平行世界

 

わざとじゃない、わざとじゃないんだー!

自由の利かない右足で(だって怪我してるもん!)走りながら危険物を窓から投げる。派手な爆発音がして、病院が吹っ飛ぶ事態は免れた、が………
ツナは恐る恐る後ろを振り返る。人間爆弾と化したイーピン、その作動の原因となった男はきっと今の物音で目を覚ましたに違いない。そして、自分はあえなく一巻の終わりだ!
「ううっ」
涙と鼻水を啜り上げて、恐る恐る病室のドアに手をかける。どうせ逃げても後から追っかけてきて、三倍はボコられる事になるのだろう。それぐらいなら今。だってここ病院だしすぐ手当して貰えるし。
「失礼しますっ」
万が一の幸運、ヒバリがまだスヤスヤ眠っている場合を考え小声で挨拶をしながらそっと開ける―――と。

ざわわわわっ。





ツナは目を白黒させた。今の今まで影も形もなかった並中の女子生徒が、集団で病室におしかけているのだ。
彼女たちは短いスカートをひらひらさせ、ヒバリが先程まで眠っていたベッドの周りへ押し掛けている。なにごと?!と目を見開いていると、中央から聞き覚えのある声が響いてきた。
「こんな怪我直ぐに直してみせるさ」
「キャアーッ!雲雀様〜!」
「恭様ぁ〜、すてきぃーッ!」

………は?

「あのう、恭様これよかったら………朝4時に起きて作った手作りクッキーです」
「あっ、私も私もっ」
「ワオ!ありがとう子犬ちゃんたち。僕の為に早起きまでしてくれて」

………はあ?

ごしごしごしっと目と耳を擦って、ツナは再度其処を凝視した。
群れて群れて群れまくる女子の集団の隙間から、微かに見える黒い頭。紛れもなく、確かに。あれは………

「ヒバリ―――さん?」
「あっ」
女子の一人がツナに気付いた。どうも〜、と愛想笑いをしようとすると、彼女たちは顔を引きつらせて後ろへゾゾッと下がった。
「ヤダ沢田じゃん………!」
「どうして恭様のお部屋に沢田が?」
「こわーい」
「おいおい、君たち」
フッ。
無意味に前髪をかきあげながら、キラキラオーラを出したヒバリは言った。
「沢田君は僕の入院仲間なんだよ。病室から追い出されたというので、僕が同室を申し出たんだ」
「キャア恭様やっさしぃ〜!」
「紳士よね!」

紳士すか。

ツナはあんぐりと口を開けた。女子に囲まれたヒバリはよくよく見ると素っ頓狂な格好をしていた。最後に見たときは黒いパジャマを着ていたのに、今はなんと紫。しかも、シルクらしくやたらつやつやしているし、肩にかけている上着は―――学ラン?
しかし、白ランだった。
オマケに襟の部分には金の刺繍で縁取りがしてあって、やたらゴージャスである。今時歌舞伎町のホストもこんな格好はしない………
ゴージャスなヒバリが、気持ち悪いぐらい爽やかな笑みを浮かべて話しかけてきた。
「僕の顔に何かついているかい沢田君?」

ぞわわわわっ。
もうそれだけでツナはその場を逃げ出してしまった。


2006.4.15 up


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