Happy Life?

 

機内では程々に休めた。週末を外したのでこうるさいガキはいず、スーツ姿のビジネスマンばかり目立つ機内では子供にぶつかられたり、ぶつかってきたガキが顔を見るなりわんわん泣き出したりという厄介な事から解放される。
少し広めのビジネスクラスでスーツの集団に混じり、迷彩のジャケットを着込んだデカい男がふんぞりかえっているとそれはそれで目立つ。だがチラチラと寄越される目線には慣れきっている。(良い意味でも悪い意味でも目立つのだ彼は)気にする方が馬鹿らしい。

タクシーに乗り込み、行き先を告げる。滑り出した車の窓から見える街並みは、変わったとはいえ僅かずつで記憶と違う所はそう多くない。
シカゴは洒落た綺麗な街だが、古くからマフィアが根を張ってきた都市でもある。歩いていれば知り合いの1人2人に会ってもおかしくない。

念の為、寄り道をした。
顔見知りのガンショップに入ると、ウィンドウには護身用、小型のハンドガンがずらりと並んでいる。しかもカラフルな色や模様付き………
頭痛がしてきた。
「商売する気あんのかコラ?」
「ある。あるから売ってんでしょうが」
都市部の治安が悪くなるに従って、こういったものがご婦人方に良く売れるという。ご婦人方はごっつい鋼鉄の感触や黒だの茶色だの地味なものには興味が無く、洒落ていて、バッグに一つ忍ばせていても邪魔にならない銃を求めているのだ。
アクセサリーめいていてどうもこういうのは………
「見てるだけで腹が立ってくるぞコラ」
「すみませんねえ」
商売人の顔から職人の顔へ。店主はレジを若いのへまかせ、店内奥へ招いた。
改造やチューンナップも兼ねたこの店を贔屓にする同業者は多い。

ずしりと重くなった。ようやく馴染んでくる。
体のあちこちにつけたホルスター、その中に収めた銃器は厚いジャケットを着込めばすっかり隠してしまえた。
それでもガタイが良く目つきの鋭い、見るからに勤め人ではない男がビジネス街を歩いて心なしか距離を置かれてしまうのは仕方がないだろう。
本人も至って気にしていない。日常だからだ。
方向感覚は抜群だった。標識と記憶のみで頭に入れた住所へ迷いもせず辿り着き、ゆっくり堂々とした足取りで昼時の事務所を尋ねる。
中堅の中古車ディーラー。デトロイトにも近いこの場所は車の商売もなかなか繁盛のようだ。大手の下請けも兼ねている―――見覚えがある社のエンブレムに苦笑。あいつも商売上手だからなと、派手な金髪とタトゥーがちらりと頭を過ぎった。

「ちょっといいか」
丁度同僚と出てきた女に声をかける。一瞬ビクつくのが何だが、直ぐに笑顔が返ってきた。
あえて笑みを返さず(返すと後で色々厄介なことになる)、サワダはいるかと尋ねると
「彼ならさっき出てったわよ」
「昼休みだから。いつもの店じゃない?通りの向こうにあるカフェか、一つ信号越えた交差点のチャイニーズレストラン」
「どうも」

勤め人や宅配業者が行き来する道路を渡り、一軒目で見つけた。
通りに面したカフェはガラス張りで、中が丸見えなのだ。その端っこの席でもそもそとクラブハウスサンドを分解して食べているのは紛れもなく。あれだ。
フレームレスの眼鏡をかけ、シャツの腕をまくって、細い手首に腕時計がはまっている。
小柄な彼は店のウェイトレスよりもまだ小さい。通りがかりに声をかけられ、またあの微妙な表情で曖昧な受け答えをして、視線を手元の新聞に戻す。

入り口は一つだよな。

にやりと笑って店のドアを開ける。逃げられたときの為に色々考えていたのだが、この分ではその心配はなさそうだ。
向かってくるウェイトレスに無言で奥を指さし、紙コップのエスプレッソを注文する。
多分故郷のそれとは違う味。
それでも店頭POPの"ハニーカフェラテ"よりは口に入れられるだろうと思う。甘いものは苦手だ。


next

文章top