように。来ないと』
 ブツッ。
「え…?」
 非常に気になるところで途切れた放送に、ツナは思わず立ち上がった。
 ザワ…ザワ。
 クラス全員の視線が向いている。当然だろう。
 今は授業中だ。
「あ、あは、あはは」
「沢田…」
 教卓の角をぎちぎちと握って、教師が真っ青な顔色で教室のドアを指さした。
「なんだか知らんが、さっさと行ってこい!」
「…ハイ」



「遅い」
「はうっ」
 失礼しますとドアを開けるなり顎を殴られ、ツナは廊下の壁にぶち当たった。
「呼ばれたらさっさと来る」
「ひゃ、ひゃい…」
 痛みに涙を浮かべながら、大急ぎで応接室に入ったツナは妙な事に気付いた。
 てっきり雲雀一人で話を付けるために呼びつけたのかと思いきや、ズラリと見覚えのある方々が…っていうか…
(並盛中風紀委員勢揃い?!)
 それなりに広い応接室が、ムサい男でぎっちぎちになっている。
 皆緊張した面持ちで、天井よりやや下辺りを見つめているから不気味なことこの上ない。
「し、失礼しま〜す…」
 恐る恐る部屋の中に入ったツナは、おかしな事に気付いた。
 いつもなら一般生徒を即座に威圧してくる風紀委員が――雲雀の前だからか――緊張しているようなのだ。
(あれ…?)
 雲雀だけなら納得だ。しかし、それは自分にも向けられているようなのだ。
 縋る思いでツナは周囲を見渡し、唯一視線を合わせてくれた人物に目線のみで訴えた。
 副委員長の草壁である。
 暴れん坊が多い風紀委員で、割と話の通ると有名な。
「…」
「……」
 心なしか、あたたかい…というか生ぬるい視線を向けられ、ツナの混乱は益々酷くなった。
(え、え、何なの? コレ?!)
 戸惑うツナの前に、スタスタと雲雀がやってくる。
 足で無造作にツナを蹴っ飛ばし、転ばせた彼はその背に足を乗せて言った。
「春先で浮かれてるのか知らないけど、今年もまた奴隷志願者が続発してる。鬱陶しいから委員公認の奴隷を決めた」
「…へっ??」
 振り返ろうとしたツナの顔面に、雲雀の靴底が降ってきた。
「ムグゥ」
「2のA沢田綱吉。今日から専用の肉奴隷にする。扱いに注意するように」
「に…」
「「「「「押忍!!!!!」」」」」

 ウグゥ。
 それってちょっと違うんじゃないですかあああと言いかけたツナの口は、雲雀によってぐりぐり踏みにじられたのだった。






 冗談じゃない。
 咄嗟にそう思ったツナだったが、本当に冗談ではなかった。
 早速放課後呼びつけられ、緊張でカチコチになりながらサテどんな恐ろしい命令が来るのか…と思いきや、
「これ30部コピーして」
「お茶が飲みたい」
「肩こった」
(ただのパシリじゃん…)
 どうやら雲雀は奴隷と肉奴隷の違いが良くわかっておらず、ツナはひたすら扱き使われたのだった。
(いや、良かったけどさ!)
 問題はこいつは僕の肉奴隷宣言を聞かされた風紀委員達である。
 彼等の委員長万歳精神は凄まじく、委員長が間違いを犯す訳がない、委員長の命令は絶対という事で、ツナへの扱いはビミョーに丁重だった。
(絶対誤解されてるよな…)
 いつもならああん?と脅してくる強面風紀委員が、揃いも揃って視線を外す。中には頬を染めている者まである。
 ツナと雲雀が同じ部屋にいると、その場を辞してくれる程の気の遣いっぷり。
 ありがた迷惑である。
 誰でも良いから早く誤解を解け、命がけだけど、とツナは頭を掻き毟った。
「もーどーしたらいいんだよー!」


2008.3.12 up


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