※皆さん揃って人外設定です
(とんでもない目に遭った…)
小さな座敷童は雑多な通りをパタパタと走り抜けた。
体格が良い獣人や長身の吸血鬼に混じるその姿はかなり異質である。
皆振り返って見たり、つついたり、卑猥な言葉をかけてくる者まで居た。
(どれだけ節操ってもんがないんだ)
今の綱吉の姿は完璧な子供。そんなものを相手にしようというのは、変態でしかない。
伸びてくる手を振り払いながら、なんとか静かな場所を捜そうとよそ見ばかりしていた綱吉は、前から来る車に気がつかなかった。
キキィー、というブレーキの音が響き渡る。
「わあっ…!」
それはぶつかる寸前で止まった。
車と言っても、閉じられた空間であるこの世界で排気の悪いガソリン車など使えない。
男が走らせているのは、人の乗る車に似せて作られた、この世界特有の車だ。
中のエンジン部分には力のある魔物をバラしたパーツが入っていて、その力で走っている。簡単に手に入る物ではなく、余程の地位や特殊なコネが無いと乗れない。
(リボーンも何台か持ってたっけ)
ヤツじゃあるまいな、と目つきを悪くして振り返った綱吉は、運転席から降りてくるその姿に見覚えがないことにほっとした。
「大丈夫かな?」
「……」
リボーンとは対照的に、全身徹底的に白、という男だった。
薄い目の色や、掴み所のない雰囲気。それにこの匂い。
「うん?」
微かな花の匂いを漂わせ、全てを見透かすような独特の視線を向ける。
夢魔の一族だ。
人を糧とするその性質は吸血鬼と非常に近いが、彼等はもうちょい親しみやすい。ただ、気を許しすぎると、気付かないうちに食い物にされる。
そこそこ危ない連中である。
「見慣れないね、新顔かい?」
「……」
普段の綱吉ならすみませんと言ってさっさと逃げたろう。
ところが今は座敷童。口もロクにきけず、真っ赤になって口ごもっているだけである。
着物の裾を弄りながら地面を見ていると、ボロボロと涙が零れてきた。
「うっ…うっ…」
座敷童は日本の古民家などに住み、家人や、気に入った者の前にしか出てこない。
こんな大勢にじろじろ見つめられる事は、耐え難かった。そのまま気配を消して、消えてしまおうとした時だ。
「びっくりさせて悪かったね。車にお菓子があるよ」
「……?」
「みんなキミにあげるから、おいで」
童、子供である。
子供はお菓子という言葉に滅法弱い。綱吉はぐずりと鼻を啜り上げると、男の服の端っこを、ちょっとだけ握った。
「いい子だね。よしよし」
頭を撫でられると、良い気分だった。
夢魔は相手の心が望む物を覗き見て心地良い夢を与え、その生気を吸い取る。
男は綱吉の不安に思っている心を即座に見抜いたのだろう。
(なんか…いい人っぽい気がする…)
もちろんこれは夢魔の力なのだが。
車の中は、男の言うとおりお菓子でいっぱいだった。
綱吉はお菓子が山になっている後部座席に潜り込むと、手当たり次第食べ始めた。
「こっちにもちょうだい」
「ん」
マシュマロにクッキー、チョコレート。
せんべいや金平糖まである。夢中で食べまくる。
夢のように幸せだ…
(おいしいなあ)
砂糖の付いた指先をぺろぺろ舐めていると、車はどんどん人気のない寂しい道に入っていく。
整えられた道路はすぐに尽きてしまい、砂利道になり、それさえ無くなっても、男はスピードを緩めようとしなかった。
二十分も走ったろうか。ガンガン進んでいく車はやがて林の中に入っていき、沼のあるひらけた所で停止した。
「さて」
車中のお菓子の三分の一は食べ尽くしていた綱吉は、妙な気配にハッとする。
「あ、う」
「恐がらなくていいんだよ」
にっこり笑う男は、相変わらずいい人に見えるのだけれど…
(なんか、おかしいな)
鼻がムズムズして、座敷童はくしゃみを二回した。
その刺激で花の香が一瞬途切れる。お菓子のくずで汚れた自分の膝が、カクカクと震えていた。
(アブナイ)
綱吉の意識は男に操られ始めていたが、体の方は不穏な気配を察して震えている。
「キミはなんていう種族かな? じっくり調べる必要がありそうだね」
「う、うう」
その手から紅白あられがパラパラと落ちた。
ひっく、ひっくとしゃくり上げる音が次第に大きくなる。
その目に大粒の涙が光った時、どこからともなくドロドロと地鳴りが響いてきた。
2009.3.12 up
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