友人の鍛えた身体を前にして、自分の痩せたそれは随分貧相でみっともなく見えた。
 広い球場のスタンド後方まで球を叩き込む腕は勿論のこと、胸板や腹も固くしっかりしている。
 自分も鍛えたらなるのだろうか…まさか。
 綱吉は小柄で骨も細い。何より運動はキライだ。筋肉なんて当然つくわけは無く、無様な裸を晒しているのが恥ずかしい気持ちもする。
 それにしても三十過ぎてこの身体とは。
 相手がじっとしているのをいいことにあちこち撫でていると、山本はからかうように言った。
「ヤラシイ触り方すんのな」
「ちっ、違うよ!」
 浴室は広かった。
 浴槽とは別にシャワーブースがあり、透明なガラスが周囲を囲ってあり、男二人入っても十分に余裕がある。
「すごいな…」
 山本は黙ってツナの好きなようにさせている。
 片手で器用に頭を洗うと、強めのシャワーで流して雫を切った。
 学生時代から変わらない短髪が、今は濡れてしっとりと落ちている。
 綱吉の頭も、水に濡れた一瞬だけはぐんなりと力を失う。前に垂れ落ちた髪を両サイドに掻き分け、覗き込んだ山本は珍しい物を見たとはしゃいだ。随分嬉しそうだった。
「オレからすっと、ツナのがすげーって。全然変わらないよな」
「成長がないって事だね…」
「そうじゃねえけど」
 石鹸を泡立てつつ、山本は笑った。
 それは昔から変わらない、彼だ。様々な事を知った上で相手を無条件で受け入れる。
 度量が広いというか。綱吉には至れない境地である。
「こうしてるとさ」
 たっぷりの泡で身体を洗われる。
 照れくさい気持ちもしたが、今は彼がするどんな事でも拒否は出来ない。
「悪いことしてる気分になんの」
「…っ」
 ぬるりと滑る手が、昨日散々弄られた性器を掴んで扱いた。
 もう片方の手も緩い動きで背を撫で、そのまま落ちる。
「あっ…」
 尻を掴まれて息をのんだ。
 目を開けると、指の合間から噛み跡がくっきり浮いていた。
 散々しておいて今更恥の感情もあったもんじゃないが、
(あの時はこんな事しなかったじゃないか)
 枷が外れたような交わりの果てに、相手は信じられないような事を沢山した。
 綱吉の平凡、かつノーマルな性生活では想像もしなかったような際どい事を。
「うっ…ん…」
「もうだめ?」
 叩き付けるような水流が振ってくる。
 石鹸はあっという間に流れ、熱いシャワーのせいで頭がぼうとする。





 力が抜けてぐったりする身体の隅々まで指を差し込みながら、山本の目線は空の一点を見据えていた。
 あの時は駄目だった。
 ツナは臆病だし、自分も子供だったから。
 大人になるってこと、単純にハタチ越えればいいかと思っていたけど違った。そのうち、結婚したとか聞いて。
 ショックは、確かにあった。
 しかし自分でも驚く程冷静になれた。
 駄目なら待てばいい。
 今は違う筈だ。

「いいんだよな?」
 確認の為に問う。煙るような瞳が一瞬だけ此方を向き、早く、と強請る。
 腹の底から喜びが突き上げ、意識せず笑みがこぼれた。大丈夫、なんでもしてやる。安心させる為の嘘も。今の自分は望む物を与えてやれる。


2008.6.6 up


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