パートナー

 

思えばそんな輩ばかり縁がある、ツナ自体は日々を平穏に過ごしたいだけなのに向こうが放っておかない、成り行きがそうする。
もの言いたげなムクムクの目を見返すと、暗い照明の下綺麗に澄んだ一対の瞳が色を鮮やかに浮かび上がらせる。青みがかった黒がちくりと意地悪げなとげを刺す。
「………ハァ」
ツナはため息をつき、愚痴っぽく呟いた。
「世の中って………俺に恨みでもあんのかなァ」
目の前にずどんと立っている男は黙ったまま。
「なんでお前みたいのばっか、ハデハデな人が仲良くしてくれんのかわっかんねー。正直、わかんないよ。俺みたいの構って楽しいか?」
頭の中をいっぱいにした複数の名前と顔が、それぞれ表情を持った。
何を隠そう各人に一度はやってみた質問である。真面目に、改まって、うららかな春の河原で、酒の勢いで。
その度一瞬傷ついたような目とか(彼は賢すぎてバカだ)突然笑い出して頭をくしゃくしゃっとするピーカンの笑顔とか(一緒に笑っちゃった)莫迦なこと言うんじゃないよバチンとほっぺたに一撃くらったそんな思い出がめくるめく走馬燈のようにって俺死ぬとこですか?!

ムクムクの反応はそのどれも違った。
突然、目の前が翳る。ふっと暖かい息が身近でして背に腕が回り、ぐえ!と変な声が出るまで抱きしめられた。
「楽しいとか、楽しくないとかの問題じゃありません僕はご主人様がいないと生きていけないんですから」
でも、不思議なことにその声には抑揚がない。
顔が見られないのもその原因かもしれない。しかし、あまりにも単調な響き。まるで教えられたことをそのまま繰り返しているような。
「そこまで………」
声が詰まる。
自分で言って置いてなんだが、ツナは口にして猛烈寂しい思いにかられて不覚にも泣きそうになった。
(こいつは………)
なんだかんだ言ってツナのものだった。いつの間にか友人に対するそれとは違う所有欲を持って、組み込んでいたのかも。自分のものと。
「………ホント?」
「しつこいですね」
苛々したような声がする。今度は、ちゃんと感情を帯びた声音だった。
「僕はご主人様のものです」
「そうかぁ…」

諦めが最初に来た。
不思議に、嫌ではない。それどころか少々気分が浮ついて、ツナは慌てた。
考えてみれば二人、暗がりで正面から熱い抱擁を交わし合うの図で、お客さんがちょっとトイレに立ったらキャッとかワッという事になるだろうそれは危険だ!!
「む、ムクムク」
「綱吉君」
びくん。
ツナは背を震わせた。声が、なんか声がえろモード入っちゃってませんかムクムク…
名前呼びを教えた覚えはない、沢田と………それを、わざわざ低い甘い声でつなよしくん、と耳元でやらかすのだ。何を考えてるってそれはそのう。
じりじりと体を離そうとすると、じりじりと後ろに押しやられた。狭いトイレ前の通路でもがいてもたかが知れている、バタンと扉が閉まる。
「アッお前鍵まで」
に、と悪辣な笑みを浮かべた男はいつもの縋るような目ではなく、何処か居丈高な目つきをしてツナを支え、上から覗き込んだ。
「僕は貴方のものだけど、貴方だって僕のものでしょ?」
「なにを―――」
「困りましたねえ。僕はどうやらご主人様の可愛らしいペットはごめんなようですよ」
さっきとは全然違うことを言っている。
クッとツナは息がつまったような音を出した。
傷ついたような目をした彼を愛おしげに見やり、不遜なペットは便座に主人を座らせその足を膝で割った。
距離はとても近い。
「だってご主人様はいつも嫌嫌とそればかりですからね。いい加減、聞き飽きました」
「な―――…」
ったってそれは。
「そんなつまらない、いうこときくの。僕も嫌なんですよ」
「はああ?!」
今まで一度だっていうこと聞いた覚えはないじゃないかと反論する前に、舌が首もとに押しつけられた。ヌル、ニュル、と蠢く感触。
少し前なら気持ち悪いで片付けられていた筈の刺激に、くふん、と甘い声が漏れる。慌てて口を押さえると引きはがされた。
その手が下へ持って行かれる。手先に触れた感触にツナは息をのみ、呟いた。
「つまり―――よ、欲求不満」
「平たく言うとそうですね」
それ以外現状に不満はありませんからねと言うムクムクは、人のような物欲などは感じないようだった。腹は満ちればそれで良し、身を飾るのも興味がない。人の区別も危うい程である。異性に興味―――?
(キメラはそんなもの………)

いや。
それを言うなら、ペット、パートナー用キメラにこんな強い自我が芽生える事だって異常………

「あっ」
考え事の束を無理矢理断ち切られたみたいだった。
差し込んできた強烈な快感がまともな思考を奪っていく。下肢に熱が集まり。ぬるぬると滑る舌が耳の穴まで入り込んでくる。
声、声が。
「中で出すと汚れちゃうな」
本当に無邪気にそんな事を言うので、ツナは慌てる。まさか、お前ほんとこんなトコでやる気かと問う片端から竿部分を握られ、上下に擦られて息を荒げる。
「アレ―――持ってないの、綱吉君」
「おまっ………な…名前」
「なんだかご主人様気に入ってるみたいだから、今日は、ね?」
ツナのエプロンの中にムクムクの長い指が入る。財布を探り出し、たくさんあるカード入れの差し込みを一つ一つ確かめてもごもごと動く。
「うっ、く」
それにさえざわつく体を持て余す。目をぎゅっと閉じて耐える、外の客やマスターは絶対不審に思っているだろう。こんな長時間、しかも二人でトイレを使うってどんな用事だ。
「あった」
かさりと音をたててとりだされたそれを、わざと目の前で封を切る。
「なん、あ、知って…あぁっ………」
「さあ」
くりんと首を傾げて、その手は一度離れた。思わずぐったり座り込むツナの前で、ムクムクは堂々とファスナーを下げてそれを突き出す。
「うっ」
「着けて」
今や主従は完全に逆転していた。呆然とするツナの口先を、前歯に触れる先端の感触。はじかれたように後ろへ引く、自分の身を庇うように中途半端に上げられた手に避妊具が押しつけられる。
「おおおおまえ!ムクムク、いったい何処でこんな………覚え、て」
「僕にも分からないですよ。標準装備なんじゃないですか?」
「いや……」
「綱吉君の嫌は嫌じゃないでしょ。さあ」
ぐっと口に押し込められた。
ざらりとした、なまなましい感触に舌が引ける。そこぐらいしか後に下がれないのだ!
まだ固さの足りないものを、ゴムを装着できるまでは口で慰めろと。
そういうつもりかと顔を上げれば、にっこり笑いかけられる。目が、目が。
本気だ………

「んっ」
覚悟を決めて(なんでバイト先のトイレ占拠してこんなことせにゃならんですか…)くわえこむ。
あっさり喉奥まで達した先がつんつんと粘膜をつつくのでむせかける。
「噛んじゃだめっ」
「ぁ……う」
れろれろと舌を這わせ、ちゅぷ、ぬぷ、と水音をさせ、その度にぴくぴく蠢く肉棒をおっかなびっくり愛撫する。
口に独特の味が広がってくる頃になると、男は薄笑いを浮かべて告げた。
「もっと舐めて」
言われたとおり。舌を動かす。
「強く吸って」
口をすぼめ、吸う。ちゅぱと音を立てて離すと、口端から唾液と先走りの混じった液がタラタラと零れ落ちた。
「あぁ…仕方のない人ですね」
手がそれをすくい、優しく拭ってくれる。束の間倒錯的な快楽に溺れゆらゆらと頭を揺らしていたツナは、促されるまま手でそれを持ち上げた。
「ん……うまく、はいらな…」
不慣れな手つき、辿々しく狭いゴムの口を広げてはめる。手が震えているせいで口が歪み、くしゃりとしてうまくできない。

「くふふ」
心底楽しそうに男はツナの髪をすいた。頬を撫で、頬に褒美のように口付ける。
変だ。
おかしい。彼は、ムクムク、むくろ?
なんでもいいとにかく、ペット型キメラの筈なのに、まるで自由意志があるみたいだ―――ツナに付き従い、添い守る事よりもねじ伏せて言うことをきかせ、嬲っている時の方が余程生き生きとする妙。
「ムクムク、お前」
「入れてあげますよ」
あがらう暇はなかった。
ぐるんと体をひっくり返され、陶器で出来た水タンクに縋らせられる。
半端に膝立った足を割り開いて腰を進め、まだ指が数度行き来しただけの後穴に突き立てられた。
「アッ……!」
―――いたい。
が、それは甘さの伴う痛みだ。
おかしい。
後ろを向いて睨み付けると、男はいたずらそうにわらう。前屈みに体重を預けられ、ぐうとかむうという音が口から漏れる。
「…実はこっそり……入れてたんです今朝……ね?」
朝方一瞬だけ落ちた深い眠り。
その間にもと密やかに告げる口元が酷くみだらに舌を出した。
「だから僕裸だったでしょう」
「………」
寝起きにムクムクが裸なのは彼のライフワークなのかと思っているツナは、なんとも答え難かった。
「こういうとこでするの、も、気持ちいいなあ…」
腰を打ちつける間も止まず、声がする。官能を奥から揺さぶるようないやらしい声音に体が瘧のように震え、内臓をつき破りそうな激しい突きに悶える。
いたい。いい。
たまらない。
「綱吉君もっ…そう、思う、でしょ?」
「くはぁ…」
繋がったまま少し持ち上げられる。
そのせいで中のものの角度が変わり、ずるりと内壁を縦に擦られる。耐えきれずひゃあんと高い声を上げると、包み扱いていた手がクッと指先に力を入れた。
包まれたツナのものから、白濁した液がほとばしる。
「は………はぁ………」
ぽたぽたぴちゃぴちゃと滴り落ちる精が水に落ち、混ざり合った。
(うそ―――…俺こんなに…)
目を瞑る。
そして体内で生暖かい感触が弾ける―――もちろん、生身よりは大人しい刺激に、それでも達して敏感になった後穴はひくつく。
「ぁ、う」
指をあててそれを確かめた男は、邪な顔をして密やかな笑い声をたてた。
だが、相手を背にし、目を閉じて感じ入るツナはそれに気付かない。


2005.1.5 up


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