倉庫のような寂しい建物だった。 地面はコンクリートが打ちっぱなしで寒々としている。仄かに潮の香りがするから海の近くかも。どれくらい経ったかな………リボーン、気付いているだろうか。 (店はどうなった?) 夕方から夕食時にかけて、客は引く。しかし最近は6時ギリギリまで切れ目無く客が入ってくるから休憩も入れられない程なのである。それを一人で………とても無理だ。 (怒ってるだろうなァ) バターを買いに行かせたのはリボーンなのだが。綱吉はそんな事を心配している。 (っていうか、リボーン) お前、何? 綱吉が縛り付けられている椅子の周りをぐるりと取り囲むように、ヤクザとはまた違う物騒さを纏った連中がうろついていた。 それぞれが手に武器らしき物を持っていて、カチ、カチと出し入れしている者も居れば、ただじっと立って動かないのも。 彼等は皆顔を隠している。 正確には分からないが一般人じゃないような気がひしひしと。 なにしろ商店街の真ん中で綱吉を攫った手際は、それはもう見事なものだった。 綱吉はこんなところまで運ばれ、お前はリボーンの何だと詰問されて「えー、ただの知り合いです」と答え小突かれていた。 だって本当じゃないか。 フウ、とため息を吐いて肩を落とす。リボーンがしきりに口にする、女に対するような口説き文句はほぼ冗談だと思っている綱吉である。 彼の世界は平凡すぎるほど平凡で、そんな珍しいことは頭から否定してしまうのだった。 (多分、父さんが様子見に行けとかそんなん………) アタリである。 しかし、間違ってもいる。 リボーンは本当にあの写真の土地を、しかも一括で購入しているからだ。 彼の計画では綱吉は感激し、喜びいさんでイタリアに飛び、今頃は二人で住む家の手入れなど張り切って行う事になっていたのに、何の計算間違いか冴えない喫茶店の改革に乗りだしているのだから人生って分からない。 「………う」 縛られている手首が痛いとみじろぐ綱吉は、そんなリボーンの心をまったくさっぱりぜんぜん知らずに居た。 おまけにこの怪しい皆さんは、俺には絶対分からない外国語でぺちゃくちゃ喋ってるだけで仲間に入れてくんないし。 『本国には連絡したか?』 『まだだ』 『家光の方は抑えているのか』 『以前逃亡中です。面倒ですね』 『まあ息子が捕まっているとなれば出てくるのは時間の問題だろう』 『始末しないんですか』 『そんな無駄はしない』 イタリア語である。 綱吉がかろうじて分かったのは、家光という名前ぐらいだ。 「へ?家光?父さんがどうかしたの」 『おい、何か言ってるぞ』 『いいからお前は黙ってろ!』 「ムグ」 口に当てられた布はすごくキツい匂いがした。 ウエッとなった顔が弛緩する。フッと崩れるように意識を失った綱吉の体を担ぎ上げ、男達は倉庫を後にした。夜中だと言うのに港のクレーンが忙しく動き、荷下ろしと積みが行われている。 コンテナの一つに放り込まれた綱吉と、付き添いであろう3人は暗い闇の中へ消えた。 鉄の扉が閉まり、10分もしないうちコンテナごとガタガタと動き出す。かなり大型の貨物船に積み込まれた長方形の箱はたくさんある同じものの中に埋没し、巧みに船の外周に沿って一番上に落ち着いた。 暗闇でもはっきり分かる蛍光塗料の番号"06"。不吉だ。 各コンテナ上にもそれぞれ、浮かび上がっている。 しかしこんな事態を、意識を失った綱吉は知らずにいた。 「どーしたものか……ありゃクニまで行っちまうぜ」 商店街で目撃情報にあたり、ようやく事態が地元のヤクザどころでない事を察したリボーンは即家光に連絡を取った。 あっちでもこっちでも非常事態。しかし家光は自分で自分の身を守るだろう。 今真ん中にいるのは敵方に捕らわれた綱吉だ。 『悪かったな、逃げてる最中なかなか連絡できなかった』 「………いや」 自分のミスも含むだろう。リボーンは既に別の頭を働かせている。 「奴らはツナを餌に使ってお前を始末するつもりらしい。オレが行くまではヘタに名乗りを上げたりするな」 『う〜ん』 わっかんねーな、いやま、息子だしね?などと珍しいことを言い出した家光にリボーンは目を剥いた。 元々情が厚い彼だが、あからさまに反対する程に腹は決まっているものなのか。 これが父親というものなのだろうか。 「冷静になれ」 『お前もなぁ』 「………」 滅多に言われない言葉のオンパレードだ。 しかしリボーンは反論する事無く、ああとだけ返しておいた。 2007.1.16 up next |