ディーノさんと温泉に行く話
「他に好きな人が出来たの」
ものっそよくあるフラレ文句だと思う。けど、言われてる方は結構ショックだったりするんだつまり………ナニ?俺よか好きな人が出来た、出来たってことは俺と付き合っている間に惚れたってワケ?
ナニソレ。
俺ってそんなに魅力無い?オマエそんな奴だっけ。付き合ってる男いるのに他に目移りしてその上バッサリ切って捨てる冷たい女だったかって―――
言いたい。
言えるわけないけどねだって俺小心者だから。仕方ないからバレンタインのお返しに半日かけて選んだアクセサリーショップの包みを握りつぶしたまま、頷いた。
「分かった」
付き合ってる間はかわいーかわいーすんげーかわいーと思ってた上目遣い。あんま背が無い俺より更に小さい。今は切ねェ…。ただひたすら切ない。
「別れよ」
それで3年の付き合いにケリを付けた。
ぼーっとしたままバチン、とはさみを入れる。水仕事のせいでザラッザラに荒れた手が緑の茎を撫でる。
花はいいなあ。
見てると心が和む………なんて月並みな感情じゃあない。俺の場合はひねくれてるから、人生も思考も全部今なんか特にひねてるからね。
花だってさ、こんなに綺麗に咲いてるけど………生モンだからね。枯れるから。下手すっと、腐るから。
つまり、綺麗だったり可愛かったりとにかく良いものってのはいつかはなくなっちゃうんだね。これ、真理。
しかもただ無くなるんじゃなくて、綺麗も可愛くもなくなっちゃう。これは辛い。あー俺なんでこんなんに夢中になれたんだろーとか。ああ。
汚ねえなあ、俺。
そりゃ聖人君子じゃないからさ、多少はあんのクソ女………!とか思っても許されると思う。
けど、「他に好きな人が出来たの」ってあの文句だけは、いただけないぜ。だってそれって裏切りじゃん。しかも、「ずっと好きだった。諦めきれなくて………」ってそれ、その間わざわざ時間作って遊び連れてってほどほど貢いで誕生日おめでとうなんてアホ面で祝ってた俺の立場は………?
もー、やりきれん。やってらんね!
そんな気分でぶちぶちと商売モンを駄目にしていたら、コンコンッとガラスを叩く音がした。
顔を上げると、アララよりによって今か。思わず出たのはいつもの愛想笑いじゃなくて微妙に苦笑。
「なんだよ店じまいか?早いなァ…」
「ええ、まあ」
「まーいーや。ツナ、いかね?」
クイッと杯を傾ける、その仕草をこの国の人以上に器用に、かつ魅せれる。
流暢な日本語に屈託無い笑顔。
文句無しにハンサムな顔に見上げる程の長身、ながーい、足さん。
「………はあ」
俺はがくん、と首を落とした。
ナニを隠そう、今目の前で人懐っこい笑顔を浮かべ、手をひらひらと振っているこの人こそが俺が女にフラれた原因そのものだったから。
スタスタと前を歩く背中は広い。
背は高いのに貧弱じゃなくて、足が長い。裾上げなきゃジーンズも買えない俺と違い、ンーちょっと短けーなーなんて言ってしまえる、羨ましい。
そんな立派なガタイにくっついている頭は金髪。それも、色の濃いハニーブロンド。
この色って難しい。すごく特徴ある目立つ色だからいかに彫りの深い顔でも合わない事があるけど、この人の場合はそんな心配は皆無。
なにしろすごくイイ男だ。高い鼻梁、メリハリの利いた顔のパーツ。目がちょっと垂れ気味なのがまた徒っぽいってえか、ドキッとするような男の色気がある。
そりゃ、惚れるよな。
現実一目見たら、二言三言交わしたらそれだけで女なら惚れるだろう。分かる、分かるよ。
けどよりによって俺の彼女じゃなくていいじゃんよ!
………いや、悪い予感はしたんだ。
彼女がイタリア語教室通い始めたって聞いたときから、あーそれヤベーよって思ったんだ………ン。
けどさ。
けどさあ!
そこまで、予想通りじゃなくてもいいんじゃない?ねえ、
「ディーノさん」
「んー?」
くるりと振り返って微笑う、そのビボーをアホみたいに見上げる。
「ディーノさんこそ、早いんですね今日は」
「………ツナぁ!」
「うわ!」
がばっと抱きつかれてよろめく。イタリア人らしくオーバーアクションな彼は俺にしがみつくとぐりぐりと頭を押しつけ始める。
なんなんだ!
「俺、クビになっちまった………」
「えっまたですか?!」
「うんまた」
2006.3.3 up
next
文章top
|