平行世界

 

急いで病院の通路を走るツナは、必死でこの気色の悪い空間から逃げ出していた。
しかしおかしな事がある。「通路は静かに!」とか「走らないで!」という張り紙がそこかしこにしてあるというのに、走るツナは誰の注意も受けない。それどころか、すれ違う医者や看護婦はオドオドと視線を逸らし、除けていく。

1階のロビーへ下がってきた所、ツナは丁度受付に居た人物の後ろ姿を目に留めた。あれは、多分、獄寺くん。
先程までトラックに轢かれて白薔薇を赤薔薇にして自分も全身血まみれだった筈の獄寺は、受付の人に向かってもごもご小さな声で何か言っている。聞こえないらしく、苛立ったように「だから、何号室の何さん?!」と聞いているオバちゃんにびくりと背を振るわせる。
「獄寺くん!」
「はっ…!」
振り向いた獄寺の顔を見て、ツナはまた驚愕した。
獄寺は黒縁の眼鏡をかけ、トレードマークの指輪やバングルもしていず、シャツに黒チョッキを合わせ全てをズボンの中に押し込めたたおぼっちゃまファッションだったのだ。
「あ、あ、10代目………こんにちは」
「獄寺くん………どうしたの、それ」
「え、えーと………あのう、そのう………」
お見舞いです、と今にも消えそうな小声で言って、差し出したのは何故か六法全書だった。
「退屈するといけないと思って………」
「だからって六法全書?!」
「あの………沢田さんはもっと難しい本読むと思ったんですけど………ウチにあるのそれが限界で」
「獄寺くん???」
あのう、そのう。
もじもじと小指をつつき合わせ、おちつかなげに膝を摺り合わせて獄寺は言った。
「お怪我の………様子はどうですか………」
「う、うん。怪我はね。怪我はまあいいんだけどね。それよかヒバリさんだよ!」
「ああ………確か恭弥先輩も入院してましたね………」
恭弥先輩?!
思わず目を剥いてしまう。あの獄寺が、自らダイナマイトみたいな獄寺が、誰かに先輩付けをする所など見たことがない。
「どうしたんですか、沢田さん」
「へ?」
「何か、いつもと違うような………」
それはこっちの台詞だ。


2006.4.15 up


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