12月24日の災難

 

 中学生のクリスマスの過ごし方なんて、別に、とっても普通である。
 不意打ちとも言える質問にツナはパチクリと瞬きをし、そのまま答えた。
「至って普通」
「だからそのフツーが何なのか、こっちは聞いてるワケ」
「家で……家族と?」
 彼女持ちの奴等は違うかもしれない。友達と過ごす者もいるかもしれない。
 しかし多くの中学生は家で鳥を食い、ケーキを食い、プレゼント貰えるならハタチ過ぎたってサンタ信じるよ!などと主張して終わるのである。
「つまんねーなそれ」
「まあ………だんだん冬休みにも入るしねー」
「つまんねえよ」
「う、うん…」
 机を挟んでいるのに、近い位置にある顔にツナは心持ち身を引いた。
「お国は?どうやって祝うの?」
「一応国教カトリックだからイタリアと似た感じ………ミサの後は家族と過ごす」
「一緒じゃん」
「そーだよ。だからつまんねーの」

 ベルフェゴールは金髪を揺らして机にべたりと伏した。彼は異国からの留学生、日本の文化に興味津々の様子だとツナはとった。
 事実は多少違うが、まあ中学生ならこんなもんだろう。

「おっかしーな」
「何が」
「日本ってクリスマスになるとレストランとえっちなホテル満杯なんだろ?」
「………」
 どこで仕入れた知識なのか………間違っていないだけになんとも居心地が悪い。
 ツナは赤くなった頬を擦りつつおずおずと頷いた。
「大人はね!そういうことも、あるかもね!でも大抵は真面目にケーキ、食うんだよ!」
「クリスマス=ケーキ?」
「ケーキ屋と某鳥唐揚げ屋は大繁盛する」
「よくわかんねー」
「日本人はイベント好きなんだ。それから業界の促販営業にとっても弱いんだ」
「オマエは?ツナヨシ」
「予定なんて無いって当たり前だけど」
 独特の"ツナヨシ"で呼ばれると、クラスの数人が振り向いた。
 多くは女の子。ベルは何処かの国の(長ったらしい上によく分からなかったので忘れた)王族だという自己紹介で、一躍女子のイイ獲物………もとい羨望の的になってしまった。
 しかし本人は至って独自の世界観を展開しており、さらには趣味も非常に………なんというか、特殊だった。何しろ勉強ダメ、運動ダメ、容姿も並の並のツナを捕まえて「運命だ、チョー好み。お前オレと付き合わない?金と国ならあるぜ」とのたまった強者だ。

 と言うか、俺は男だ。

 ツナは冷静に宣言した………自分にしてはとてもよく出来た対応だと思ったが、ベルはああそうと言っただけだった。
「じゃ、オレと過ごす」
「ええっ、そんな、いきなり」
「ホテルでえっちしよ」
「マジでいきなりだなオイ…」
 前置きとかワンクッションとかないのかよ、とツナは呆れてしまうが、この2ヶ月で馴れた。
 きっとベルの故郷ではこれが普通なのだ………挨拶なのだ………究極の博愛国民に違いない。あと、なんだ、ホラ。ジョーク?うんそれ。
 とまあ、とっても分かり易い逃避思考。
「イヤだよ、っていうか無理だろ」
 ガタンと音を立てて立ち上がり、ツナはロッカーの荷物を取りに出かける。
「なんでー?」
「俺もベルも男じゃん」



 極々当然のような顔をして言う、意味を、ツナはきっと分かっていないに違いない。
 ベルはニヤニヤよろしくない笑みを浮かべながら天井を仰いだ。たまんないねー…ああいう、バカなところが。
 ツナが聞いたらドカンと爆発しそうなバカにし加減だが、本人はこれでも好意を持っているのだった。今時、中学生でもいやしない、まっさらな………バカ。
「男か………まあ、面倒なくて、いいかもな」
 頭のなかでいやらしい計算をしているベルの口元は歪んでいる。しかし高貴なお血筋のおかげか、歪もうがにやけようが周囲の空気が無駄にキラキラしているところが凄い。単なる反射かもしれない。
 薄金の髪がそこだけ爽やかにサラリと揺れた。
 中身の方は爽やかには程遠い。


2006.12.9 up


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