※皆さん揃って人外設定です

 

どうしてあちらさんからは、人の話を聞かない思い込みの激しい厄介なタイプばかりが大挙して押し寄せてくるのだろう………ツナはすっかりイタリアという国に偏見を持ってしまった。それまではピザとかパスタとかイタメシ屋ーなおいしそうーなイメージしかなかったのに。
しかも普通の人間ならうやむやにしてオシマイなんて手も使えるのに、あちらも普通じゃないから厄介だ。現に一番最初の訪問者、そしてツナの家庭教師であるところのリボーンはマフィアで殺し屋で吸血鬼である。この一族、実に勘が鋭い。上に、賢く、強い。吸血鬼はその性質故に社会的地位が高い職につくのが常套なのだが、同時に彼らは冷酷で閉鎖的で一族で集まっているという性質も持っている。裏を返せばこれほどマフィアに向いている存在も居ないわけで、話を聞くと裏社会のボスや幹部の多くは闇の眷属なのだと言う。
リボーンの召集に応じたマフィアの息子獄寺もそうだ。リボーンの元弟子―――つまりツナにとっては兄弟子のディーノも同じく。それをいうならボンゴレボスは代々吸血鬼の一族であり、実は実は遠い先祖の血でしっかりと結ばれた沢田の家もやはり少しは入っているのだった。ツナの父親家光は―――最近までぜんぜん知らなかったが吸血鬼の力を持っていた。割合的には半分半分だと笑うが、その残り半分だって得たいが知れないとツナは怪しんでいた。半分吸血鬼なだけではツルハシの一撃で山にトンネルを貫通する必殺技は得られないと思う。
こうしてぐだぐだとくだらない思考を遊ばせている間も、ツナは大ピンチに陥っていた。最近張り切ってやってきた海の向こうの一団はボンゴレなのにツナをこの世から抹殺すべくやってきて、お前なんかにボスの座はやらんと実に一方的な通告をして殺る気満々だ。
はっきり言って迷惑だ。





「10代目………」
獄寺はジリジリとあせっていたが、隣で腕を組むリボーンは余裕をぶっこいていた。
彼が一族の血を込めた弾をズドンとツナに打ち込むと、ツナはその身に眠るボンゴレの血を覚醒させハイパーな吸血鬼戦士として目覚める。確かに、強い。しかし………
「相手はライカンスロープ………単純に、身体能力だけなら、オレ達吸血鬼よか上の連中ッスよ?!」
「だからこそアイツはボスに選ばれなかった訳だがな…」
ヴァリアーのボス、XANXUSはボンゴレ9代目の実の息子ではあるもののライカンスロープである母親の血を色濃く継いでいる。
「確かに戦闘能力だけならライカンスロープは俺達に勝る。が、その分ファミリーのボスには不向きだ。興奮するとぶっちぎれて皆殺ししちまうような奴ボスに出来るか」
高い知能を持ち、冷静で冷酷な判断が可能である吸血鬼に代々その役割は受け継がれている。
「ツナも欠片とは言え、吸血鬼のはしくれだ。アレよか向いてんだろ」
「もちろんボンゴレ10代目は沢田綱吉さんをおいて他にありません!」
けどこの勝負は圧倒的に不利………
獄寺は口にこそ出さなかったが、内心ではそう思っている。無論吸血鬼とて勝機が無いわけではなく、力は強いが応用が利かないライカンスロープ相手ならば五分五分。ただ、ツナはとても血が薄い。能力を引き出すのに手間がかかるくらいなのだから。
「………ま、それだけじゃないけどな」
知ってか知らずか。
リボーンは獄寺の焦りを他所にほくそ笑む。
丁度そのタイミングで、フィールド上のツナが助けを求めるようにリボーンを見た。
「よし、ツナ、いいぞ」
「いいって何がー!」
「行け」
「………って行けるか!ホ、ホラホラアレ!アレくれないと」
ズガン、ズッガーンと身振り手振りで訴えるツナに、リボーンはふるふると首を振る。
「いらねぇ」
「なんですと―――?!?」
「今回は、そっちじゃねえ」

リボーンは自信たっぷりだがツナは青くなってガクガク震え出した。
「そそそそっちってまさか………」
「いいから行け。おい、始めて良いぞ」
「いやだ―――!!!」

ツナはリボーンの言いたいことが分かっていたが、分かりたくなかった。
(そんなの、ここでどうするんだよっ………)
確かにツナには吸血鬼の力の他、もう一つ奥義があるっちゃあある。
しかしこの場合は何の役にも立たない………
「つ、使えないよあんなの!」
「四の五の言わずにさっさとなれこのバカ、アホ、マヌケ」
「そんな無茶なー!」

「………あのガキ、何をごちゃごちゃやってやがる?」
「何か裏がありそうだね」
対するヴァリアー陣営は警戒するように身構え、まだヒーヒー喚いているツナに注意を向けた。
しかし気が短いXANXUSは既に戦闘態勢に入っている。
全身から立ち上る怒りの気配が、ますますツナを怯えさせる。
「そら行け!」
「ううっ………分かった」

ツナは決心したようにこぶしを握り、手に力をため、周囲の注目を一身に集めながら目を閉じた。
全身から淡い光りが立ち上り、その姿をどこからともなく現れた霞みがうっすら覆っていく。皆が固唾を飲んで見守る中―――…

「で、出来た」

「………」
「………」
「………」


皆、きょとんとしている。
XANXUSなど呆れたように突っ立っている。
当のツナ本人は、もぞりと膝を擦り合わせた。


「………な、なんスか」
驚くのも無理は無い。フィールドの中央に立ち尽くすツナの姿はいつもよりも一回り小さく幼い。むしろ弱そうになっている。
服も、今まで来ていたものではなく木綿の粗末な着物に、大きな帯、という時代をまったく無視したコーディネートだった。
「座敷わらしだ」
「座敷わらしぃぃぃ?!?!」
「うっうっうっ………」
だから言ったのに………
ツナは恥ずかしさにもぞもぞした。

「奈々は由緒正しき座敷わらしの一族だからな。ツナも、どっちかっつーとそっちの血が濃いみたいだぞ」
「ででででも座敷わらしって」
強いの?
此処に居る皆が思う。
呆れこそすれ怖がったりはしていない。XANXUSは突っ立ったまま苛ついたように視線を巡らした。
「………で?オレから行っていいのかよ。手加減しねぇぜ」

ぶわ、と全身の毛を逆立て、カッ!と歯を剥いて目を獣のように光らせる。ヴヴヴと空気が軋み、体中の筋肉が隆起し、XANXUSは着ていたコートに手をかけ、がばっと裾を割り脱ぎ捨てた。ライカンスロープの変身である。宣言どおり―――最初から手加減なしで行くらしいと皆が息を飲んだその時。

「わああああああ!!!!」

甲高い悲鳴がした。ツナである。
彼は真っ赤な顔を小さな両手で覆い、ふるふると首を振る。

「………なん」
「座敷わらしって、知ってるか?」
リボーンが冷静に問うたところ、獄寺は慌てて考える。
「ええと………福の神の一種ッスよね………家が栄えるとかなんとか」
「まあそうなんだがな。古い家に住み着く子供の姿をした妖怪で、夜中にいたずらをしたりする。寝てる奴の枕を取ったり、上ったり………大抵一人になると出るんだ」
「はあ」
「つまり、相当恥ずかしがり屋だ」
「そうみたいッスね………」
「目の前で人に服を脱がれたりするのはたまらんだろうな」
「………」
その通りだった。
ツナは呆然としているXANXUSを避けるようにくるりと背を向けると、あまりの恥ずかしさにぺたんとその場に座り込んでシクシク泣き始めた。
「………う」
「逆に俺達吸血鬼なんぞはえらくプライドは高ぇし、自負心も相当なモンだ。人前にツラ晒してナンボだろ?ライカンスロープだって同じさ。一々裸気にしてたらやってけねえぞ」
「………ぐ」
「つまり」

獄寺は微妙に前かがみになっていたし、他の面々もおちつきなくそわそわと視線を逸らす。
一番あからさまなのは一部始終を真正面で見ていたXANXUSで、脱いだコートと己の裸身とツナを交互に見ている。

「この俺でもクるからな」
「ぐぐぐぐ」
「家光もコレにやられたってな………言ってたぜ」
「ふんぬぬぬ」

己の裸身を晒すことをものともしないライカンスロープに、他人がそうしたというだけで泣く程恥ずかしがるツナの姿はさぞかし奇異にうつったことだろう。
そして獄寺は思った。
未知のモノを見ると、惹かれるのだ。

っつーかヤバイ。それはヤバイッス危険ッス10代目。

既にXANXUSに殺気はひとかけらも残っていなかった。
ひっく、ひっくとしゃくりあげるツナの元へゆっくりした足取りで歩み寄ると―――
そのまま無言でころりとその小さな体を押し倒し、覆い被さった。

「わーっボス!!ちょっと待っ…!!」
「ぎゃあああてめええなにしやがるうううう!!!」
「勝負あったな」



2006.6.20 up


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