パートナー
それはカタログと一週間にらめっこして決めた大事なものだった。値段と内容がそれこそピンからキリまであるのだけれど、そのピンもさることながらキリの方の値段も結構凄かった。はっきり言って、高い。一介の大学生アルバイターには相当大きい支出となった。
決め手は、ふと思い出した初恋の女の子の言葉。
リスとかハムスターとか似合いそう、(他人なら思いっきり小動物じゃねえかよ!お前の俺イメージどうよ!?と思っただろうが相手が相手だと全然気にならない)と言われたのだっけ………
無意識にめくったページにあった。
手頃な値段とサイズはシマリス型とエゾリス型、どちらも可愛かったがグレイの体毛にくりくりした目が愛らしいエゾリスにした。
それが。
「よろしくお願いします、僕のご主人様」
深々と床に這い蹲るこの物体はなんだ。
「いやよろしくお願いされたくないから。君、誰?人んち勝手に入ってこないで」
「クフフ、ご主人様はクールな方なんですねっ」
「人の話聞いてる?」
チャイムの音とお届け物ですコールに顔を出し、サインをぐちゃっとやったらこの始末。
ずいずいのいのい宅配人とドアとツナまでも押しのけて部屋に入ってきたのは、人だった。
正確には、人型か。
「どこでどう手違いが」
「ご主人様」
「起きちゃったんだろうなあ………こら服を引っ張るな!」
「寂しいんです…」
「君寂しいと死んじゃうタイプ?」
「いえ別に」
さらりと答えて腕を放し、じろじろと部屋の中を見渡す。
見た目完璧人間、しかも男、のこのでかいのを、どうやったら返品できるのだろう。
「ご主人様僕おなか空きました」
「これでも食ってろ!」
エゾリスの為の餌を投げつけると、「てーい」という言葉と共に打ち返された。
ばしんと顔面にあたった袋。正直、痛い。
「新しい遊びですね!」
「………ちがう」
モラルという言葉が崩壊して久しい世の中。
無駄に発達した科学(悪魔の学問!)が人だの動物だの昆虫だのの遺伝子をいじくって、とんでもないものを作り出した。
その混合具合から軽度のものはミックス(雑種)、濃いものや2〜3種類以上のをかけあわせたものはそのものずばりキメラと呼ばれる人工的調整を施した遺伝子生物である。
それを生粋の人間に使って、体の一部を変体させるものもいれば―――
このように、ペット、愛玩用として一から作り売り出されるものもある。
「ご主人様、まずいです」
「注文の多いやつだなあ!」
何故かペットにメシを作ってやる羽目になった上、文句までくらった。
不味いなら食うなと皿を奪おうとすると、はしっと掴んでがカッっと吠える。おおこわ!………流石に人型、高級キメラ。戦闘能力も付加してあり、かなり強いらしい。ボディーガードの欄に星が5つもついてやがる。
「噛むなよ、返品するぞ」
「ご主人様のいけずぅ」
「クネクネもすんな!お前男性体だろーが!気持ち悪くてしょーがないんだよぉぉ!!」
ぞわわわわっ。
何の因果かエゾリス型ミックスペットを注文したらやってきた人間型キメラパートナーがやってきた………
しかも、男性体。
己の不幸にクラクラしてくる。こんな高級品、まず滅多にお目にかかれないけれど。生憎需要はまったくない。
「ご主人様はお暇ですか?」
「暇じゃないよ。掃除もしなきゃなんないし、買い物もなあ。まずお前が来ちゃったその辺の事情を問い合わせ………」
「そんなの必要ありません」
色違いのキラキラおめめが下からぐわっと迫ってきた。
「僕、そんじょそこらのキメラじゃないですから。変えることは出来ません、もうしっかり遺伝子に刻み込まれてますご主人様だけ生涯愛することを」
「はあぁ!?!」
「最近は下級のペットにまである機能らしいんですけどね。僕のはもっと高尚で意義あるものです。早くご主人様と馴染みたいので、契約が済み次第生物学的スイッチが入ります」
「契約ってまさかあんなんで………ギャー!」
宅急便のサインが契約代わり―――それはエゾリスの話。
人型ともなるともっともっと詳しい説明と、手順とある筈だが―――
「いやっいやっいやあああああ!!」
そんななんもかんもすっとばしてこいつは、最終モードがスイッチオンしてしまったらしく、完全な臨戦態勢で飼い主様の体を押さえ込んできた。
「クフフ、かわいいですねご主人様は」
「待った!待った契約解除!ナシ!な?」
「生体返品は受付ません」
「ぎゃああ!触るな脱がすな握らせるなァッ!」
「たくさんご奉仕してあげますからね………」
ペットはペット、小動物や犬猫と同じ感じで可愛がる用途。
けれどパートナーは、それはいわゆる生ダッチワイフ。だからこいつは本来ならチョー金持ちのおばはんかおねーさんかお嬢様の所へ行くはずだった代物で、一人暮らしの貧乏アルバイター大学生なんかの部屋に居ていいものではない。
「考え直せ!こんなこと本当にしても良いと思ってんのか?」
「失礼な。僕は自分の役割をきちんと心得ています。ご主人様にご満足頂けるかどうかが何より優先されます大切なんです」
「そのご主人様が嫌だ、と言ってる場合は」
「それは俗に言う、あれですよね。イヤよイヤよもスキのう………」
「ちがぁうっ!!」
もみくちゃにされながら説明書の欄を見ると、頭脳の欄にも星5つ。
まったくろくでもない知識ばかり詰め込みやがってと恨めしい気持ちになった。
「あっ、ちょ、ちょっと待て」
「わーご主人様すべすべ。肌柔らかいですねきれい」
「舐めるなオイ!」
「僕のカラダどうですか?綺麗ですかね?」
「………!」
上にのしかかったまま身動きできないよう抑えて置いて、やつは勝手に服を脱ぎだした!
とんだ視覚の暴力だ。男のストリップなんぞ見てもオエっとなるだけでうはうはなんてしないぞ!
一生懸命目を閉じているのに、
「ちゃんと見てください」
「いだだだだっ」
なんだろうか、この人型キメラ。Sっ気でもあるのか、ぎりぎり肩に爪を立てられた。
「いた、いだい!分かった見りゃいいんだろ!」
「どうしてそう喧嘩腰なんですか」
「お前が無茶言ってんの!」
とはいえ。
流石に高級キメラ、綺麗な体をしていた。あくまでも男として、だが。
細身ながら筋肉がしっかりついていて、軟弱な感じは全然しない。自分とはえらい違いだ。
「…ふえ」
それにその、耳の裏から首にかけてや脇、くぼみには鱗がきらきら生えている。
触ってみるとそれは予想通り冷たく、予想外に乾いていて、気持ちいい感触だった。
「蛇………?」
「そうですよ。クフフ、他にもあるんですけど今日はこれだけにしておきますね。悦すぎて気絶されても困りますから」
「………」
逃げたい。
退路を探すも、5つ星ボディーガードランクのキメラに押さえ込まれて動ける筈がなかった。
「ご主人様………あぁ、僕のご主人様なんだ………」
「いやあああああ!」
2005.12.22 up
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