ネクロポリス
装備も人も何もかも、一緒くたに放り込まれている。
軍用ヘリに収容された後、見下ろした森は緑一色―――ではなかった。あの忌まわしい沼はプラスチック爆弾により一部が崩壊し、水がすっかり森へ抜けてしまったのだ。
黒ずんだ泥の底にあったのは、遺跡と同時代様式の街と大量の死骸だった。骨になっているもの、腐りかけのもの。現地の人間はその光景を一目見て目をそらした。きっと中には彼等と血縁関係にある、先祖のものもあるのだろう。
この死者の都を、学術的に大変価値があるものだと、目を覚ました教授は熱を入れて語ったが恐らく此処へ調査が入るとしたら軍が仕切る筈だ。一連の騒ぎの元となったシュガー・バグのせいで。ツナなどはあのクソッタレの虫のせいで酷い目にあった思いでしかなく、一時も早くこんな所からはおさらばしたかったのだが説得は思いの外難航した。結局迎えの兵がチラチラと見せる銃に脅されて乗ったようなもので、学者陣は著しく機嫌が悪い。
同行者の救出。
一部の犠牲者の遺体回収、状況報告。救助申請。
無事大仕事を終えた傭兵隊は、まだ村にとどまっている。第二便で帰る予定だと聞いて、正直ほっとした。
一体どんな顔をして話せばいいやら、ツナは未だに掴めないでいた。大変世話になったことは確かなのだが、笑顔でありがとう!と礼を言うにはあまりにあまりなコトガラも色々とある。
結局、彼は自身の最たる特性を生かしたのだった。つまり、曖昧にして忘れたフリをするということ。きっとそのうち普通のいつも通りの生活に戻ればあの異様な一月の事は忘れられ、あの、出会い頭の事故みたいなアレコレも無かったことに出来る。
違いない。
「横暴だ!」
突然上がった大声にツナはうんざりした視線を向けた。まだ悔しがっている彼等には可哀想なことだが、あの不気味な襲撃を考えればそれはどっちもどっちと言えよう。
"呪術師"に操られ危うく落とすところだった命を、助けて貰ったにも関わらず、こうして輸送機に乗せられてからもまだ強い調子で傭兵隊への、つまりあの青年隊長への非難を続けている。
「我々にはあの遺跡の調査権があるのだ………今更余計な理由で邪魔だてされるいわれは」
「あ、そのことですけど」
強請って貸して貰った、通信用の激軽いマシンをつまんなそうにカタカタ弄りながら、ツナはぽつりと口を挟む。
「あの遺跡調べても何も出ませんよ。ほら、コレ。上から見た図をざっと洗ってみたんですけど」
粒子の粗い画像をアップで写す。
「ピラミッドと周囲を囲む石像、それと同じだけのスペースと石くずが反対側にも残ってますから。で、まっすぐ沼の底の街に続く………と」
立体的に見せられれば、もっと納得させるのに。
軽すぎてそれすら出来ない。そもそもソフトがない。
「門ですね。街の名前があったんでしょ、伝説とやらの」
「………」
「俺達が世話ンなったあのけったいな化け物が、獲物寄せる為に壊さないでおいたエサだって」
あの隊長さんが、とは言わなかった。もう必要なさそうだった。
もっとも彼はデコイ(囮)という言い方をし、部下は皆ウンウン頷いていたのを、理解し難かったツナは懇切丁寧に説明して貰ったのだ。
「その………大昔の侵略とやらから身を隠すのと、住民は片っ端から腐って使い物にならないから補給しなきゃならないし。半分壊して半分残して。来るの、待つの」
「あ、あの化け物は………」
「ちゃんと死にましたよ」
死骸は欠片も残らなかった。
腐った肉と混じり合い、再生は不可能だろうとあの男はふんぞり返って言っていたから安心だ。
「元々、限界来てたんじゃないかって。だから―――」
俺を使おうとしてたらしい。ツナの顔は微妙に泣きそうだ。
長い間虫と同化して生きてきた呪術師の体は腐りと再生を繰り返し、素早く移動することすら出来なかった。だからこそ、あの爆発が効いたのだし。
本当によかった。
「あんなんがフラフラそこら辺散歩してたらロクなことになんないもんね」
それは1と0の世界でぞろりと触手を伸ばした。
細胞を複製し続けることで生き続けてきた本能が、データを繰り返し生み出していく。周囲のものから取り込んで、上書きを繰り返して這い進む。
(同時に複数のマシンで、同一のバグが発生し始めている)
この世界の利点は幾らでも一瞬で己を量産、送り込めるその利便性。
高揚がうねりとなり、不規則な並びとなってコピーされていく。最早感情はそれが知っている形で表されるのではなく、1と0で出来ていた。光がそれを別の世界へ送り込んでくれる。
「あ、なんかひっかかった?」
それは幾つも幾つも光の中へ進んでいった。
殆どのものはゲートをくぐるたび燃える壁に進路を遮られ、とりわけられ焼き尽くされ消失してしまうのだが。
(僅かに逃げ延びた一部のものが膨大な情報の海にダイヴする) |
Happy Life?
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