既に心地よいまどろみのなか。
寝心地のいいベッドだ。実にいい。なんたってものが違う。安宿や女の部屋、潜伏の為のせまっくるしい、必要最低限のものしかない殺風景な部屋と違って、ここは温かみがある。
それにこの匂い。
懐かしく、安心する。これはなんだろう。なんだっけ………

「ウグ」
ぎゅむう、と背中を踏んづけられて意識は眠りから一気に覚醒へ。
「苦しい…」
「ああ、気付かなかった。雑魚は目に入らん」
「…リボーン!」
ベッドに寝ている人間を気付かないで踏むわけがあるか。絶対わざとだった。
流石にこれだけの年月が過ぎると、「かくごー!」だの「死にさらせー!!」だのと無茶な特攻をかけるバカはしない。
というか、背中に乗った足が強くそこを抑えていて、できない。
「なにやってんだテメーは」
「寝てる…」
「見りゃ分かる。場所のハナシだ」
「なんだよう」
「そこは俺の場所なんだよ」
ぐりぐりと足でねぶった挙げ句、リボーンは乱暴に蹴飛ばした。
「いっでえっ」
「チッ」
少年は布団に顔を近づけてふんふん嗅いでいたが、苛立たしげに舌打ちをした。
「くせえ」
「うっ…」
「テメーのが移ったな。不快だ」
青ざめて今にも泣き出しそうなランボは、床に転がったままブルブル震えている。
「うっ、うぇっ……」
「趣味悪ィんだよ、このろくでなしが。女のニオイさせやがって」
「あっ」
確かに、自分には匂いがついている。ランボはそこで初めて気付いた。
リボーンは一流のヒットマンらしく、僅かな匂いにも敏感に反応した。に比べ、自分はどうだろう。
ただぐうぐう寝ていただけだ。
「ディオールか。平凡過ぎだ。年上か?ケツ振って歩くタイプじゃなさそうだな…」
銀行の事務員だったっけ。
ランボはついさっきまで鬼のような形相で自分を追いかけ回していた女を思いだし、リボーンの読みが驚くほどよく当たる事に気付いた。
「………ん」
「わかりやすい趣味しやがってこのマザコン」
「マザコン?!」

心外だった。
自分は母親に依存など生まれてこの方―――生まれたときは仕方がない―――したことがないし、立派に一人でやってきた!

「テメーの察しの悪さも国宝級だぜ。よくそれで俺と同業を名乗っていられる」
「い、今、かんけーない」
「お、お、あ、り、なんだよ」
ぐりぐりと頭を小突かれる。黒光りする銃身で。
「ま、どーせお前なんか」
「…俺なんか?」
「問題外だ」
それきりプイッとそっぽを向き、リボーンはベッドに我が物顔で乗り上がった。
「消えな」





帰り道をとぼとぼと歩きながら、結局一言の断りもなく来てしまったことに僅かな罪悪感を抱く。
しかし―――それもおかしいはなしだ。
ボンゴレ10代目こと沢田綱吉が、(あのよわむしだったツナが!)他ならぬボスがランボを抵抗無く迎え入れる為、賢明なリボーンなどは他ファミリーの余所者だという事実をわざわざ口に出したりはしない。ただ邪魔だうるせえと邪険にするだけだ。
主要幹部の獄寺などはあからさまに敵意を剥きだしにしてダイナマイトを投げつけてきたりするが、ボスが庇えば流石にそれ以上は手出ししない。そして不思議なことに、ツナがいない場所ではランボなどどうでもいいという風に振る舞う。
―――それはそれで若干のプライドが傷つかないわけでもないのだが。
「なんなの、もう」
結局皆ツナが好きなのだ。大事だ。
俺をかわいがる(悔しいが、正にその表現以外の何ものでもない)ツナを否定するのは、彼が悲しむことだから。
「俺も………ボンゴレは好きだなー」
ツナとはもう呼べない。
そのことに寂しさを感じながら、ランボはてくてくと、次第に勢いよく元気よく、夜の町に繰り出していった。





「あれ?何でリボーンがここに寝てるの?」
「…うるせえ」
「ランボいなかった?おかしいなあ、ランボどこだーい」
「あのな、あいつもガタイだけは大人、んな引き出しン中に入ってるわけねーだろ」
「ランボや〜い」
「バカか」
「あっ、リボーン、おまえまさか………また追い出したな!」
「フン」
「かわいそーだろっ、ランボ、泣いてるかもしんないだろっ」
「おう、泣いてたぞ」
「やややっぱり〜〜〜!」
「………フン」

2005.10.24 up


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