ネクロポリス

 

性交と戦闘は似ている。馬鹿馬鹿しいことに気付いてしまった。
向かってくる相手が、潜んでいる敵が何を望むか。その意に添わぬようかわし、時に誘いに乗りとどめを刺すその一瞬まで駆け引きは続く。
どうやら望みが分かったようだ。コロネロは角度を変え、手を変えて幾度も傾けられる顎を掴んで引き剥がす。相手は焦れているようだ。身を捩り、裸の胸を反らせて震えた。
「駄目だ」
蜜にてらてらと光る唇。今や甘い香は狭い空間に充満していた。それを押しつけ、口移しに与えたがる細い身体を引き倒し、逆に抱えて足を割る。
いやらしく蠢く口を抑えてぬるつく手のひら。
男を抱くのは初めてだが、知識はあった。かろうじてまとわりついているシャツを脱がせてしまうと、細い腕がぴたりと肌に吸い付いた。
まるで進んで身体を差し出すような媚態に熱くなる。反面、酷く冷めた目で見ている自分が居た。こいつは結局何がしたいんだ?それを口にすれば俺はどうなるというのだろう………
分析はひとまず置いておき、既に熱くなっているその切っ先をあてがう。眼を細め、喉を鳴らして待つ脱力した身体に息を詰めて刺していく。
その表情や仕草とは裏腹に入り口は固く閉じていて、狭かった。コロネロの顰めた眉から頬へ一筋汗が伝い落ちる。男はその雫を舐め取り、まだ口付けを請う。顔を押さえ、一気に貫く。
一瞬だけ強張った身体は直ぐ力を抜いた。しかし狭い。痛みすら感じる狭さだ。

汗ばんだ胸を合わせて腰を使うと、そのキツさで即物的な快感が得られた。口で触れぬよう気を付けながら追って、中へ、叩き付けるような強い注挿を繰り返す。
ただ揺らされるがままの腰や腹を掴み、引き寄せて文字通り、引き裂くような交わりだった。だが下腹に触れる性器は勃ってこそいないが、白い精を僅かずつ吐き出していた。その湿りにすら高ぶる。

低い呻きが狭い空間に響いた。
男は息をしているだけ、本当に喋らないのだなと思う。
吐精の余韻に浸っていると、甘い香りの中にツンと馴染みあるものが混じった。思い当たり、手を差し込む。
自分が放ったものと混じり、赤い色が指についた。
「血か」
薄い身体をひっくり返し、近づいて触れる。身を折って、裂けて痛々しい傷を覗き込んでもぴくりとも反応しない。彼は羞恥や、認識のスイッチまでも切ってしまったようだ。手応えがまるで無い。
コロネロは舌打ちをし、身を起こした。動かない腰を掴んで引き寄せて傷口を指で穿つ。精液と血の混じり合った生臭い匂いが鼻をついたが、構わず掻き出した。
「悪かったな」
飲用の清潔な水を使い、傷口を洗って薬をつける。手当の間もじっとしたまま動かない男の顔を覗き込むと、寝ている訳ではないのだ。ゆっくりとした瞬きの後、目を合わせた。

く、と小さい鳴き声がした。
薬を奥まで塗り込んでいた時だ。視線を上げると、闇に慣れた目にも分かる程紅潮した身体があった。
小刻みに震えながらその口がa、a…と息を吐く。
音にはならない。そんな微かさで逆に煽る。指を派手に動かすと、それは更に激しくなった。
「ふん…」
少しばかり愉快だった。
どちらかといえばされるよりは、自分で好きにしている方がいい。普段は欲求だけ吐いて終わる淡白なたちだが気が向けば一晩女を弄ってやることもある。商売女が終いには泣いて止めてくれと頼む。
指を抜き差しし、中の粘膜を掻き混ぜながら前にも手を伸ばす。とろとろと精を零す先端を爪で弾くと、びくびくと背が震えた。息も乱れた。
「いいのか」
耳元で囁いてやると、くすぐったがって肩をすくめる。初めて生身の人間に触れている実感が湧き、自然と口元が笑む。
細い足の小さな膝裏に腕を差し込み、子供を抱くようにして膝へ乗せる。
抱えた尻の間に指を、逆の手で勃ちかけている性器を掴んで扱く。タイミングを合わせ弄ってやるとくん、くんと甘い吐息が零れた。
甘い匂いが強くなる。
口端から垂れる金蜜。滲む汗もその匂いがする。
コロネロは男の細い肩に顎を乗せ、身体を押さえると同時に口元にそれがつかぬように気を付けた。ただし手の動きは容赦の無いままで、どんどん激しくしてやる。びくびくと跳ねる腰を押さえ、逃げようと彷徨う腕を捕まえ。
いつの間にか笑い出していた。





くねりと腰を捩り、男は激しく吐精した。
それまでたらたらと零していたのは、快感故ではないのだろう。弾けるという表現がピタリと合うような量と勢い。それは大きな手を溢れ滴った。
匂いがまた強くなる。思いついて控えめな明かりを付けると、手をじっとりと濡らすそれは男の口元から漏れるものと同じ蜜と混じり合い、真珠を溶かしたような光沢があった。
甘い香りも強い。
はっはと荒い息を吐いてもがく足を掴み、ぐいと割る。突き出された性器は吐き出したばかりでだらりと垂れている。

舐めてやりたい衝動に駆られ、自分でも驚いた。
そんな淫らな欲求を抱いたことは無い。
それに、口にしては駄目だ。これはそういうルールなのだから。

代わりにそのぬるつきを借りて激しく扱いてやる。ぐったりと胸に凭れていた身体がうねり、男は嫌がるように腕を前に着いた。
這って逃げようとするのをまたも捕らえて腕の中に閉じ込める。にやりと悪辣な笑みを浮かべながら尻穴と竿を滅茶苦茶に弄ってやると、無理に引き出された快感で膨らむ。
オスのサガだ。仕方ない。諦めろと胸の中で語りかけ、一片の容赦もなく追いつめる。

いじめ抜いた性器は赤く腫れ上がり、吐精は幾度も繰り返された。コロネロが匂いの甘さに耐えられなくなるまで続けたのだ。
男はその度に呼吸を弱々しくしていたが、果てに、とうとう一声鳴いた。
「ア……」
か細い声だった。
耐えきれないで、か。また新しい手なのか。
判断はつけ難い。何しろそれを終わりに、かくんと頭が落ちた。男は意識を失ってしまったのである。

コロネロは貯めていた息を深く深く吐き、鼻から匂いを抜いた。
濡れた布で身体を拭い、男のそれも綺麗にしてやる。最後に落ちていたシャツを着せて腕に収めた。またふらふら出て行かれては困る。

目を閉じると、不自然な程早く眠りが訪れた。


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