※モー○ルパロです。最早別ものですがネタバレでない訳でもないのでご注意下さい。

 

 

 

 

「ふぁ…」
「寝るなよ」
 あくびをしようと僅かに口を開けた時だった。
 助手席から聞こえてきた声は完全にヘソを曲げていて、その静けさがかえって爆発の前兆のようだった。
「大丈夫、寝ません」
 ハンドルを握り治し、暗い夜道の先を見る。
 チラリと隣の様子を伺うと、こちらは完全に据わった目つきで前方を睨んだまま腕を組み、微動だにしない。まだ怒っているのだろうか。
「君は」
「眠くない」
 何度目だろう。
 怒って、宥めて、落ち着いたかなと思うとまた怒る。
 度々こうして怒りの波が来るらしく、むっつりと黙り込んで表情も態度も冷たい。
 車中ではよく考え込んでいるし、時折信じられないものを見る目で此方を見ては、ふーやれやれと溜め息を吐かれる事も。
「今どこ?」
「すみません。標識が見あたらないもので」
「それ迷ってんじゃないの…?」
 苛立った口調で乱暴に地図を広げ、しきりに後ろを見る。
「戻ったら? スタンドも見あたらないし」
「ガソリンはまだ半分以上あります。ちゃんと着きますよ」
「そういう事言ってるんじゃないってば!」
 声を荒げた事に自分でショックを受けたようだ。
 はあはあと肩で息をして、両手で顔を覆う。ぼそぼそと聞き取り難い声がした。
「…戻ろう。そんで、離婚しよう」
「何を言ってるんですか」
「っていうかしてくれ。頼むから」
 確かに、少々乱暴なやり方だったかもしれない。
 相手が意識があるかも分からぬ泥酔状態の時に、カジノのオモチャのような教会で式を挙げるというのは。
「俺達まだ会って二日だぞ?! 式を挙げてからも一日と半だまだ間に合う!」
「はっはっは。いやです」
 会った瞬間にこれだと思ったのだ。
「いや俺男だし!」
「性別が同じくらいどうって事はないでしょう。同性婚が可能な場所で僕達が会ったのも運命なのですよ」
「あ〜、運命とか信じちゃうタイプ? 気が合わないなー全然やってける気がしない」
「大丈夫。愛は全てを乗り越えます」
「……」
 完全におかしなものを見る目で此方を見ている。
 ぶつぶつと『そんなもんはない』だの『言ってて馬鹿馬鹿しくならないか』と聞こえてくるが、全く気にならないのだった。
 自分でも驚いている。
 それまではまったく興味の無かった分野だ。
 他人にこんなに興味を持つことが出来るなんて。
 相手の一挙手一投足が気になって仕方なく、幾ら見ていても飽きない。
 何を喋るか、何を考えているか。
 予想が当たると自分がそれだけ彼を知ったようで嬉しい。外れるとまだ未知の部分がある彼に惹かれる。
 付ける薬が無いとはこの事だ。自覚はあるのだが――止まらない。
「それより、疲れたのなら何処かで休憩しましょうか」
「疲れの種類が違うんだけどな…」





 道端のボロいモーテルに車を乗り入れられた途端、綱吉は状況を理解した。
(やばい…)
 眠いのは確かだ。奴の手前、強がっただけなのである。
 奴というのは信じられないことに、自分の旦那、つまりは夫だったりする。
 つい二日前にあったばかりの男。そう男だが!
 気がついたらパート牧師(昼の十二時から深夜まで)に式を挙げられて今や人生のパートナーである。
 人生って恐ろしい。
 時間潰しのつもりで訪れた観光地で、ほんのちょっと道を聞いただけなのに。
「はあ…」
 窓ガラスに凭れながら綱吉は深い溜め息を吐いた。
 これが一昨日前なら警察に駆け込むことだって出来たろう。しかし、今他人に追求されたら此方に不利な証拠ばかり出てしまう。
 なんだかんだと丸め込まれ、既にハネムーンの夜を過ごしてしまった同性夫婦に警察はどんな態度をするだろうか。
 自分の迂闊さを笑われるぐらいならともかく、知ったことかと怒られる可能性だってある。それに、こいつ。
「随分ボロっちい宿ですねえ。ま、僕たちの愛の前には些細な事ですが」
 他人に助けを求めでもしたら、この頭のネジが一つ二つぶっ飛んだ男に何をされるか分からない。細い見た目以上に馬鹿力だし、丁寧だが有無を言わせない迫力はあるし、何をするか分からない怖さがあるのだ。
 綱吉は黙って手を引かれていき、式を挙げてから名乗った男の後ろについてモーテルの受付に入った。
「六道さん」
「他人行儀ですねえ。呼び捨てにしてくださって構いませんよ」
「おい六道」
「出来れば名前の方で」
「骸」
「クフフ、クフフフ」
 なんだその不気味な笑いは。
 もしかして喜んでいるのだろうか。
 きもちわるい…と完全に引きながら綱吉は顔を歪めた。
「ホントに此処に泊まる気?」
「え?」
 くるりと振り向いたその姿。
 その足取りは呆れるほど浮ついて、見るからにウキウキした気配が漂ってくるが、それさえ消せば綺麗な男だった。
 男に綺麗というのもなんだが、褒め言葉については特に語彙が少ない綱吉はそれしか思いつかない。
「お気に召しません?」
「うん」
 はっきりと頷く綱吉に、骸は悲しげに眉を寄せた。
「でも僕――もう限界なんですが」
「運転変わるよ?」
 申し出に、にっこりと笑って首を振る。
 仕草と表情とは裏腹に、彼は綱吉の手を取って自分の足の間にあてた。
「――ギャアッ!!!!」


2008.9.2 up


next

文章top