※デキてるとこうなります

 

「何も言うなよ」
喉の真ん中らへんまで笑いが込み上げてきていたが、唇に指を当てられて黙る。
「………ぶはっ」
黙りきらなかった。
ぶわははははと豪快に笑い出したXANXUSに、ツナは無言でタックルをかました。しかしビクともしない。ムカツク。
「止めろよホント!勘弁しろ!サイテーだっ」
「夜中に何やってるかと思えば………」
部屋は煌々と明かりが灯っており、まるで昼間のように明るい。理由が、『暗いと怖いから』だ。ここで笑わずにいつ笑うという。
その明るい部屋でもぞもぞと動く毛布の塊が居たので、おいと後ろから声をかけた。それだけでソファーから転げ落ち、頭をラグの中に突っ込んでブルブル震えるツナの姿を見る事が出来た。
笑うって。
「もう、黙ってここへ座ってろ。う、動くな!」
「なんで」
「便所は行ったか?そこにビールがある。ピザも。動くなよ」
ツナはXANXUSをソファーへ強制的に座らせると、毛布ごとその膝に移動した。
カタカタカタと小刻みに揺れる肩が視線の直ぐ前で震えている。
「そんなに怖いなら見なきゃいいじゃねーか」
「わわわかってないなー………今止めたら続きが気になってどっちにしろ眠れないだろ!」
「あぁ………分かった分かった大声出すんじゃねえ」
「聞かれたから答えただけだよ!」
いつもは声を荒げる人物ではないのだが、恐怖のせいでツナはことごとく過敏に反応する。
「ヒイー!」
画面では腐敗し、顔面が溶解した(………という設定だと思われるが、驚くほど稚拙な特殊効果だ。ギャグにしか見えない)ゾンビが生存者が閉じこめられている部屋へなだれ込んだシーンである。
「終わった?終わった?」
「まだ食ってる」
「ぎゃー!」
目を手で閉じて指の隙間から見る、という子供のような仕草をしてコッソリ伺っているツナは、あきれ顔の男の膝の上でじたばた暴れた。
「ギャワー!」
「怖いかこれが」
「怖い!」
断言である。
とりあえず、身体の上で暴れられるとうっとおしいので腕を回して抑える。毛布の上からでも小刻みの震えが伝わってきた。
「ちょっ………もっ………ちゃんと、う、後ろとか気をつけろよな!なんでこの人たちこんな不用心なの?!?さっきそっからゾンビ出たじゃん!!!」
「………そーしないと話進まねぇんじゃねえの?」
「分かってる、分かってるけど!」
XANXUSにつっこませている事実にツナが気付いていたら、何か色々ショックなどうけたかもしれない。
しかし今はそれどころではない。
「あの………」
画面が更に血みどろーのどろどろーになってくると、ツナは遠慮がちに振り返った。
「あン?」
「もっとちゃんとこう………あんまり離れないでくれる?」
ふんぞり返るのが常のXANXUSの体勢に、ダメ出しが出た。
「お前が………」
「駄目だ!腹は柔らかいからゾンビがいの一番に食うのだ。俺はアルマジロの如く腹をガードする」
「だから食わねえって。映画だろ?」
「いいからちゃんと抱いて!」
「お」
なかなか聞けない積極的な台詞。しかし―――
「今一人になんてしたらお前のブーツにマヨネーズ入れてやるぞ」
若干涙目でツナが突き付けた脅し文句には、悪ガキ根性しか感じられなかった。

―――退屈だ。
始まって20分。既に眠気の襲ってきたXANXUSは、猛烈な眠気と退屈さ加減に嫌気が差している。
ツナが画面を見る目は真剣そのものだった。
ご要望通りしっかと抱いてゾンビ映画を見る際の精神的支えとなってやったのに、少し色気を出して毛布から突き出た首に吸い付くと、「邪魔すんな!」の怒鳴り声と共に手が飛んできて首がゴキッとかグキッなんて音と共に、危うく変な方向へ曲がるところだった。
畜生つまらんくだらない。
眠ってしまおうとすれば「ちゃんと起きてなきゃ意味ないだろーがー!」とガクガク揺さぶられて起こされるし、どうすればいいのだろう。
「寝るな!寝たら死ぬぞ!」
「殺してぇ………」





数日後、ゾンビ熱もさめやらぬツナの元へ、DVDを持ったXANXUSが再び訪ねてきた。
連絡が無かったので先日のアレで懲りたのかなあ、流石に悪いことをしたなと思って反省中だったツナはそのおどろどろしいパッケージにもめげず、付き合う事を承諾した。
「でもいいの?この間あんなに苛々してたのに………」
「自覚あったのかよ」
「う、痛い痛い鼻つままないで」
ツナはいつも通り、映画セットを持ち出してきた。お気に入りの炭酸飲料、ハイおっさんにはビール、ピザはこの間くったからポテトチップスでいい………?などと、お伺いを立てる。
「なんでもいい」
「あーそーなの」
そして必需品、例の毛布も取り出してくる。
「よし、さあこい」
先日と同じ体勢で気合いを入れ、ツナはしっかりと目を見開いた。

映画の内容は、どちらかというとホラーに分類されるものだった。
ドライブしていた男女が、道を間違えて蔦の茂る古い屋敷に辿り着く。車の故障、女のヒステリーなどお決まりのストーリー展開、チャチなセットがB級映画らしさを醸し出しているが、薄暗い画面の時点でツナは十分怖がっていた。
「え、何次どーなるのさ??!」
「知らねぇ」
「ええっ?!」
画面では怪しさ満々の屋敷にもかかわらず、豪華な内装に浮かれた女が勝手に泊まることに決めていた。彼氏の方も満更ではなく、二人は部屋に入って行く。恐らく危機管理能力はゼロ、ネズミ並の知能しか無いに違いない。女が浴室で蛇口を捻ると、空き家の筈の屋敷はホッカホカのお湯が出てくる。こんな幽霊屋敷大歓迎だろう。
XANXUSでさえ色々とつっこみたい、荒いシナリオだがポイントは其処ではない。

女はバスタブに湯がたまるやいなや、妙なBGMと映像効果と共にスルスルと服を脱ぎだした。
惜しげもなくさらされた美女の裸に、急転した音楽と暗闇からのびる手が迫る。ビクンッと震えたツナを押さえてやり、さりげなく少しずつ後ろに倒れていく。女の足首に黒い手が絡みつき、悲鳴があがる寸前でもう一本が口を塞いだ。
「うーっ………?」
怖い場面を想像して肩を竦めたツナ。
少しして、目を開くと、画面では黒い手袋をはめた彼氏が彼女の上に乗っかって胸を揉みしだいていた。

………なにコレ。

「っていうかこれ完全にアウトだよな。胸どころか修正もかかってないじゃん」
「あぁ」
「え、あれ、幽霊ものじゃないの………?」
パッケージにのばされた手を掴んで押さえ込むと、やっと気付いたらしくツナは顔を引きつらせて振り返った。
「あのさ………コレ」
「邪魔にならねぇだろーが」
「は………はは」
「簡単だぜ?同じ事するだけ」
「や、冗談でしょ?」
「そう思うか?」

ニッと歯を見せて笑う男の腕は、少々の事では外れそうになかった。



2006.7.3 up


ノーマルVr.

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