平行世界

 

教室に入ると空気が変わる。
ツナは出来るだけ目立たないように日々を過ごすことを自分最大のミッションと化しているような所がままあって、「どうせなにやってもダメだから」という諦めが其処に付随する。リボーンが来るまでは成功していて、それ以来は悪目立ちしているのが現状。
しかしそれも、付き合う人間がキャラ立ちまくり目立ちまくりだからであって。
ツナ本人にこういった、遠くから伺いつつ緊張、みたいな視線が来るのはまったくもって初めての経験だった。
「………おはよう」
「「「おはようございます沢田さんっ!!!!」」」
ひぃぃ〜。
ツナはそそくさと席に着き、頭を抱えて机へ伏した。
冗談じゃない、こんな状態耐えられない。

HRが終わり、授業に移る間の休み時間。
とうとう周囲の空気に耐えきれなくなったツナは保健室で胃薬を貰うことにした。
あんまり緊張し過ぎて胃が痛くなってきたのだ。
「ごめんくださーい…」
そろそろと扉を開けたツナは、いつも通り女生徒ときゃらきゃらお話しているであろう保健室のセンセーを無視して薬箱に手を伸ばそうとしたが………
「おーボンゴレ坊主」
「どっ………どどどっ………」
「悪い、来客だ。ちょっと待ってろ」
「ドクターシャマル???!!!」
「なんだ改まって。珍しいな」

ツナが絶叫したのも無理はない。
シャマルは机で書き物をしていたのだが、その膝に乗っていたのは制服姿も新しい、若い、細い、男子生徒だったのだ。

「あのあのあのあのそのお方は………?」
「俺の仔猫ちゃん」
「いやああああああ――――――ッッ!!!」

そんな、まさか、有り得ない。
有り得ないけれど、有り得るのだこの世界では。

「なんだいきなり。あれ、もしかしてショックだった?」
「ショックもショック、大ショックですよ!」
「ほほう、お前もとうとう真実の愛に目覚めたか………」
「にじりよってくんな!」
じりじりと距離を詰めてくるシャマルの目は、完全にハンターだった。
よく女の子を見ているとき、そんな目をしたものだった。
どうやら―――こちらのシャマルは男色家のようである。
「そういう意味じゃない!わあ尻とか撫でないでくれますか!!」
「いいぜ、そういう事なら。俺が手取り足取り腰取り優しく教えてやるよ?」
「要らねェ―――!」
絶叫。
「気にすんな。誰だって初めは怖いんだ。でも経験豊富な年長者に任せておけば心配ないって!優しくしてやるからこっちおいで」
「失礼しましたぁっ!」
バシーン!
扉を叩き付ける勢いで閉めて、ツナは這々の体で逃げ出したのだった。



「あっ………てて…」
まだ治りきらない足で走ったものだから、ツナは眉を顰めて患部を抑えた。
こんな事なら黙って入院しておけば良かったとも思う。
「まさかシャマルに迫られる日が来るとわ………」
ううう………
ほろりと涙を零しながら足を押さえ、壁に寄りかかる。

其処へ通りがかったのはツナのクラスの生徒達だった。
痛みに顔を顰めるツナの脇を足早に通り過ぎ、こわごわ伺っていく。
切ない。
「大丈夫かよツナ?」
「やっ…山本…」
山本と、獄寺が通りかかる。相変わらず眼鏡をおどおどと押し上げ、あのう、そのうとモジモジしている獄寺と、笑顔は笑顔なのだが軟派な雰囲気を漂わせている山本にツナは微妙な笑顔を返す。
「足痛いの?」
「うん………」
「これ………病院戻った方が、いいんじゃないでしょうか………」
「やっぱりそう思う?」
「保健室のオッサンは?」
「ととととんでもない!」
ブルブルッと首を振るツナに、二人もまた頷いた。
「そうですよね」
「足動けないのを良いことに、触りまくるなあのオッサン。襲われるかも」
「男なら誰でも身の危険を感じてしかるべき人物です」
もう触られて襲われた事をツナは黙っていた。
「ほら」
山本がその場にしゃがみ込む。おぶされと言っているらしい。
「ごっ、ごめん………ありがとう」
びくびくと礼を言ったツナに、二人は目を丸くした。


2006.4.17 up


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