※皆さん揃って人外設定です
指摘されるその時まで気付かなかったのだが、確かに最近よく食べているかもしれない。
「何かお腹空くんだよね」
本日三杯目のご飯をよそうと、ツナは食卓に戻ってガツガツと食べ始めた。母は目を丸くしてその食べっぷりを見ていたが、良いことだとニコニコしている。
(確かになぁ…)
成長期だと言い切ってしまえばそれまでだ。だが、それまでどちらかというと自分は小食のたちだった。いきなりこんなに食事量が増えるものだろうか?
(ごはんだけじゃないもんな)
小腹が空いたと戸棚をあさる。カップ麺や、足りなければトーストを二、三枚焼くこともある。ベッドに入った途端腹が減っている事に気付き、落ち着かなくなるとか。
だからと言って体型が変わるわけでもなく……食べた物を本当に消化しているのだろうか。
急にツナは不安になった。基本後ろ向きの男である。
自分にいい変化が訪れるなど信じていない。なんかおかしな事になってるんじゃないかと思い。
滅多にない事だが、彼は父親に電話した。
音信不通が常の男が、すぐに出たのは驚いた。少し戸惑いを覚えつつ、近頃の不調を訴えた息子に家光は『ああ、良くある事だ』とカラカラ笑いながら教えてくれた。
『成長期だろう』
「……やっぱその程度だよね」
父さんは、という末尾の一言を飲み込んで、ツナは顔を顰める。
『いやあ、ほら、おまえは普通の人間と違うだろう』
「おかげさまでね」
『あれ怒って…る? ツナ? 綱吉?』
「別に怒ってない」
失望しているだけである。それに父親の声は相変わらずバカでかくて耳がキーンとなる。
『あのなあ、お前、最近ちょっと目覚めたろ』
「はあ?」
『だから、前はオレ達の血を込めた弾丸で吸血鬼の血を無理矢理呼び覚ましてたんだな、ウン。それが』
「あーそうだった」
『弾なしで自分で変身したんだろ? 気が高ぶって自然に枷が外れてしまったんだな』
「あー…」
あまり思い出したくない思い出である。
以前ツナの命を狙っていた獣人男に襲われて、何かの拍子にぶっ千切れたらしい。
気付くと服はボロボロ周りは呆然、口中血まみれだし、まったく恐い思いをしたものだ。
「う」
血まみれのくだりを思い出すと、ぐうと腹が鳴った。
空腹を感じているのだと気付くと、ツナは俄然焦りだした。
『まあ若い時分にはよくある事だ。時が経てば自然に…』
「ちょっ、何それつまりどういうこと父さん!」
『飲みたくなったら我慢はしない事だな。ただしちゃんと相手の許可取らないと駄目だぞ? 勝手に飲んでバイバイって訳にはホラ、いかんだろう』
「知らないよそんなこと!」
電話口で叫びながら、ツナは溢れる唾液を抑える事ができなかった。
普通の食物で物足りなかったのは、それはつまり血が欲しかったという事か。それも…
(パックならウチにもある、けど)
冷凍されている血液より、新鮮なものがあるじゃないかと。
ツナの騒ぎ出した腹の虫はそう訴えていた。
生臭い、鉄の匂い。生暖かいものが喉を落ちていく瞬間に感じる、独特の満足感。
「げえっ」
何をキモチワルイ想像してるんだと振り払う。しかし一度気付いてしまえば、欲求は底無しだった。
(の、飲みたいの、俺)
後から後から沸いてくる唾液を飲み込みながら、ぶるぶると頭を振る。
梅干しを食った時以外にこんな状態になるなんて。確かに異常だ……
「どうしよう…」
あらぬ方向を見つめつつ、ブツブツと呟くツナを気にする者は居ても、気に留める者は居なかった。
足が向くままにぶらぶらと街を歩いているだけ。
行き交う人間の匂いを無意識に嗅いで、ハッとして振り返る。女性の香り。くたびれた作業服を着た交通整理の男性。寒さをものともせず走っていく子供とか。
コート姿の若い女性が二人、側を過ぎた。
(薄い)
無意識にそんな事を考えてしまう自分に恐怖する。普段なら綺麗だなと思うはずの細い足や肌の白さが、まったく要らない、忌々しいものに思えてしまう。
あんな細い首では、少し食い込ませただけで砕けてしまうだろう。吸血鬼の鋭い牙を操り、相手に負担無く血を吸うのは熟練者でなければ無理だ。
一度血を吸っただけの自分では。
(うっ…)
そう、たった一度だけなのに。
厚みのある塩辛い肌の味まで思い出してしまうと、うんざりすると同時に腹が一際派手になった。
そんな事はしたくない筈なのに。
まあ、あれなら、了承を得ようが得まいがどちらでもいいような気がするが。多分怒るだろうし、殺される。
「はぁ」
帰ろう。
ポケットに冷たい手を突っ込んで、息を吐いた時だった。
「おいチビ、何やってんだぁンな所で」
ぽすんと頭をはたかれて振り向くと、細長い人影。
白く長い髪が寒風に揺れている。
「……スクアーロ」
「おう。一応、名前は覚えたみてぇだなぁ」
「顔色……悪」
「あぁん?」
眉を顰めた男に、ツナは悲しげに首を振ってみせた。
(だめだこれ)
スクアーロは獣人であるザンザスに仕えている――とは言え、彼自身は吸血鬼なのである。全然駄目だ。
それは、吸血鬼同士でも吸血行為はある。それによって相手の様々な事を知ったり、能力を移す事さえ可能だと言う。
しかしあくまでそれは儀式的なもので、食事ではない。
日々の食事にはもっとボリューム的なものが必要だ。力に溢れ、味の濃い、多少吸ってもビクともしないような……
「!」
ツナはそれまでの憂い顔を綺麗サッパリ捨て、笑顔でスクアーロを振り返った。
満面の笑みである。多少焦りの色は見えるものの。
「居るって事は、居るって事だよね?」
「何の話だ」
2010.2.15 up
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