平行世界
同級生の背に乗っかっているというのが、まるで信じられない大きさでツナは感心した。
「山本って大きいんだねー」
「ん、まーな」
そこまでは、ツナの知っている山本と同じ対応。
「けどおっきいのは其処だけじゃねーんだぜーハハハ」
「ハハハ…」
こんな親父発言は、しない。
「重くない?」
「全然。ツナ、ちゃんと食ってんの?喧嘩じゃ腹はふくれねーよ?」
「山本君………10代目に失礼だよ………」
おどおど、おろおろ。
獄寺はツナの鞄を持って一緒についてきながら気が気ではない。
タクシーで病院に乗り付けた3人は、受付で少し手間取った。
獄寺が話しても埒が明かず、山本が話して………いる内にナンパしだして(今日の受付は若いお姉さんだった)、耐えかねたツナがほいと顔を出すと
「すっ………直ぐに先生にお通ししますので!」
と畏まられた。
「………」
いい加減なれてきたけれど、こういうのはどうも………
「困ったもんだ」
「はい?」
診察室前で待つ間、受付付近に戻ってしまった山本の背中を見ながら。
ツナは足に負担をかけないよう手で支えながらぼそりと言った。
受付の人が貸してくれた松葉杖は、ツナには少し大きすぎる。
「痛いんですか?」
「んー…」
大人しい獄寺、という生き物を見るツナの目は改めてまんまるだった。
「あのぅ…」
「え」
「俺何かご不興をかうような真似を?外しましょうか?」
「いや違うって。ちょっと珍しいモン見た気持ちで」
「???」
「いいんだよ。その………此処にいてくれたら嬉しいよ」
獄寺はぽかんと口を開けた。
その後真っ赤になってぱくぱくと池の鯉みたいに開閉し、しきりに眼鏡をおしあげてわたわたする。
「沢田さん、昨日からちょっと雰囲気違うんですね」
「そう?」
「優しいっていうか………」
ぽっ。
眼鏡の奥の目が潤んでいる。
頬を赤らめて伏せる目を縁取る睫毛が長く、人形のような造作が目立つ。
珍しいのと微妙に気色悪いのとで、ツナはそれをまじまじと見つめた。
「あまり………見ないで下さい」
「なんで?」
「恥ずかしいので………」
ぞわわわわっ。
恥じらう獄寺を目の当たりにしたツナは、顔を青ざめさせて立ち上がった。
「さあ!先生に見てもらわなくちゃ!」
「えっ沢田さんどうしたんですか急に」
「ええと診察室はこっちかなー」
「おや君達」
呼ばれても居ないのに診察室へ侵入しかけたツナとは逆に、戸口から出てきたのは―――
「ヒャアアアア!!」
シルクのパジャマの上に純白の学ランを羽織ったヒバリだった。
ご丁寧にも胸ポケットには深紅の薔薇がさしてある。
「ヒバリ先輩こんにちは」
「やあこんにちは。どうしたの、こんなところで突っ立って足の怪我はもういいのかい?」
「………」
物腰柔らかい優しい口調のヒバリ。
属性、キザ。
(うわあああああ)
泣きそうになりながらツナはかくかくと頷くことしか出来ない。
「あーツナー?」
缶ジュースを持った山本が売店から戻ってくる。
通りすがりの看護婦さんに視線が釘付けになりながら。
「沢田さん?」
眼鏡を押し上げておどおどと落ち着かない獄寺。
「大丈夫?」
「どしたツナ?」
「沢田さん」
「だぁ―――――――――ッッッッッ!!!!!」
ツナはその場から逃げるように走り出した。
あまりの異常事態に頭の中身よりも体が先に反応してしまったようで、彼にしては珍しい速さだった。片足を引きずりながらも、凄まじい松葉杖さばきでカコカコカコカコ………角を曲がって階段を上がり、見覚えのあるナースステーションと通路。
入院していた一室の前で(そう、ヒバリの入っていた大部屋だ)ツナは振り返った。
ドアは手を離しても自然に閉まるようになっている。
ほんの僅か開いたドアの隙間からテレビの音が漏れた。
―――え。
呆然と、
ツナとツナは顔を見合わせる。
まるで合わせ鏡のようにそっくりな二人が、廊下のあっちとこっちに居るのだ。
そりゃ驚くってもんだろう。ツナは激しく目を擦り、何度も瞬きをする。
向こうのツナはそんなことはせずに、ただじっと睨むような目をしている。ああ、見据えているのだ、良く確かめようとしてそんなことをしているのだと理解できた。
ツナは制服姿だが、向こうは入院着のパジャマ姿で………多分。
ほつれて裂けてぼろぼろで、所々血みたいな赤いシミがついていなければ、あれは確かに昨日まで着ていた俺の―――
ツナとツナは同時に相手に近づいた。
不思議なことに恐怖や嫌悪はまるでなく、長く会わなかった兄弟のように懐かしい気持ちさえする。相手が考えていることが手に取るように分かり、同時に互いの手を掴もうと近づいた。
触れた。
2006.4.24 up
next
文章top
|