パートナー
降参。
あっさり言ってしまえば一言の言葉だけれど、実はそう簡単でもない。素人のツナはどうしたらいいかも分からない。(そもそも、悪いのは俺じゃない!)
柿本とかいうオニーサンは「六道骸」がムクムクになったことを最初は快く思っていなかったようで、なんとなく冷たい態度を取っていた。けれど、徐々に状況に慣れてきたって言うか、面白がってるっていうか。ツナは結局、「六道骸」を連れて帰ってきた。
「あれ?おやつは?」
「もう無いよ」
「おお、我が家ですね!」
くうすか寝こける「六道骸」は丁重に運ばれ、俺の部屋で下ろされた。黒服のサングラスの集団って、ご近所さんに目撃されたら今以上に注目を浴びてしまいそうでイヤ。
「おなか空きました」
「おやつ食ったじゃん………作るの面倒だよー」
はっ。
ツナは日常に戻ってしまいそうな自分に驚愕する。この空間、自分の部屋、安心できる空間に戻るだけで簡単に一瞬「六道骸」を忘れてしまえるなんて!………いかん、いかんですよ。
「骸さん」
ご本名でお呼びした。途端、彼は目を見開いて固まった。
「………ご主人様?」
「六道さん。俺は、あなたの主人じゃない。あなたには仕事があります」
「頭でも打ったんですか??」
く、くそう。むかつく反応だ…
ツナは口元をひきつらせたが、なんとか怒鳴りつけずに言葉を続けた。
「待ってる人が居るんだから、グズグズしてないでさっさと思い出してください。それから、俺の事は沢田とか、綱吉で呼んで下さいね」
「ご主人様………」
ショボーン。
見るからに意気消沈して、肩を落として、
「………っ」
「六道骸」は突然しゃくりあげた。ツナはぎょっとする。
え、それ俺のせい?!?
「ご主人様が他人行儀………」
「なんでだー!なんでそうなるー!?」
「いつもみたいに怒ったり怒鳴ったりはたいたりしてくださらないですー………」
「どっかの暴力亭主か俺は?!」
違うんだ!
こいつがどーしょーもないくっつき方してきたりとか、理由は色々あるしそれにこんな不貞不貞しい輩だもの、暴力じゃなくて抵抗だ!
「ムクムッ………」
ツナは堪えた。此処で怒鳴りつけて、いつも通りにしたら………
いつまで立っても彼は「六道骸」を取り戻せないまま、他人の(他キメラ?)の一生を送ることになってしまう。それは、余りにも………酷い。有り得ない。
「骸さん」
ビクッとしてツナを振り向いた「六道骸」は、不安げな色を滲ませながらおずおずと頷く。
「さあ、骸さん。俺の名前は?」
「つな………よし………君、です」
「はい」
時間はかかるけど、これが一番いい方法だと思った。
ツナは徹底して骸さん呼びをし、同じように「六道骸」にも綱吉と呼ばせて境界をはっきりさせた。主従関係でなく、個人対個人の関係に。
「六道骸」が甘えたそうな空気を出しても、ツナはそれを許さなかった。あなたはいい大人なんですからねとぴしゃりはねつけ、線を決して渡らせなかったのだ。
勿論夜の方も同じ。
布団に入ってこようとする彼を、今までは無言で押したり押したり押しのけたりしていたところを、起きあがって明かりをつけ、滔々と話して聞かせた。
「あなたはもう俺のペット、パートナーではないんです。こういう事をする必要はないんですよ」
「六道骸」は相当苛立ったようだった。
当然だろう。彼は完全に精神の自立した人間が、無理矢理それを押し込めて成り済ましているいわば偽キメラだ。ツナのかける数々のプレッシャーが暗示を解くのもそう遠い未来ではないと思われた。
いや、もう解けていたのかも知れない。
いつものようにバイトから帰宅して、メシを作って、顔を付き合わせて食事してお茶を入れて。
前よりもずっと会話の減ってしまった二人は、手持ち無沙汰にテレビなど見ていた。
画面には六道のCMが流れている。
「あぁ………」
ツナは何を言うでもなく、ただそう唸ったのだった。
この時間帯にこれだけの頻度でCMを流す、六道の力を思い知ったというべきか。実に庶民的な感じ方で、申し訳ないのだが。
「六道骸」は黙って空の湯飲みをちゃぶ台に置き、ぽつりと言った。
「ご主人様は、僕がいらなくなっちゃったんですね………」
またご主人様か。
反射でツナは注意しようと思ったが、その言い方が余りにもションボリしていたので躊躇った。
代わり、こんな事を言った。
「おまえ、おもしろいよ」
すごく空っぽの言葉だと思う。
端から聞いてたら、何いってんだコイツ、そんな感じの。自分で言ってて呆れた。
「おもしろい………?」
「うん」
でもそれ以外に、言う言葉が無かった。思い浮かばなかった。
2005.4.14 up
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