天然攻防
「10代目〜!」
よくぞこの人混みで見つけたものだ。祝日の映画館はとてつもなく混んでいて、外にも人はたむろしていた。広場で待ち合わせ、時間潰し。人の集まり具合を見てティッシュやサンプル配りまでやってきた。
混沌としたその場所で、声がどの方向から聞こえてきたのか分からない。二人は慌てて周囲を見渡し、人の輪の輪の外、ぐらいで跳ねている獄寺の姿を見るなり、同時にそっと手を離した。流石に共通の友人の前で堂々と手を繋ぐ境地には至っていなかったようだ。
「すごい!偶然ッスね!どうしたんですか、映画なにを………ってお前かよ!」
「おう、獄寺。偶然だなー」
「クソ!なんでたまの休みにお前のツラァ拝まにゃならねえんだよ!10代目、どうッスかこれからメシでも」
「う、うん」
獄寺の態度は実に分かり易い。山本の顔を見るなりうっと顔を顰め、ツナに向き直るとにぱっと笑顔になる。
それまで格好や容姿も相まって、実にクールに佇んでいた筈なのだが、もはや跡形もない。
「じゃー3人でメシ食いに行くかぁ」
「なんでテメエが着いてくんだ」
「まあまあ………何食べたい?獄寺くん」
「10代目は何がよろしいですかッ」
ジキルとハイド風に顔の変わる獄寺を挟んで、二人は歩き始めた………
「ただいま〜」
「おかえり」
玄関を開けるなり仁王立ちして立ち塞がるリボーンの姿を見たツナは、ガタガタと派手な音を立て体勢を崩した。
「な、なに?!やることは全部終わらせたし!怒られるよーな事なにも………」
「そーだな。珍しく、済んでるようだ」
「うん、だから、何?」
「山本と出てたんだろ?」
「え………」
ツナはわたわたと頬に手をやり、目元を擦る。
リボーンの指摘に慌てたのは一目瞭然だった。
「えーと…」
「………」
「獄寺くんも一緒だったよ!ウン!」
「みっともねえ、ガタガタ騒ぐな。オレを誰だと思ってる?」
五歳児のキツい眼差しに、ツナは沈黙した。
リボーンの目つきは察している顔だ………いつもなら冷たい感じのする語感が、どことなく面白がっているように軽いのは内容が内容だからだろう。からかえるネタは絶対に逃さない。
「楽しそーじゃねーか。なあ?」
「う………」
「ま、オレは何も言わねえ。好きにやればいい。ただし」
ぐっと指を突き付けられる。
「いつまでもそんなオママゴトみてーな真似、続くと思ってんなよ」
「………あ?」
「アイツはそんなタマじゃねーってこった」
「い―――…意味、分かんな」
「忠告はしたぜ」
たっぷり遊ぶ仕草で帽子を上げ、リボーンはするりとその場から消えた。
「あっ………!おま、覗いてたろ………!!」
ツナが叫んだのはそれから大分経ってからの事だった。
変なヤツだ。なんて妙な事を喋るのだろう。まったく意味が分からない、長く一緒に暮らしていても相変わらず得体の知れないガキ………いやお子様だ………
基本的に、ツナはリボーンの言うことを疑ってかかる。この5歳児は余りにも冗談が巧みな為、本当と冗談の境が(傍目には、まったく)無い。演技や偽装に長けた殺し屋としての技能を存分に発揮し、ツナをからかう。(無駄遣いだと思う)
大袈裟な物言いを笑い飛ばし、ツナは翌日も出かけていった。今日は山本の高校が甲子園後の親善試合で、グラウンドに着くと客席は着々と埋まっている。学校関係者だけでなく近隣の住民も甲子園出場チームの試合を見に来たらしい。
マウンド上でロージンバックを使う山本の姿に黄色い歓声がでるのはいつものこと。
皆のスケジュールが合わず、試合の途中からぼつぼつ集まり始めるのも最近は日常だった。ツナは席を移動した。バックネット裏からスコアボードの方へ―――昨日街で会った獄寺、ハル、沢田家絶賛滞在中のチビたち、等々。
試合は、山本のチームが勝った。
祝いの一言の為に裏へ急ぐのもいつものこと。しかしこれは予想外だった。
「ややや山本、おい、」
おいおいおい―――…
間抜けな声が途切れても、正面からの抱擁が解けることはない。
埃と土の匂いがし、少し肌寒い空気の中でも山本は汗を掻いていた。一試合投げ続けるというのがどれだけ体力を使うものか、やったことのないツナには分からない。
「あのー、あのー」
「うん」
「何してるのかなぁ、なんて…」
「補給」
肩のところでもそもそと言われると、くすぐったい。
「みんなもうすぐ来る―――と思うよ…それに、部活の人だって」
「ん」
「…」
腕が外れる気配は無く、あきらめのいいツナは早々にあきらめた。
2006.11.18 up
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