パートナー

 

札束を封筒に入れ、棚の上に置いた。
それ以上良い置き場所を思いつかなかった。タンスに仕舞い込んだらまるでパクったようで気分が悪く、別におとしものでもないのに警察に届けられない。
一晩、眠れなかった。

大学は既に冬期休暇に入っている、長い冬休みの間はバイト三昧の予定である。
冬休みの図書館は以外と混むので喫茶店は繁盛だ。と言っても小さな店、そうそうたくさん入らない。
疲労困憊する訳ではないのだが。
ツナが憂鬱なのはマスター狙いの客だった。一々呼び止めてはマスターマスター、うるさい。仕事中ですからと断れば、ケチだの気が利かないだの暴言を吐く。綺麗な格好をして化粧をして口元に手をあてて笑っているが、一枚めくれば皆同じ…

女性不信に陥りそうだからといって、男に走る気がないのがツナだ。
彼は今日も今日とてまやまやとのびてくる魔手から逃れ、無事ズボンをはいてバイトへ出てきた。
「綱吉君」
おっとりとした物言い。やわらかな微笑。
その笑顔が向けられている、それだけで店中から刺すような視線が突き刺さってくる。
多分、それは容姿だけではないのだ。
立ち振る舞い、知己に飛んだ中身。人を不快にさせない人柄、どこか俗世を超越したような―――完成されているような。完璧さ。
人生ではそんな人間が、極たまに身の回りに現れる。みんな憧れる。彼等彼女等の寵愛を得ることに必死になり、まとわりつくそれら、大概は距離を置く。当然だろう。だってうっとおしい。
だから―――
「綱吉君、看板しまってきていいよ」
「………え」
「今日は雪が積もるそうだね。店、早めにしめようかと思って」
向けられる声も笑顔もやわらかい。優しい。
ツナはこういう人種が眩しすぎて、一番臆病な接し方をする。遠く距離を取って離れてみてる。
それが、何故か心地よいと感じられるようなのだ。大して役に立っているとは思えないけれど、マスターはツナを気に入っているようである。

………まぶしい。

常に世の日陰を歩いてきたツナにとって、その笑みは眩しかった。
ついでに怖かった。周囲の気配がトゲトゲチクチクしてきたからだ。

たーすーけーてー。
半分泣きそうになりながらツナはそそくさと戸口に向かった、丁度その時チリンチリンとベルが鳴った。
ガチャと聞き慣れたノブの回る音、反射的に出たいらっしゃいませが喉に張り付いた。
其処に立っているのは、今朝やんやんと縋るのを蹴散らしてきた、そうムクムクがいた。ツナのサイズ違いのおさがりもまるでそのために其処に存在しているかのような輝かしい、美しさでいらっしゃる。
「ムクム」
「クフフ、来ちゃいました」
ポッと頬を染める、その顔はツナよりも上に上にある。
「いや来ちゃいましたじゃないから………なに!?」
「だって………寂しかったんですもん」
鼻をつつかれてビクつくと、ムクムクは唇を尖らせてむう、とした表情を作り、甘えたような声を出した。
さむい。なにしろ男だ。
どうかしらないが、少なくともナリは男ナリ。
「なんてくだらないこと考えてる場合じゃない!」
「ごしゅじん……」
「ここここっちゃこい!」
「綱吉君………友達?」
ぐいーとムクムクを引っ張って出ようとして、マスターの声にアッチャアー、ペチンと額をはたいて目を瞑る。なんてタイミングで来ちゃったんだお前。
店中の視線はもう釘付け。ムクムク、無駄に顔だけはいいものな。
ツナが引きつった笑顔ではあとかへえとか言いつつ振り返ると、マスターは相も変わらず(大物だ!)穏やかにコーヒー飲む?とか言っちゃってくれた。
「そちらのお友達も一緒に」
「あなた誰です?」
対し、ミジンコの左胸室よりもココロの狭いムクムク。
いきなりぶっちぎり不機嫌モードである。片方の眉を器用に上げて冷たく言い放った。
「ムクムク!」(小声)
「だってごしゅじ」
口を手でおさえると、流石に学習したのだろう。
「………綱吉君」
(微妙に対抗してやがるな………)
嫌な予感大盛りをかっくらいながら、ツナは腕を引っ張った。
「いいから、ちょっとこっち来て。マスターすみませんトイレ借ります!」
「はーい…」


2005.1.5 up


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