ネクロポリス
呼ばれているような気がして振り返る。広大な1と0の世界に波紋が広がり、別のものが入り交じる。
不快に顔を顰め、それは歩き出した。せっかくこの心地よい世界で静かに過ごしていたのに、邪魔が入ったからだ。歩きながら懐から"入力板"を取り出して指示を叩き込む。瞬く間世界は白からグレイに変わり、めまぐるしい文字の配列が生き物の如く宙を飛んだ。頭蓋を擦り抜けると震えるような快感が走る。
この心地よい空間を、最近少しずつ蝕むものが現れたのだ。白壁は綻び、汚い割れ目を晒している。
それは怒りながらやってきてその亀裂に修復のプログラムを打ち込む。最初は、すぐに壁が繋ぎ合って治ったのに今は違う。打ち込む側からボロボロと崩壊を始め、闇色の触手がぞろぞろと這い出してくる。
嫌だ。
するりと逃げて、また立ち止まる。闇は必ずしも嫌な感じばかりではない。たまに与えられる痺れるような甘い感覚、引きずり込まれるような熱さは怖いけれど魅力があった。けれど、まだ此処を壊される訳にはいかないのだ。
ため息を吐いて入力板を放り出す。代わりにそれが手に取ったのは一本の杭だった。
闇に打ち込んでやり、少しでも此方の白に触れさせれば、少しはその増長が収まるかと思って。
しかしそれが思った通りにはいかなかった。触れた途端、闇は嬉々として腕に這い登り、足に絡みついて動けなくしてしまった。
逃げようとして果たせず、せめてこちら側に引きずり込もうと引っ張るがびくともしない。力強いそれが腰に絡み、喉元へ這い上がり、口をこじ開けて何かを入れた。喉を焼くこの感覚は覚えがある。酒だ。
余り好きじゃないのに。
藻掻いてふりほどくと、闇は笑い出した。嫌いかと問う声がする。低い男の声で、面白がってまだ口に注ぐ。嫌だ、嫌だ。
ぬぐぬぐと股を割って入られる。全身から力が抜けた。いやらしく蠢く闇が身体の奥深くを犯し、揺さぶってどろりとした液体を吐き出す。
嫌………ではないのかもしれない。
徐々にそれは抵抗を止め、闇から与えられる快感に漂いだす。元来流されやすい性質を持っているので、逆らわず痺れるような快楽に声を上げた。ア。そして断続した音が喉から唸る。あ、あ、あ。
闇は喜んで喉に手を突っ込み、強い腕が口を犯した。中と中を犯されて悲鳴を上げると、揺さぶりは更に激しくなる。気持ちよさに酔っていると、不意に
「がはっ………!」
腹を抉る一撃が来た。激しく咽せ、のたうち回り、腹から喉にかけてずるりとしたものが這い出す。激しく瞬きをしながらげえげえと、最後の一滴まで吐き出すと急に身体が冷えた。
ひゅんと風を切る音がして、目の前に銀色に光る刃が突き刺さった。刃渡りの長いコンバットナイフ。それに、突き刺されてびちびちと跳ねる、植物の根のような生き物がアップで視界に写り、それは、ツナは悲鳴を上げて飛びすさった。グロ系は苦手の苦手なのに………!
後ろへ飛んだが、其処は狭かったのですぐ何かにぶち当たった。後頭部を強打したので抱えて唸る。我慢できず、叫んだ。
「いてえ!」
ヒイヒイと蹲って涙を零す、その様子をコロネロは静かに見ていた。
出発の前の晩。いつものようにやってきた男を組み伏せて抱いた。この頃徐々に声が高く、多くなってきていたので、口の中を重点的に責めてやると達する前から男は声を上げた。蜜が、撒き散らされるようにふんだんに地面へ降り注いだ。
ふと思い立ち、口に指を突っ込んだ。ぺろぺろと這わせる舌の動きは女の口淫を思い出させたが、いつまでも遊ばせていれば噛み付くかも知れない。
腕を引いた。ちゅぱ、と舌を離したその口に、思いつきで酒を流し込んだ。
就寝前にお裾分けと言って、調査団の一人が持ってきたのだ。どうやら明日の出発を前に恐怖を払う清酒………だったらしく、上等のスコッチだった。
一口、湿らせて置いて置いたものだ。仕事時、基本的に飲酒をしない。
男の目が揺れた。aの音は止まず、長く延びた。
いつものように細い身体を犯し、揺さぶりながら注意深くコロネロは観察していた。また喉に指を入れると、エッエと吐きたそうなそぶりを見せた。
もう一方の手で抑えていた胸から腹にかけて。ぞわりと脈打った。
間髪入れず、迷わず、拳を打った。
思った通りだ―――
男が吐き出した気色の悪い物体は、生き物のようにのたうちまわり、金蜜を吐き出しながら震えている。ナイフでその頭を潰すとぐちゃりと嫌な感触がした。
ひゃあ、とかなんとか間抜けな悲鳴がしたので見ると、男がその場所から飛び退いた所だった。テント内に置いてある木箱に強かに頭をぶつけ、今度は叫んだ。
忙しい奴だ。
「目ェ冷めたかコラ」
突然発せられた声にツナはびくりと顔を上げた。彼が注意深いたちなら、その低い声が聞き覚えがあるような気がしたかも知れない。
けれど、今彼はパニック状態だった。突然放り出された身体が実体を伴って意識とシンクロを果たした途端、ぬるついて熱を持った下肢に気付いたからである。
「な、な、なにこれ」
気色悪いナゾの軟体動物から距離を取り。次に尻に手を当ててなんだこれー!と叫ぶ。青くなったその顔色が、ゆっくりと距離を詰めたコロネロを見て真っ赤に染まった。
カクカクと顎が震える。
上目遣いになりながら、なにやら手を鼻の辺りに持っていく。眼鏡を押し上げる仕草だとコロネロは気付いたが、男の方は冷静に状況を見れるような精神状態ではない。
「来な」
腕を掴んで引き寄せる。手っ取り早く背面座位で再度身体を繋げると、男は情けない鳴き声を上げて首を振った。嫌、嫌。
「散々やってた事だ。今更恥ずかしがるんじゃねえよ」
うぅ、とくぐもった鳴き声は、身体を揺らすと甲高い喘ぎにシフトした。しぶとく嫌を繰り返す首を押さえ、匂いを嗅いで確かめる。
もう、甘い匂いはしない。
「いいからさせろ」
口付ける。やっとだ。
長く我慢していたのでコロネロは満足の息を男のそれに吐いた。激しく中をかきまわし、舌を吸って歯列を舐める。
喉奥へ這わせると相手は身を強張らせた。少し引いて、くちゅくちゅと互いの唾液を掻き混ぜる。
はふはふと頼りない呼吸を繰り返す男の目は茶色で、子供っぽい表情がやはり30には見えない。東洋人はいつ年を取るのかと不思議がっていたあいつの気持ちも分かる。どう見ても十代、いいとこハタチだ。
真っ赤な顔で鳴く男から視線をずらすと、ナイフに貫かれたあの気色悪いモノは既に事切れていた。どろりとした蜜と同化して地面に染み込んでいく。
ざまあみろ。
親指を下に向ける下品なジェスチャーの後、コロネロは本格的に貪る為男の身体を横たえた。怯えて熱を持った眼に獰猛に笑いかけると、一息吐いて激しく突き入れる。
「アァ―――ッ…」
「煩い………」
声がやっと出るようになったと思ったら、思わぬ不都合だ。
こじ開けて自らの舌を突っ込むと、律動を開始する。夜が白んできた。さっさとしないと、物音に気付いて起き出してくる奴がいる。
next
文章top
|