オトモがこわいのでついてきてほしくない

 

 その瞳には一点の曇りもなく、たった今自分がどれだけバカな発言をしたかという自覚は一切見あたらなかった。
 ツナはざぶざぶと湯をかいて進むと、湯の流れ続ける岩場に無頓着に座った。
 クソ、まただ。
 ザンザスは頭でも痛んだような顔をした。温泉村に育ったツナにとって、近所付き合いは正に裸の付き合い。村の公衆浴場で見知っていた筈なのに。
 公衆浴場は一応男女に分かれている。しかし女湯の方が微妙に狭いらしく、広い風呂を好む住人達は勝手に風呂の中を行き来している。あまりにあけすけな習慣を初めて目の当たりにしたザンザスはそれなりに驚いたが、迎える男連中もあっさりしたものだ。
 中でもツナは普通に湯船の中で近所に住む乳飲み子を抱えた女性と談笑しており、無論同性同士ならそれはもっと遠慮のないものになる。
 それなりに都会に生まれ、それなりにドライな距離感を保って成長し、元々人付き合いの得意な方ではないザンザスは内心ドン引きだった。今も咄嗟に殴るか飛び退きたい気持ちにかられたが、動揺していると思われるのも癪なのでぐっと堪える。
「断る」
「断るなよ。なんでだよ」
「面倒くせえ」
「面倒なことないよ。知ってる事を俺に伝えるだけなんだから」
「それが面倒なんだが」
 ふーん、と呟いたツナは竹筒から水を呷った。
 後にごそごそと手を伸ばしたかと思うと、
「……何だこれは」
「ワイロ?」
 ツナが差し出したのは酒だった。
 なんと気の利いたことだろう。女はいらねえと断ったザンザスだが、酒は見た途端に手が伸びた。そう言えばアイルーになってから、一度も酒を飲んでない。
 味覚が違うのだろう。飲めないことはないが、まずく感じる。食べ物は概ねそのままだが、調味料や味付けの濃いものがキツく感じられるようになった。ユクモは薄味なのでその点はいい。
 栓を抜いて瓶から直接あおると、強い蒸留酒がカッと喉を焼いた。
 現金なもので、好物を口にした後は機嫌が少し上向いた。
 なので言ってやった。
「掴んで扱け」
「……えーと」
 ぱしゃん、と湯を弾く音が辺りに響く。
「何を?」
「ナニだ」
 直ぐ其処にあるものだ。忌々しいことに。
 ツナはぱちりと瞬きをした後、バカ正直に自分の股間を覗き込んだ。
「コレ?」
「ああ」
「でもこれ……大事な所だから綺麗に洗うこと以外に弄っちゃいけないって」
「誰が」
「母さん」
 思わず湯に顔面を突っ込みそうになる。ザンザスの予想を裏切って、いやある意味忠実か? ツナの認識は幼児以下と判明した。
「お前のオヤジはそう言わなかっただろうな」
「父さんが?」
 流石に思うところがあったらしい。
 ツナは決意を込めキリリとした表情で、ソレを鷲掴んだ。
「……で?」
「バカかてめえ。逆だ」
「???」
「なんで体を動かす。手が違うと――だから右左の問題じゃねえよ」
「これむずかしい……!」
 ハンターとしての所作に関しては、時間はかかるがそれなりの動きをするツナである。
 それが何故こういう事だけ極端に不器用なのだろうか。上半身を限界まで捻り、まるで見当外れの格好をして憤慨している頭を軽くはたく。
「おいバカ」
「でっ……なにすんだいきなり!」
「どこに難しいところがある。マジでカスいなテメエの頭……ああもう、クソ」
 面倒くせぇ、とお決まりの台詞を吐いてザンザスは立ち上がった。
 かなり下方にある頭を、その爆発的な髪型と荒れ狂うつむじを見ながら腕を掴む。
 岩場に腰掛けてようやく視線が釣り合った。
「座れ」
 引きずられるように立ち上がった体を強引に膝の上に乗せる。やはり、小さい。体格差もさることながら、相手はまるで抵抗のない様子だ。
 何をされるのか分かっていないのだろう。呆けた面で見上げてくるのを顎で無理矢理顔の向きを固定し、股の間に手を突っ込んだ。だからなんでオレがこんな真似を。

 つるりとした無毛の肌。ざらついた自分の指先にも引っかかるところが何もない。
 流石子供、なるほど女の肌より滑らかな感触だ。
 水滴が球になって滑り落ちていく足は、山野を駆け回っている癖に細い。柔らかな内股の肉を指先で摘むと、ぺちりと手をはたかれた。
「痛いからやめろ」
「なんだこのザマは」
「うるさいなあ」
 ふにゃふにゃしているのは俺のせいじゃないと、ツナは己の足を押し広げている男の手をぺちぺち叩いた。
 そこに羞恥はなく、まるで身内にするように安心しきり身を預けている。不用心なやつめ。
「んっ」
 足の間に遠慮深く収まっているものを強引に掴み出すと、痛い、もっと優しく、と注文がつけられた。聞きようによっては相応しい内容だが、生憎と意味はそのままなのだ。
 体格と同じくいかにもコドモこどもしてるそれは、当たり前だが少しの反応も示していない。妻も子供も持ったことがなく、人生で人の面倒を見る機会に恵まれなかったザンザスにとっては初めて攻撃以外で触れる他人の陰茎であり、その事態だけでぶん殴りたくなる。どうしてこうなった。
 いっそ握り潰してやろうかと思ったが、膝の上でツナが興味津々で自分の股間を覗き込んでいる様を見ると、怒りより脱力した。なぜこの好奇心をもっと早くに発揮しなかった……そうか、駄目か。
 同性同士の際どい会話でも普通にツナだけスルーされていそうである。

 ランタンと月の明かりだけで辺りは暗い。
 だから余計に肌の生白さが目立つ。日に当たる部分はともかくとして、露出のない腹や腿の色は暗がりでぼんやりと浮き上がって見えた。
 指を押し返すふるり、とした感触。
 清潔に保たれている生活で、薄くほのかに立つ体臭。
 アイルーの時に感じていた人臭さとは別に、どことなく甘いそれが鼻先を掠めるとなんだか妙な気分になってくる。
「い、いたっ……」
 掴んで、というよりは摘んでと言った方が正しいかもしれない――表皮を手に擦りつけるようにして扱くと、刺激が強すぎるのかもぞもぞと腰が動いた。面倒くせぇ、と耳元で呟くとびくりと肩が震える。だらりと垂れた手を取って、自分のそれを握らせた。
「う……」
 手の上から重ねて動かしてやると、落ち着かない様子ではあるものの、ツナは概ね従順に教えられたことを繰り返していた。
 客観的に見て、相当気色の悪い事をしていると分かってはいるのだが、成長過程の、男とも女ともつかぬ中途半端な体つきを前にすると、さて一体何が気持ち悪いのか分からなくなる――まずい、のか? 何が?
 初めこそ上を見たり下を見たり、こんなの面白くないと不満げに漏らしていたツナだったが、次第にふうふうと息が荒くなってきた。慣れない感覚に落ち着かないのか、じりじりと体をずらし、かと思えば不意に全身の力が抜けてぐったりとしてしまった。
「イッたのか?」
「何がぁ?」
 なんて間抜けな返事だ。
 ずり下がって行く身体を足で止め、脇の下に腕を差し込んで引きずり上げる。
 とろんとした目と視線が合う。そのまま手を滑らせるが、手にあるのは思ったような感触ではない。
「イッてねえじゃねえか」
「し…らない……も、いい」
「はぁ?」
「つかれ、るし。いたい」
 ぐすぐすと鼻を啜り上げるような音がした。
 むずがる子供そのままの仕草で、汗の浮いた額をぐりぐりと腕に押しつけてくる。
 微妙に呂律の回っていない口でむっつりと文句を言う。
「ふろ、はいる……から……ッ?!」
 ぐっと指の腹で押すようにし、緩急をつけて刺激すれば力の入らない身体とは裏腹に、敏感に反応する。
「嫌だ、やめ」
 はっきりと口に出して拒否するツナは、力を込めて掴まれ初めて急所を握られているという事実に気付いたらしく、さっと顔色を変えて仰いでくる。
「じっとしてろ」
「うう……ひ、ぃ、ぁう」
 皮膚の柔いところを執拗に弄られ、先端が赤く腫れている。
 正しくは『勃った』状態なのだが、初めて自分の状態を目の当たりにしたツナはぎょっとしたような顔で腰を引いた。
 余程怖かったのかそれまで元気に反応していた股間のものまで萎縮する。
「何……これ……なんか、こわい、」
 派手な舌打ちの音が響いた。
 その瞬間、びくりと震えた薄い肩をザンザスは顎でがっちりと押さえ込んで固定し、腰を深く入れて白い足の間に自分のものを挟ませた。
「えっ」
 ツナはそのサイズや先端の張り出す独特の形に驚いたようだったが、本人はまた別の意味で驚いていた。大した刺激を与えたわけでも、特に強く欲求を感じた訳でもないのにそこは既に固くなって反応している。意味がわからん。
「う、あ」
 恐る恐る、という感じで伸ばされた手を上から押さえるように掴み、手を添わせて握り込む。
 固い手や指よりもイイのか、初めは興味津々の様子で見ていたツナも、次第に切れ切れの声が漏れ手の運びがぎこちなくなってきた。
 はふ、はふ、と必死で息をしながら、ぎゅっと全身に力がこもる。
 荒い呼吸のせいで開きっぱなしの口が、くぅと小さく鳴いた。

 

 


 

 

 激しい運動をした後のように息が切れてちっとも整わない。
 自分はただ座っていただけなのに。
 少し手を動かしたくらいではありえないし、今まで経験したことのない、何か。
「……はぁ」
 これをちょっと擦っただけで、腹やら背中やらがざわざわするし、カッとなってガーッてなって、最後はウワアーッてなったんだから、やっぱりこれが原因か。
 視線を自分の下半身に移したツナは、水や汗ではない、明らかに見慣れないものが足の間に散らばっているのに気付いて瞬いた。
 しかし身を起こそうにも力が入らない。腰が抜けてしまったような、長い距離を走った後のような疲労感が全身に漂い、身体を動かすのも億劫だ。どうにも困って後の男を見上げると、なんかまだはあはあしてた。

 なにしてんだろう、この人。

 ツナが質問を口にする前に、押さえ込まれたままの手がぎゅっと握られて、びくびくと何かが下で動いた。なんだこれ。どういうことだ?
 いや、ナニだアレだ。
 ツナの手より二回りほども大きい手が、その根本から扱くようにしてぐいと押しつけてくる。
 自分の足の間、腿の上の方まで飛び散ったこれは何だろう。
 べたりと手に着く感触。さっき自分が出したものと似ているような気はするが、よく分からない。周りが暗いせいかもしれない。
「なに、これ」
 まだしっかりと整わない息でそう問えば、少し長い沈黙があり、重苦しい声で答えが返ってきた。
「子種だ」
「……はあ」
「あんまり分かってねえな。これを女に入れれば子供が出来る。まあそうそうガキばっかり作ってられねェから」
「えっ、ちょっ、それ」
 どういう意味だと問い返している最中に、ころりと身体を放り出された。
 用が済んだのかと思って離れようとしても、喉元を押さえられ、更にぐっと体重がかけられた。苦しい。
「どうにかしろ」
「わ、わかった……! から、どいて…ケホッ」
「ふん」
 なんで今笑ったんだろう。
 ツナが呆然としている間に、身体が持ち上げられて移動した。
 先程まで背中に感じていた起伏はなく、平べったい岩場にごろりと転がされている。
 今夜は月夜だった。天上には輪郭のぼやけた白い月が浮かんで見えた。
「……ッ」
 ぬるついた指が奥へ潜ってくる。
 そんなところまで触らなきゃならないのか? 一人で? あっちこっち随分忙しいじゃないか。
 まるで出来る気がしなかった。そもそも疲れて新しい事を覚えるどころじゃなく、許されるなら寝床へ潜ってこのまま寝てしまいたいくらいである。
「はぁ、う、あ」
 力が抜けている身体を、湯に濡れた手がゆるりと撫でる。
 指はどんどん奥まで入ってしまう。違和感が酷く、これ以上は苦しいと感じて息を吐き出せば、中がぴっちりと指を食い締めてしまう。
「う、あ、あ」
 多分、ここから痛くなるのじゃないかという寸前で止まった指が引き抜かれていき、楽になる呼吸にほっとしているとまたずるりと潜ってきて――
 何度もそれを繰り返される間、ひたすらはあはあ息を吐いていたツナは、途中でグスリと鼻を啜り上げた。
「なんだ」
「……ン。さむい」
「我慢しろ」
 慎重な指の動きとは逆の、ざっくりと切って捨てるような物言いは相変わらず。
 足だけ湯に浸かっている今の状況は、のぼせないで済むだろうが身体が冷えてしまいそうだった。
 ぶるりと震えた背裏に、温かい手が差し込まれ、身体が浮く。
「ガマンって、あのなっ……カゼひくと、ッ……おも、う」
「少し待ってろ」
 急に起こされたせいでふらりとした。額に軽く手をあて、唸るツナの耳元でぶつぶつと低い声が呟いている。これでいいのか、どのくらいだ、とか、なんで自信なさげなんだよと思う。あんなに自信たっぷりにしていて! 分からないわけないと思うけど。
 それまで湯の側に居たザンザスが岩場に腰を下ろしたのですわ交代かと思って顔を上げるが、そういうのでもないらしい。腿の上に座らせられた後、抱えた腕は外れる気配もなく、指は入ったままだし、動きようがない。どうすればいいのだと問いかけても答えがない。
「う……」
 中を擦るだけの単調な動きが、指が増えて、探るようにバラバラに動かされて辛い。二本も入ってるのか。あの太い指が。
 狭い縁が引き攣れるように痛む。中を弄られる度に下腹へ響く。声を出さなければ堪えられなくなっていて、ひっきりなしに漏れる声にその動きが激しくなる。やめてと訴えているのに、どうしてこうもあまのじゃくなのだろう。左右に割り開くように指を広げられて、とうとう耐えきれず目の前の腕に噛み付いた。

 小さく息を詰める音がした。
 引き抜かれた指の後に、もう一度そこに何かが入り込んでくる。
 僅かに開いた隙間に無理矢理埋められていく感触は、指よりも太かった。
 正直、痛い。苦しい。座った状態から少しずつ浮いた腰を落とされ、自分の中にめり込んでくる異物感。必死に息を吐いて逃がす。
「ッ……、アァッ」
 痛みと圧迫感に呻き、詰まったような音しか出ない喉。
 痛いのも辛いのも自分の筈なのに、目の前の顔は眉を顰めている。
 なんだか腹が立って、ツナは渾身の力を振り絞って右腕を振り上げた。思いっきり叩いてやろうと思ったのに、くたりと力の抜けた腕はだらしなく落ちただけで。
 ぺちん、と間抜けな音を立て、中途半端に頬にあたった手はそのままずるずると首元を掴むことになった。太いところが一気に通って、頭に火花が散る。ツナはみっともなく泣き声をあげた。猫の仔のようなふにゃふにゃした声だった。
「なにしやがる」
 痛いのだ。辛いのだ。
 こんな思いまでしてしなければならないとは。
 大人になんてなるものじゃないなとツナは深く息を吐く。こんなのよく皆我慢してるな……知ってたら絶対俺はやらなかった。
「入っ…たか?」
 無言でガクガクと頷いた。ぴっちりと皮膚が張り、激しく動かれたら裂けてしまいそうな縁を指がするりと撫でていく。もういい、もうだめだ。なんでまだ入れようとする!
「むり……ッ」
「何が。もう、入ったろ……」
「ぬ…いてッ……!」
「分かってる。そっちはこれから」
 水音を立てて大きな身体が湯に沈む。
 一瞬、あたたかいその中でほうと息を吐いたツナだったが、背中を岩壁にぐいと押しつけられて呻く。潰れそうだ。
「ひっ?!」
 押しつけられて深く奥を突いたものが、ずず、と引き抜かれていく。
 異様な感触から逃れようにも、がっちりと腰を抱えられて身動きが取れない。湯の中で再び潜ってくるその先端が、内から腹の裏側を掠めている。
 声が出なかった。
 身体がびくびくとはねる――奇妙な痙攣だった。頭が真っ白になり、気付くと前を握られて、ついでに笑いを含んだ声が降ってきた。
「ハッ……! こいつ、突っ込まれてイきやがった……」
「あ、あ、あむっ」
 べろりと唇を舐められて、そのまま舌が口の中に入り込んでくる。
 我に返る間もなく分厚い舌が口中を舐め回し、無遠慮に舌へ絡み、ねっとりと触れて出て行った。なにこれ。なんだ、これ。状況が脳に繋がらない。あれ、おれ、今何してるんだっけ?
「ふぅ、んっ……ぁあ」
 痛い。熱い。背中つりそう。
 文句を言おうにも相手は口を合わせたままガンガン突いてくる。身体の中で思うようになるところなど一つもなく、ただ揺さぶられて、くぐもった声をあげることしか出来ないままに、ツナの意識は次第に混濁していった。

 

 


 

 ――なんというか。
 正にやっちまった、と評するのが相応しいような。
 ザンザスは太く無骨な指の腹で頬を擦り、飛び散った水滴を拭った。
 せり出した岩棚の先は、細かく落ちる雨の滴で埋まっている。
 夜半に降り出した雨は朝になって止むどころか勢いを増し、下はちょっとした洪水になっている。川はその水位をみるみる間に上げ、下界の音は一切遮断されていた。
 今ひとつ薄い罪の意識でもって、奥に転がしておいた体。
 その顔を覗き込むと、ツナは起きていた。眠そうにぱちぱちと何度も瞬きをして、布目を見ている。
「メシは」
「……食べる」
 火を熾しておいたのは習慣だった。
 ユクモは暖かい。こうして激しく雨風が吹き付けるような天候でも其処まで気温は下がらない。しかし、長年のハンター生活がこの粗末な岩棚を無意識にキャンプ地と定めたらしい。
 勢いのある火がようやく立つようになってから獲物を探しに行き、仕留めたシカを捌いて簡素な食事をとると、まるで昔に戻ったような気がした。
 その間ずっと眠り続けていた存在が無ければ、真実錯覚しただろうと思う。
 闇の中で、一人で、じっと獲物を待つあの感覚だ。
「これシカ?」
 血抜きをして塩を振っただけの調理は、きめ細かい母親の料理とは違うだろう。
 にも関わらずツナは躊躇いなく串にかぶりつき、ふっと目を細めた。
「あっちぃ。うまい」



 無心に肉へかぶりついている顔は、目がいつもより若干腫れぼったくあるが、それ以外は普通だった。
 目線を合わせないとか、ぎこちない空気も、無論女がするような恥じらう気配も無いままに。
 腹だけは減っているのだろう。ものすごい勢いで食べ終わると、竹筒の水を最後の一滴まで流し込んでまた寝床に潜る。
 埃っぽい敷物やマットは待機所や小屋から集めてきたもので、お世辞にも寝心地良しとは言えないだろう。家に連れて帰った方が良いのかとも思ったが、体がいつ戻るか分からないのだ。不要な騒ぎは避けるに限る。
 しばらく布団の中でじっとしていたかと思うと。
 小さなその体が不意にぐるりと寝返りを打ち、ボソボソと呟いた。
「メチャクチャ疲れた……」
「……」
「あんまり、最後らへん、覚えてないし」
「……ああ」
 意識を飛ばしてぐったりしているのを、こっちの都合で散々振り回した記憶のあるザンザスは明後日の方向を向いた。
 怒るだろうか。
 怒るだろう。そりゃあ。
 言わせて貰えば、そういう予定はまったく無かったのだ。だがやはり事情が事情で、長期間女を相手にしていなかったからそれなりに体は欲求をためていたのだろう。
 それはもうぷっつんと。見事に。
 やべぇなと自覚はしていたのだが、特に止める努力もしなかった。感覚で生きているとこうなる。ヤリてえ、できそう、じゃあするか。その程度の思考である。
「正直、その、俺だけで出来るとも、思えないんだよね……」
「は?」
 しかし怒りだす筈のツナは、ザンザスの予想とはまったく違う事を言った。
 疲れからか、白い頬を押さえ、目元を擦りつつ、言い訳がましい口調で。
「正直一人でする自信がないです」
「……おう」
「だから、覚えるまで、一緒にしていい……?」



 予想の斜め上三回転半ふたたび。



 流石のザンザスも予想だにしない申し出であった。
 たっぷり三十秒無言を貫いた後、彼は如何にも渋々、致し方なくというように装い、頭をゆるく左右に振りながら言ったのだった。
「仕方ねぇな……」
「ホント?! あつッ、テテ……!」
 じんわりと腰を打つ昨晩のダメージを噛み殺し、それでも嬉しげに良かったぁ、などと言っているのんきなツラに笑いが込み上げてくる。が。
 せいぜいもっともらしい顔をして、ザンザスはその場をやり抜けた。あんな大変なこととは思わなかった、あっちゃこっちゃする事が多すぎて覚えられそうにないし、痛いし息できないし死ぬかと思った。みんなスゴイ。ぶつぶつと続くツナの勘違いも、何一つ訂正せずに。
 

 


 

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