思えば彼が5歳のころから自分は面倒を見ているのだ。
すっかり成長し、伊達男になったランボを見るツナの目は限りなく温かかった。手間のかかる弟みたいなものだ。
なにしろなみだからはなみずからおしっこ、そう、シモの世話までやったのだから、いまさらこうしてスカされてもちゃんちゃら可笑しいだけである。

「ランボ」
「はあ」
「おまえの女癖の悪さったら…それでも今まではうまくやってただろ?」
「今回は、ちょっと予想外で」
「常々思っていたけどね、接し方が問題だ。女性にはもっと誠意を持って」
「あはは」

思えば自分は5歳の時からこの人に面倒を見て貰っている。
すっかり大きくなり、なんでも出来るようになったと思っているけど、まだまだこうして厄介になっているのだから―――しかし。
恩を感じているとはいえ、些か心外である。
まさか女のイロハについて、この人から教えを受けるとは。

「…何笑ってるのランボ」
だってボンゴレ10代目、あなたがそれをおっしゃるなんて。
「なんでもありません」
ランボは知っていた。多分、本人よりも良く知っている。
ボンゴレ10代目ことツナが女性を扱うやりかたは丁寧で礼儀正しいが、ちっとも結婚にこぎつけないのは丁寧で礼儀正しすぎるからだとか、
「嘘だ。肩が揺れてるぞ!」
「すいません」
側近の者どもがタッグを組んで女を追い出しにかかるからだ。時には無意識に、常ならば意識的に。
理由は簡単。
彼は人気者なのだ。部下たちに、時にライバルに「慕われる」。
「すいません」
もう一度謝ると、ツナは腕組みをして睨んでいた。かなり年上の筈なのにぜんぜんそんな気がしない。
やがてボスはあきらめてため息をついた。
「酷いもんだよ。その、その辺の…なんやかんや。女との切れ方?ド下手なところなんか………きっとシャマルに教わったんだろ」
「違いますボンゴレ。ドクターなら何も言わずに逃げ出すそうです」
「…既に教えを請うたわけだ」
「えー…いや、俺は。とりあえず一言断りますからね」
けろりとして悪びれない様子にツナは天井を仰いだ。
「最低だよ」

教育係、おもりとして。
ツナはなんでかランボの成長に責任を感じている。部下のあれこれ、たとえば所かまわず爆弾を投げるとか笑いながら相手をぶちのめすとかは元の性質だから大して責任はない、と割り切れるのだが(ときどき落ち込むだけ)この牛っ子のことだけは特別心のどこかに引っかかる。

「どこでそんなんなっちゃったの?」
「どこでしょうねえ」
「だって前は違ったじゃない。ビービー泣いててうっとおしかったけど悪い子じゃなかった」
「俺悪い子なんですか?…やその前に、ビービーっ…て」
「悪い子だよ」
めっとやったツナの前で、ランボは居心地悪そうにもじもじした。
「心当たりはございません」
「もっと良く考えてみろ。絶対原因あるはずなんだから」
「例えば」
「身近な大人の悪影響とか」
「ドクターですか?」
「悪い見本が側にいたとか」
「ドクターですね」
「シャマルっきゃ考えられない!」
「偏見じゃないですか…」
「ランボ」
ぎゅうっと正面から抱きしめられる。
親愛の情を込めてのそれが、国に来たときよりだいぶ様になってきた、とランボは場違いな感想を抱いた。
「心配なんだよ。いつか刺されて殺されるぞお前」
「はあ…気をつけます」
「明日にでも」
「早っ」
ぽんぽんと頭を抑えられ、柔らかい笑顔が前にある。

ファミリー外では唯一、肉親のように近く感じている存在。

「さて、夜までさようならだ」
「出かけるんですか?」
「仕事だよ。夕食は先に食べていなさい」
去っていく背中に一抹の寂しさを覚えながら見送った。
ランボは一人広い部屋に残された。ボンゴレの中心、ボスの執務室へ。

2005.10.24 up


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