Happy Life?
会社に近いただそれだけの理由で通っている店だが、ウェイトレスはミスなんとかに輝いたとか言われる確かに美人なピチピチの10代。
ツナは生身の女性を熱心に口説いたり、睨め回す大胆さは持ち合わせていないため、ふわあーキレイだなー、で大概終わる。
そのアッサリした反応が良かったのだろうか。
それとも事務所にテイクアウトする(…俺、パシリ?)数の多さ故か。なんでか知らないがいつの間にかツナ呼ばわりである。
今日も仕事の合間に席へ来ては、ぶつくさと愚痴を言い捨てていった。(俺、なんなのよ!)「シカゴは良い街だけど、イイ男がすっくなーいの」なんて、どう答えれば良いのかツナには分からなかった。ふぅーん、とだけ返した。
「聞いてる?」
「う、うん」
強制的に続けさせられた会話。とりあえず、間を持たす為に訊いてみた。
「どんなんがいいのさ」
そこから先は秘密の呪文のオンパレードだ。服やアクセサリーのブランドなどツナにはさっぱり分からないし、自慢げに腰のタトゥーをチラリと見せられたところでコーヒーを鼻から吹き出しかけ、照れ隠しに明日の天気を暗唱できるほど凝視するはめになった。
総合的に、"クールでホットでワイルドでセクシー"だそうだ。
「クールでホット………?」
わからん………
わからない、がとりあえず、彼女の好みから言えばデトロイトなどのデンジャーな地帯がそれにぴったりとハマるのではないだろうか。
未成年が一人フラフラする場所ではないのでその旨伝えると、
「アハハッ」
………なんかあからさまに笑われた………
もういいやい。
プイと顔を背けてサンドイッチと新聞に戻る。彼女は仕事に戻っていった。
今日の株価なんか興味はないけれど、一応会社での話題が新種のワーム一辺倒では困るので、努力が嫌いなツナもこうして新聞を読む。
あ、そうだ。タダで新聞読めるからこの店かよってんだわ。ン。
納得したところでサンドイッチはレタス層に辿り着いた。
しなびたレタスに食欲が湧かず、ツナはそれをチョイチョイとフォークで寄せて食事を終えようとした。見る人が見たら怒り狂う偏食ぶりである。が、肉親は海を越えて遠く離れ、友人は全て主にネット経由で連絡を取り合い直に会うことはほとんど無い。
完全に油断しきっていたが故に、向かいに人が座ったときも、「ああ混んできたから相席かな、出るかなぁ」とのんびり顔を上げたのだが。
ガタガタガタ。
ツナは見事椅子から転げ落ちた。新聞を取り落とし、眼鏡が半分ずれておちかける。片方の耳にかろうじて引っかかっているそれをわたわたと戻し縋るようにして椅子へ座り直す。ゴリゴリゴリと椅子ごと壁際に寄ると、向かい席で男はスイと片方の眉を上げた。
「よう」
「よ、よ………よう?」
っていうか!!
「なん、な、なんで」
ごつい迷彩のジャケット。重たげなミリタリーブーツを膝上に乗せて椅子へふんぞり返るこのポーズがこの男程似合う人間を知らない。存在そのものが偉そうだ。
「あんたがなんで?!」
「行くって言ったろ」
パクパクと口を開閉しつつ、ツナの顔色が見る見る間に青ざめていく。彼は一昨日を思い出していた。
「あの訳わかんない電話ァー!」
心なしかふわふわした足取りで、薔薇色に紅潮した頬で、ウェイトレスがテーブルにコーヒーを置いた。ツナが、ひっくり返っても裏返っても飲めないエスプレッソ。
友達?と小さな声で問われたツナの表情は不味いものを飲み込んだような。
コロネロに至っては、他人の存在など気にしていない。カップの中身を煽ると、彼にして"薄い"苦みにふんこんなもんかと飲み込んでしまう。窓の外を見る。
「ま、まーね!」
「ふぅん」
彼女は突如店に現れた怪しい、目つきの鋭い男の胸にかかっているドッグタグを見て目をきらめかせたが
(それ本物なんだよ〜〜〜!!)
ファッションでなく本当の軍人なのだ。
しかも、関わっては大変な部類の。
ウェイトレスの、熱の入った目線を見るなりツナは立ち上がって伝票を掴んだ。まとめて。
「それじゃごちそうさまー!」
思わず日本語で言いながらコロネロのジャケットを引っ張ってレジへ直行する。釣りもそこそこに店を飛び出すと、会社に向かって一目散に走り出した。
「なんだってんだ?おい、コラ」
「昼休み終わりっ」
青少年に害のあるモノを遠ざけてるんだよ!彼女まだ若いんだ10代なんだ学生なんだ………と答えたかったけれども、何をされるか分からなかったので言わなかった。(こんな町中で拳骨を貰うのはゴメンだ)
「ってかなんで!着いてくるんだあんた!」
「お前に用があって来たんだぜ」
「用?」
ツナがくるりと振り返って疑惑の目を向けると、がしっと大きな手が顎を掴んだ。
軽くだったが、それは彼を震え上がらせるに十分だった。コロネロは黒革の、フィンガーレスグローブをはめていたのですっかり戦闘仕様に見えた。しかし。
ヒイッと情けない悲鳴の上がる寸前、唇を親指の腹がツウと撫でる。
「………」
相手の意図するところを察したツナはガゴンと殴られたような音を頭の中に響かせ、ぴょっと飛び退いて慌てて会社に入っていった。
「わーついてくんなー!」
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