ネクロポリス
呪術師は常に村の中心に居た。
村は大きくなり、町となり、国となる。しかし基本的な支配形態は変わらず、彼は常にその真中に座していた。
もっと、大勢になる筈だった。
もっと、大きくなる筈だった。
人を操り、病を治したり死に至らせたりしながらも、絶対的権力を持ちながらも―――
突然嵐のようにやってきた外敵には敵わなかった。
「スペインの侵略、植民地支配。またえらい昔の話だ………」
殺されて壊されて奪われて国は滅びたが呪術師はまだ生きていた。
それは考え、あまりにも強力な外敵の力に怯えつつ自らの呪術を極めてしまった。
「ヴァ、ヴァア、タシ、ハ」
仮面の奥から酷く不明瞭な言葉が聞こえてきた。風にかき消されそうな、囁きのような声だった。
「老イルコトガァ―――ァ、イ、スヴェ―――」
ぞわり、と闇色の手足が這い出す。ツナは気付いた。
手足だと思ったその黒いものはあの虫と同じ。
・・・・・
あの死んでいる人たちの虫と同じ。
「テ、ミズ、底ニィ―――ア、アァ、オマエモ―――」
「つまりだな」
コロネロは"呪術師"の言葉をぶった切った。
「あの虫が体内で生成する麻薬物質を長期的に接種すると、代謝の異常が起こる。そう、研究では立証されている。通常なら考えられないぐらいの傷が治るし若いままで居られるが、勿論自然ってのは足し算引き算がお約束だ。麻薬漬けの脳がスカスカになってそっちがイカれやがる。ついでに言えば、その虫を身体に付けようたってそれも一苦労だ。大概失敗してこの通り」
ごろりと転がした死体から黒い泥がごぽりと漏れた。
「虫が奇形を起こして黒く変色しているだろう。体の方は文字通り寄生虫の巣窟、分解が速いのはそのせいだ。僅かな神経と外部だけは形を保っているが………ドロドロだ」
「オマ、エ―――」
「ひっ」
ぞろりとのばされた虫の"手足"が、ツナの足を掴もうと手を何十メートルも先からのばしてくる。慌てて後ろへ引く。
「グロ系は苦手なんだって!」
叫ぶその首根っこを掴み、猫の子のように引き抜いてコロネロはまじまじとツナを見つめた。
「お前だよお前。お前は特異体質なのさ。虫が死なないで成虫になれる体をしてる」
ツ………と指を這わせ、にやりと笑う。
ツナは時と場所を考えろと怒鳴りつけそうになり、慌てて口を噤んだ。
わざわざ墓穴を掘ることはない。
「恐らくテメエもそのクチだ。だからアホみてぇに長生き出来たんだろうが―――」
ポンと放り出されて転がったツナの腕を、副隊長が掴んで引き寄せた。
「それも今日で終わりにしてやる」
―――オロカ…ナ………ヴァ…シ…ハ、シナヌ………
「シュガー・バグがミミズ並みの生命力を持ってるのは承知してる。二つに切ったら二匹のシュガー・バグ。だから原住民も始末しきれないでいたんだろう………が」
皆が一斉に身を伏せ、耳を閉じたのでツナはオロオロと周りを見渡すばかりだ。
落ち着かないのを、副隊長が抱えて耳を塞ぐ。
目だけはしっかりと前を見据えて。
「こっちには文明の利器ってモンがある」
隊長風向き良好ですー!なんて素っ頓狂な声が脇で上がるので驚いた。
ザクザクと沼際の小石を踏みしめて後退するコロネロに合わせるよう、仮面の虫、呪術師はのろい速度で進み始めた。ぼたぼたと零れているのは腐った虫の肉だろうか………
ガタガタ震えながら見ていたツナは、何やら懐から手で持てる塊を出し、唇を押しつけて派手な音を立てたコロネロに仰天した。
ぶんと腕が振られ、彼もまた下がって地面に伏せる。盾にしている岩陰でカチリと小さな音がした。続いて爆音。
しかももの凄い。
「やりすぎなんだよォ!!」
「ミサイルが良かったか?」
C4を標準装備に持ち歩いている部隊と出会った幸運と不運に苛まれながら、ツナは涙目で叫んだ。
沼にかかった爆発は泥を巻き上げ、それは周囲にふんだんに降り注いだ。他の誰でもなくよりによってツナにだけ大量のそれが降ってきて、頭のから足まで泥まみれになってしまったのだ。
マシンとお揃いの格好に、皆が笑い出した。陽気のネタになるにも限度がある。
「悪かった」
悪びれない態度で彼もまた笑っている。
顔の泥を拭われながらツナは今にも噛み付きそうな形相でコロネロを睨み付けた。
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