船旅は快適だった。 少なくとも、綱吉はそう感じていた。船酔いはなんとか数日で馴れたし、危険のない人物と判断されたか2日後にはあの狭い部屋を出られたし、何かさせてくれと言って厨房の手伝いをしたりもした。 天気のいい日は甲板に出て日光浴と散歩を兼ねた。 しかし時折港に寄っても綱吉だけは上陸を許可されず、船室に閉じこめられた。 「なんでだよ〜」 珍しい体験を出来るチャンスと思ったのに。 船員が買ってくる土産を持って、どこだろうかと推測するぐらいしかする事がない。新聞や読み物も読めず、退屈だけは辛かった。 期間は割と長かったように思う。 その日は励まされるようにして、各船員がポン………と肩を叩き、滅多に上がらない操舵室まで連れて行かれた。 最初の日、綱吉を攫った男は此処に居た。ぱりっとした格好で香水の匂いなどさせていたから、今から何かあるのかもしれない。居心地悪く辺りを見回すとどうやら何処かの港に着いているようだ。 「陸地だ…」 窓の側に駆け寄ろうとすると、乱暴に小突かれる。 最初の頃に戻ったような対応に、今更ながら警戒心が呼び起こされる。言われるままに手を差し出すと後ろ手できっちり縛られた。 「………」 「え?!」 男が指差したのは足下に放置された袋。 まさか………入れってんじゃないだろうな!? 嫌な予感はぴしゃりと当たる。抵抗虚しく綱吉は頭から袋を被せられ、上からぐるぐる巻きに縛られて転がされた。 「ぐっ………苦しい」 リボーンは距離を測り、港で働く地元民のフリをして確実にターゲットへ近づいていく。 迎えだろう。車が数台連なって着き、普段は入らない岸壁の方まで行って停車する。 既に着岸している船の甲板に数人が姿を現した。資料とピタリ、ハマる顔だ。 「さて………」 やつれた顔で下りることを促される、哀れな綱吉の姿を想像する。 可哀想、というより思わず股間が熱くなってしまうのはオレが若いからだろうか……… フキンシンながら若干期待したリボーンの目に、白いものが飛び込んできた。 ……… ……… ……… もぞもぞと動く白い固まり。 遠目に見ても異様なそれは、男が3人がかりで運んでいる。四六時中もぞもぞ暴れているのでそういう生物にも見える。 「動くんじゃねえ海におとすぞ!」 怒鳴られてもイタリア語だから分からない。かたまりはもっと暴れた。 「………なにをやっとるんだアイツは」 リボーンが呆れることに、そのぎこちない動きは袋の上からでもはっきり分かる綱吉具合だった。 特に仰向けが苦しいと身を捻って、もっと収拾がつかない体勢になるところなんてそのままだ。確信する。 あれはダメツナだ。 分かったら後は仕事が速い。 徐々に聞こえてくるサイレンの音ににやりとしながら、何事かと浮き足立つ奴らの中央へ続けざまに弾をぶち込む。 「何処だ!」 船へ戻ろうとするが、離れるまでには恐ろしく時間がかかるのが大型船の不利だ。警察に抑えられるのが先だろう。 リボーンは無闇やたらに銃声だけ響かせつつ―――今度は慎重に狙い、綱吉を担いでいる一人の腕を撃った。 ゴトッ。 如何にも痛そうな音を立てて袋が落ちる。 「いでぇ〜っ!!」 やっぱり痛かったか―――混乱する現場で唯一聞こえてきた日本語にクスリと笑いを漏らしながら忍び寄った。集団は散り散りになり、物陰に隠れて狙撃を警戒している。 綱吉はノーマークのまま転がっていた。 其処へ警察車両が立て続けに急ブレーキを踏む。ばらばらと警官が下りてくる。 「動くな!何の騒ぎだ!」 男達が困惑と焦りの表情で銃を取り落とす後ろで、リボーンは白いナゾの積み荷を当たり前のような顔で台車に乗せてガラゴロと押していく―――銃撃が止むなり港の積み荷が盛大に破損したのが見えた―――場は警察の存在に後押しされ、口々に文句を言う他の船員や港の人足達でいっぱいになっていたのだ。 2007.1.17 up next |