パートナー

 

「わかった、降参する」

柿本千種は今まで、こんなに決定の早い人間に会ったことはなかった。
自分の身に関わることで、重要な決定。しかも、相手はあの骸(様)である。誰もが、考える(フリをして)。
最終的な結論は常にイエスだった。
それはそうだ。六道骸と言えば、六道グループ創始者うんぬんかんぬんいろいろごたごたあってつまり大金持ちの権力者。着いていれば一生華やかな世界で遊んで暮らせるだけの地位が手にはいるのだから。
「………正気か?」
「あんたこそ正気なのかと俺は問いたい!」
思いの外強い勢いで言われ、柿本は少し仰け反った。
目の前には苦虫を噛み潰して飲み下してウエッとなりかけているような、怖いけれどどこか間抜けな顔をした沢田綱吉がいた。
「そういう事情ならかえって好都合、さっさとムク…骸さんの記憶を戻して、俺は平凡な日常に戻るんだああ!」
メデタシメデタシと呪文のように唱え、いざ!と部屋に特攻をかけようとしたツナの襟首を柿本ががしっと掴んだ。
「待て」
「グエッ」





思えば、こんなに素直に感情を露わにする主を初めて見たのだ。
いや―――骸は、表情豊かな人物である。
特に笑顔のバリエーションは多い。にっこりと大輪の花が綻んだような美しい笑顔から微笑み程度、または相手を恫喝するような、獰猛な笑顔も。
会長職というのはただふんぞりかえっているだけではない。他企業との交渉、同じ会社内でもかけひきややりとりは適度な緊張が保たれている。
笑顔というのは、一番本心を隠しやすいのだと言っていた。
つまりは作っている、ということだ。六道骸は感情を作る。もっとも効率的な表情を瞬時に浮かべ、相手を意のままに操ろうとし、またそうしてきた。

今こうして目の前に居る骸は、それだけなら―――薄い笑みを浮かべ悠々と椅子に寝そべる、普段通りの不敵な男だった。が、沢田綱吉がその場面に加わると一変する。
笑う、笑う。とにかく笑う。
そして怒る。
思い通りにならない苛立ちを、手を引っ張ったり掴んだり声に出して不満をぶちまける。沢田はそれを怒るでも怖がるでもなく窘める。口に手をあて、シイッとやる。
子供扱いしている。
それに甘え、子供のように素直に振る舞う主は血の通った人間に見えたのだ………





「何!?」
殺気立って般若のような顔になったツナに、柿本は少し怯えた。
こうしてみると特に目立ったところのない大人しい容姿の平凡な人物だが、カッと怒鳴ったところ、ギッと睨み付ける今、妙な気迫がある。
「別に………お前が決めることだ。俺が口を出す義理は無いしその権利もない。ただ」
まだるっこしいなあ、と顔に書いているツナ。
柿本は感情を読まれたくなく、目を伏せた。
「もう少し、待ってもいいのじゃないか?」
「よかない」
即答だった。
「大体なんだよもう。記憶が戻らないと六道が大変だとか………ってたくせに」
「そうなんだが」
「俺は、ムクムクだったら、しょうがないから面倒見てやろうって思ってたんだ。そ、そんな、会長さんだなんて………手に負えない、よ」
「それは」
この奇妙な人物は不思議なことに、主の行動や発言に責任を感じているらしいのだ。
元々パートナーキメラとして接触したのだから、当然と言えば当然の名残。
しかし、あの他人と相容れぬ主がその意志を受け入れ、(ある程度は)言うことを聞き、従うその要因は何処にあるのだろう。
「だから、何!じろじろ見んなよっとーしーなもう!」
いらいらして足をダンダン!と踏みならすツナの前で、柿本は物思いに沈んでしまった。


2005.1.18 up


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