幕間"ツナ"

 

良い稼ぎ口があるのよと紹介された先が、まさか南米とは。知っていたら行かなかった。
今年三十路の三流プログラマーの末路としては些かぶっ飛びすぎである。
しかしその時tunaは素早く返信した。クレジットカードの支払いがもうすぐそこまで迫っていたし、前払いなどという気前の良い条件はそれだけしかなかったからだ。必要なのはマシンと、バッテリーと、言語解析ソフトだけと言われれば信じてしまう単純でお粗末な脳味噌だった。

tunaはハンドルネームだ。本名の沢田綱吉のツナ、が小さいときからのニックネームで特に悩むこともなく使っている。会う奴には魚が好きなのかなどと聞かれるが、そっちのtunaじゃない。マグロは好きだけど違う。説明するのも馬鹿らしいのでああそうだよと適当な答えを返す。結局面倒くさがりなのだ。仮とは言え最もわかりやすくアイデンティティを象徴する名前というものにすらこだわりを持てない程に。
だから人生も失敗するんだろう。

途中までは平凡だった。私立の三流大学に居る間、ひょんなことから仲間とIT関係の会社を立ち上げ、ヒットしてしまったのが間違いだったのだ。仕事の関係で引っ張っていかれ渡米。3ヶ月で路頭に迷う羽目になり、選んでられなくなった。違法ソフトやハッキングまで手を出してどうにか食いつなぎ、ぎりぎりの自堕落な生活を今の今まで営んできたツケ―――そう考えれば、まだ諦めもつくだろうか。

特有の湿気と熱でマシンのご機嫌は最悪だった。エラーばかり起こし、バッテリーもいかれ始めた。最初こそ友好的、協力的だった村人は手のひらを返したように態度を変え、通訳は帰れという言葉しか訳せず。
気付けば八方ふさがりの調査団のお荷物と化していた。
一応、加わるための通過儀礼として言語学者としての体裁を整えてもらったものの、ツナの語学力はお世辞にも良い方とは言えなかった。かろうじて英語は必要に迫られて話せるものの、基本的に人と喋る事が不得手なせいでキーボードを打っている方が早い。楽だ。
彼の仕事は未だ全部は解読されていない古代文字を、一応、解読ソフトにぶち込んで僅かでも手がかりを掴む、それだけのものだった。
コミュニケーション不足の余り東洋人の無口と誤解されているが、それは違う。最初こそ辛抱強く考古学のレクチャーをし、相手をしてくれていた他のメンバー………まっとうな人たち、は今や完全に気が狂ってしまった。調査に訪れた現地の遺跡でとんでもないものを発見したというのだ。

ネクロポリス。
死都という意味だ。誰もいない無人の遺跡がそうなら世界中に転がっている代物だが、学者達が口々に議論を戦わせ、調子が狂って使い物にならない機械を叩いてどうにか目覚めさせようとしているのだからまた別なのだろう。素人にはサッパリ分からないが。


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