パートナー

 

 

人型キメラパートナーの値段、というのは一般には公開されていない。
たまに金持ち特集番組で下品なオジサンオバハンが、自慢げに超美女超美男子のキメラに引きずられて(背が高くスタイルがいいのも彼等の特徴)ご機嫌に登場するけど、契約時に秘密を守る書類にサインしているため、ペラペラ喋ったりはしない………もっとも、喋りたくてうずうずしてる様子をみればとんでもない金必要なのが分かるけど。
それに、キメラ個々の能力にもよる。オプションがつけばつくほど人間型を保つのが難しくなるから、値段はうなぎのぼり。
説明書にはこの人型キメラの能力値が書いてあり、今にも冒険の旅に出かけられそうだ。

STR:☆☆☆☆
DEX:☆☆☆
CON:☆☆☆
INT:☆☆☆☆☆
WIZ:☆☆☆☆
CHA:☆☆☆☆
SEX:☆☆☆☆☆☆

上から順に腕力、機敏さ、体力、知力、精神力、魅力………最後は見ただけで分かると思う。飛ばす。(オーバーしちゃってるよ!)
もうすごい能力。
こいつ一匹=中規模会社年間予算、ぐらいはするんじゃないだろうか。車の方が安そうだ。

しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
寝っ転がったまま本を読むのは好きだけど、転がされながら上からのしかかられてどっかに契約解除、または停止のコマンドはないのかと死にものぐるい説明書を読むのは好きではない。早く早く早く、一刻も早く!
「載ってねえ―――!!!?」
「だから最初から言ってるじゃあないですか。僕と契約解除しようなんて客がいると製造元は想像してなかったんですよもうすごい自信作」
「分かる!分かるけど!でも俺は違うのだっておとこ」
「まあまあ。それも一度お試し頂ければきっと満足」
「したくないぃぃ!」
にこにこと笑顔で服を剥いてくるキメラ。こちらは本気で嫌がっているというに、どこまでも場の空気を読めないやつ、もしくは勝手に空気を作っちゃうタイプ。
潔く素っ裸になったかと思うと、そのシンプル仕様の服を(それでも俺のより大分質良さそう…)ぽいぽいっとうっちゃって、鱗をきらきらさせながら身を屈めて俺の頬を包んで唇を
「………逃げないでくださいよぅ」
「無茶ゆーな!」
「ああんもう、強情な人ですねっ」
「なに!なにそのキャラ!?ちょっ気持ち悪いんだけど」
「えい」
はぐ。
正面から鼻を噛まれて沈黙する。女の子みたいにまつげばちばちの、綺麗な色違いの目にじっと見据えられて出てこようとした声が喉に詰まる。
「な、なにを」
「食べちゃいますよ」
クアッと開けた口に、鋭い歯がずらりと生えていた。
「キャヒー!!!」
「クフフフフ」
もう一度口を閉じて、開けると元に戻っている。綺麗な真っ白の歯が歯磨き粉のCM並に生えそろっていてやたら健康的だ。
その真珠の歯が、かちっとこっちの歯にあたる。
「おんぐ―――!」
キス!キスされた!
キメラの男にキスされるなんて!!
俺はどんなヤバイやつなんだ………うああ………人生間違ってる。
真っ白に燃え尽きた俺とは逆に、キメラ男はくふくふ笑いながらしつこく舌を掻き回し、ちゅくちゅく音をさせてヨダレを啜った。俺はボーゼンとしてもうされるがままで、おまけに緊張してダーダーだったからさぞかし甲斐があったろう。
「………ん。さっき食べたお昼ごはんの味がします」
「お前の作って味見したんじゃんよ………」
もーいーだろ。勘弁して。
唇をなめなめ首筋をぺろぺろしているキメラを押しのけようとすると、
「これからが本番じゃないですか」
ぺろっと下着をめくられて裸の尻が、足が
「ああなんか擦れてる擦れてる!」
あまりの気色悪さに硬直、全身の毛という毛を逆立ててしまった。
「こういう肌寒い部屋で………」
「暖房費キツくて悪かったな」
「………体を寄せ合うっていいですよね、と言いたかったんです」
「いいわけあるか離れろぉー!体とかっつっておま」
局部を合わせる必要はない。
青ざめてガクガク震えると、キメラは路線を変更したようだ。
「うきゃっ」
「なんだかご機嫌ナナメですねご主人様は………こっちに直接きーてみましょーか」
瞬く間謎は解けた。
きゅっと股間を握られて思った。
親父かお前は。
怒るより騒ぐより脱力して深い溜息をつく。萎えた状態のものがさらにぐんなりしおれたのを見て、キメラ男はガッカリしたようだった。
「なんです、これ。僕に対する嫌がらせですか?」
「なんでそんなことしなきゃならん………違う。純粋に嫌だ。っていうか、お前が俺に対する嫌がらせじゃないかなあって、考えてたところ」
「………」
むう、とふくれツラをする。
どうやらキメラはキメラなりに、パートナーとしてのプライドがあるらしい。
「こうなったら………意地でもご主人様とエッチしますから!!」
「ストレートすぎるわー!」
ばちこーんと頭をはたいたのに、キメラはめげずに股間に潜った。ぱくんとくわえる様子は容姿に似合わない愛嬌があったが、一体何を参考にしているのか―――
「うおわっ」
スックーンと爪先から頭の天辺までうずいて思わず埋まっている頭を押さえ込む。引きはがそうとしてもスッポンのように離れない、生暖かい口。
「ひょーれふは?ほひゅひんはは」
「ど、どうって………ウッ」
なんだこいつメチャうまいじゃんよ!
いや、うまいのだろう、という仮定である。こんな刺激的な体験したことない。初めてだ。
それどころか俺はまだ………
れろれろと舌先で舐られる。あむ、あむと柔らかくくわえて口を振って揺さぶる。
動物じみた仕草にいたずらっぽい、徒っぽい目線。
「くぅっ………」
「………ぷは。ご主人様、あれに似てる」
涎と俺から出た何かでべたべたの口が、ぬるんと頬を滑った。やっぱ嫌がらせだ!
「小さいいぬ」
「………子犬?」
「こいぬ」
「なんで俺があんなヒャンヒャンうるさいのに似てるんだよってかはなせ!」
「クフフ」
こいぬ、と言うときの目は無垢だ。
ぼんやりと快感に霞んだ頭で思い出す。ペットの、パートナーの醍醐味は未熟なそれを自分仕様に育て上げていく育成ゲーム。心血注いで愛を注いで育てていく、教えていく。
こいつも頭はいいし知識もあるが、それはおそらく半端なのだろう。
丁寧だけども口調が不安定なのもそれが関係しているに違いない。
「かわいい、ご主人様」
「かわいくない!」
「ごうじょう、かたくな………がんこ、いじっぱり?」
むっ、むかつくなあ!
キメラは一つ一つ確かめるように舌に乗せていく。
頭の辞書と、実際と、合わせて学習している最中なのだ。
いやだいやだと思う気持ちと、しょうがないなあこいつ赤ん坊と同じだもんな………という甘い気分で揺れていると、それを吹っ飛ばすとんでもないことを言いやがった。
「そんなご主人様を素直にさせる秘密、僕持ってるんですよね〜」

………。

「ほら見て見て」
「見っ………んなもん見せるなよ」
自分の股間を指さすとは。呆れたキメラだ………アホだ。
目をそらすと、ぐいと戻された。目の前にあるのは

ちょっ………規定外?

「ひいいぃっえげつな!」
「ちょっとごめんなさい」
コロリ、と転がされる。キメラ男は自分で自分の、ご立派なそれを掴んで指でぬるついた先端を拭う。
透明な先走り(………だから臨戦態勢って言ったじゃん俺…)を指ですくうと、
「ギャワッ………ななななにを!どこに!」
俺の足をむんずと掴み、持ち上げて、尻の奥に突っ込んだ。
「ひえええ!!な、なに、こらお前何やって」
「大丈夫ですよすぐお薬効いていますからねぇ」
「薬―――?!!?」

………キメラ、っつのは。
最初に言ったとおり色々な能力を持っている。あの蛇の鱗みたいな、気持ちのいい肌もそうだし、今のそれも恐らくそうだ。
体内で作り出した、何らかの効果を持つ、
「………なにそれ」
「神経毒です」
「うっそ!」
笑顔で何を言うのかこいつは。
あんぐり口を開ける俺に嬉々として覆い被さりながら。
「麻酔とおんなじです。痛みを感じないように麻痺させます。そのあと、閉じていた感覚神経を一気に開けるので普段の何倍も過敏に感じやすくなる新作です!」
「なんだとおおおう!!」


2005.12.22 up


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